三十五話 フィクションではなくノンフィクション
ともちゃんから聞いたパンデミック後の学校の情景は、凄惨な内容だった。
よく漫画でパンデミックが起きる展開はある。その展開で誰かがゾンビになったり、大切な人がゾンビになったりと、こんな時に言う事じゃないけど、小さなドラマが起きているように感じた。
でも、所詮はフィクション。
この状況もフィクションかもしれないけどノンフィクションで、今までマンガと言う世界で見てきた世界は――作られた世界なんだ。
現実の世界はそんなドラマが起きるわけがない。
パニックはパニック。
学校で不審者が出た時とかの想定は出来ても、ゾンビは出来ない。
ううん。この場合は『感染』者。
『感染』者相手に予想するなんてできないし、一人がパニックになったら集団パニックが起きることは必然。
そんな状況の中、ともちゃんは生き残ったんだ。
ともちゃんは肩を震わせながら『それで……、そのあとはね………』と、引き攣った笑みを浮かべながら私達に説明しようとしている。
明らかに無理している。
無理しているともちゃんは見たことがないけど、これは誰が見ても無理していると思ってしまう。
………無理も、ないよね。
だって、学校で起きたことを話している。怖かったことを話すことは、かなり精神的にもキツイ。
私も、お母さんが『感染』者に殺された時、そしてリンさんと別れた時のことを話すのは………、まだ整理がついていないし、話しているうちに泣いてしまう自信がある。
だから私は、ともちゃんの肩に手を置いて言った。
「もう、いいよ………。もう大丈夫。それ以上言わない方が、いいよ」
その言葉は止めるための言葉。
私の言葉を聞いて、ともちゃんは私のことを見ながら茫然としたそれで、安堵の息を吐いて尻餅をついてしまった。
ううん。これは――腰が抜けてしまったかのように、『ぺたん』と座り込んでしまった。
きっと、安堵のあまりに力が抜けてしまったんだろう………。私はそんな彼女の肩に手を添えて、落ち着くまでそのまま一緒に座る。
お兄ちゃんも金剛寺さんも、何も言わない。
きっとそれ以上聞くのは酷だと思ったに違いない。
私もその一人だ。
こんな状態でともちゃんにこれ以上のことを聞くのは駄目だと思う。
そしてともちゃんが言っていた――三日前にここに籠城していることも、今は聞いてはいけない気がする。
私達がここに来た理由はSNSに投稿されていた内容。
それでここまで来て、一体この学校で何があったのか。
それは喉から手が出てしまうほど聞きたい内容だったけど、今それを聞いてしまったらだめだ。ともちゃんのことを見て、ともちゃんから聞いた内容を聞いた瞬間、察してしまった。
これは聞いてはいけない。
心の傷を抉ることになる。
もし、もしここに荒木さんがいたら聞いていたかもしれないけど、きっと金剛寺さんかお兄ちゃんがそれを止めているに違いない。
聞いてはいけない。
今は、聞いてはいけない。
あのことを聞くのは――SNSのことを聞くのはまた今度にしよう。
籠城の一件も、まだ聞くのは早い。
そう思った時だった。
――ごとんっ――
「「「!」」」
どこからか音が聞こえた。
それは人為的でないとまず出ることがない音で、何か重いものが風に揺られて当たったって言う音ではなかった。
そう――それは、明らかに何かを落とした音。
その音が聞こえたのは、理科準備室から。
多分どの学校もそうかもしれないけど、理科室には理科準備室という、危険な薬物とかを保管したりする鍵付きの教室がある。この学校もそれで、スライド式のドアとは違い、鍵穴がついているドアノブがついたドアの向こうから、それは聞こえた。
何かを落としたような、そんな音。
その音を聞いた私達は三人は、そこに視線を向けて、聞き耳を立てながらそのドアを見つめる。
もしかしたら――そんな想定をして………。




