三十八話 学校と言う名の牢獄
道仙くんが言うには………。
最初は皆で一緒になって一番安全な場所に立てこもっていたらしい。
その場所は家庭科室で、少ないけれど食料もあり、少しだけ広い教室でもあったのでともちゃんやみんなはそこで救助が来るのを待っていた。
もちろんともちゃん達以外の人たちもいたけれど、逃げている時に『感染』者に掴まってしまった人もいたけれど、その人達を助ける余裕がなかった。
助ける前に自分の命を優先にしている人が多かったこともあって、残った人たちは二十人ほどだった。
道仙くん、ともちゃん、壁家くん、射鉄くん、影野くん、笹江さんも入れての二十人は、私達が図書館で拠点にしていた時の人数と比べると、少なすぎる………。
金剛寺さんは言っていた。
「学校は他の所と比べて比較的人が多い場所だ。欠席している人を含めなくても、相当な数になる。『感染』爆発が起こっても仕方がない。むしろ――学校は。『感染』爆発が起きる絶好の場所だ」
二十人でも生存者がいただけでも奇跡だ。
金剛寺さんは驚きながらも静かにともちゃん達に激励を送る。
送ったけれど、ともちゃん達の顔は優れない。
どころか暗くなる一方だ。
きっと、じゃない。多分この数日で、籠城していた学校の生存者たちにも変化が起きていたんだ。
図書館を拠点にしていた時だってそうだ。問題が起きることは必然。
道仙くんは続きを話し出す。
家庭科室に籠城し、少しの食料を食べて命を食い繋いできたけれど、限界がある。
その限界があっという間に来てしまい、食料が尽きてしまったのだ。
こんな世界になって最初の壁として現れたそれは、ともちゃん達の心を少しずつ削っていったに違いない。図書館では金剛寺さんを筆頭にして行動していたみたいだけど、学校のみんなはそうとはいかなかったらしい。
影野くん曰く――食料調達のために二人一組になって近くにコンビニで食料を調達しようとしたみたいだけど、コンビニはもうもぬけの殻で、食料と言う名の食料はなく、腐ってしまった調理パンや痛んでしまった牛乳、あとは割れてしまった酒瓶や蠅がたかっている野菜や生ものが散乱していたそうだ。
牛乳に至っては腐っていたこともあってかなりの腐臭がしていたみたい。
そんなコンビニにあるものは、食べれない日用品ばかり。しかもほどんどないから持っていける物もなかったみたい。
何の成果もなかった。
その結果が――籠城していた人たちの心を抉って、少しずつ狂っていった。
影野くんはそう言って口に手を添えた。
まるで――思い出してしまい、吐き気を催したかの様な………、ううん。本当に吐きそうな青ざめた顔をしてうっと唸っていた。
それだけでも私達が経験してきたこと以上なのに、それ以上のことがあるのか? と疑ってしまいそうになる内容に、私もお兄ちゃんも、金剛寺さんも言葉を失ってしまう。
困惑と驚きを顔に出している私達をしり目に………ううん。違う。皆、私達に伝えるために頑張っているんだ。皆――この学校で起きたことを話して、何とかしてほしいって願って話しているんだ。
本当にそう思っているのかは定かじゃないけど、それでも何とかしてほしいような空気は私でもわかる。汲み取れる。
だから私は皆の言葉に、ともちゃん達の言葉に耳を傾けた。
金剛寺さんも、お兄ちゃんもそれを汲み取って、耳を傾ける。
次に話したのは壁家くんだ。
コンビニの出来事から、一人、また一人籠城している家庭科室から抜け出して、最終的に五人が命を落とした。それが五日間。
一日に一人。昔はやっていた人狼ゲームのように、一人ずついなくなっていった。
五人の内三人は自殺。
後の二人はこの状況に耐えきれなくて逃げるも、『感染』者に食われて『感染』者になっていた。
残り十五人になったところで、射鉄くんが藁にも縋る思いでSNSのSOSの投稿をしたけれど、それも見ている人がいるかわからない。
こんな世界になって、僅かにネットワークが繋がっている状況で誰が見るのかわからないけれど、それでも僅かな希望を胸に投稿した。
あれ、射鉄くんが投稿したんだ………。
驚きもあったけど、みんながいた状況なら、それをして僅かな希望に託すのも分かる気がする。
もしかしたら自衛隊か、政府の人が見ているかもしれないし、それを見て救助に来てくれるかもしれないって思ったら、行動するのは当たり前だ。
でも――結果は最悪。
すでにハッシュタグが付けられたSOSの投稿はどこでも行われていたらしく、最悪なことにフェイクの投稿がたくさん出回ったせいで、本当に救助してほしい人の投稿が流れてしまう事があったみたい。
射鉄くんが投稿したそれも――流れてしまうくらい………。
流れてしまう投稿。
そしてフェイクだと誤解している人たちがたくさんいたこと。
更に追い打ちをかけるように水の供給も無くなってしまった。
ライフラインの完全消滅。
これは、生存者にとってとてつもない痛手で、肉体的にも精神的にも磨り減ってしまうくらい苦しいことだったみたい。
私の時はかろうじてライフラインは保たれていた………というか作って繋いでいたから、そこまで苦ではない。でも、大きな建物――学校は図書館とは違う。
範囲が広い分『感染』爆発も起きやすい。
そしてその『感染』爆発で『感染』してしまった『感染』者はどんどん増えていく。
増えていき、生存者が減り、逃げる場所も無くなっていく。
学校がどれだけこの世界に於いて閉鎖的か。この世界で危ない場所なのかを痛感してしまう。失礼な話だけど、引きこもっててよかったと思ってしまった。
みんなに悪いけど、そう思ってしまうのも無理はなかった。
疲弊して、精神的にも余裕がなくなって、お腹もすいた時――一番安全だった家庭科室もどんどん危険になって、近くまで『感染』者が来たところで、一人がこんな提案をしてきた。
『何人かをあいつらの囮にしない?』
と――




