三十四話 その時、学校は――
あの日、うちらが普段通り学校に登校して授業を受けていたんだよ。
勿論あいつもいたし、みんないた。その日の授業は眠い国語でさ、しかも音読している時だったから眠くて仕方なくて、暇ってわけではなかったんだけど、その時、偶然外を見たんだよ。
あ、うちって窓際の席でさ、そこからたまーにカラスとか見ていたんだけどさ、その日に限って外がうるさかったんだ。なんか、叫んでいるような、そんな声が聞こえてた。
窓閉めていたから何を言っているのかはわからない。けど叫んでいることは分かった。
窓の外を見て、校門の重いドアを駆け上っていく後輩三人の姿を見て、その後輩が慌てて何かから逃げている様子を見て、これだって思ったんだよ。
騒ぎの原因は、後輩三人だって。
そいつらってさ、素行が悪い奴らで、先生も困っていたって話を聞いていたからさ、きっとやばい奴らに追われてここまで来たんだなーって思っていたんだよ。それですぐに授業に目を通したんだ。
『なんだ。あいつらに罰が降りたんだな―』
そんなことを思って、黒板に書いてあることをノートに移しながら、ノートの端に自分で考えた可愛いキャラを書いていたらさ………。
「きゃあああああああああああああっっ!」
クラスの女子が叫び出して、それを聞いたみんな驚きながらその子を見ていたんだけど、女の子は窓を見て、口元を押さえながら震えながら声を発していたんだ。
何を言っているのかわからない。というか。ただ「あ」しか言ってないんだよ。本当に何が起きたのかわからないうちらをおいてけぼりにして、その子はずっと窓を見ながら固まっているんだよ。
なんか、恐ろしいものを見たかのような、そんな顔で、マジでその時だけ、普通じゃないことが起きたかのような、そんなざわつきもあった。
「栄田さん? どうしましたか? 急に席を立たないで、あと叫ばない! 授業の邪魔になるでしょうっ?」
「あ、ああああああああ………」
「栄田さん?」
国語の直枝先生もその子――栄田さんに近付いて聞いたんだけど、その子は答えないで、ずっと窓の外を指さしていた。
『あ』しか言わないその口で、ずっと窓の外を指しながら………。
一体何が起きたんだろうって思って、うち、もう一度窓の外を見たんだよ。横目で、ちらりと――
そしたらさ………、さっきとは違った光景が広がっていたんだよ。
逃げた後輩三人の内の一人が、一緒に逃げてきた後輩二人の首元に噛み付いていて、それを見た体育の郷地先生にも噛みついて、しかも校門の前に複数の人が集まって来ていたんだよ。
血まみれで、映画でよく見るゾンビみたいになって、校門の重たいドアにのしかかっていた光景を見て、ウチも叫んじゃったんだ。
「――っっ!! ゾ、ゾン、ビ………!」
ゾンビって言葉を聞いたクラスのみんなは、ウチを見て驚いていたけど、直枝先生はそんなウチの言葉を真っ向から否定してきて………。
「佐伯さんっ! ゾンビなんてフィクションの世界だろうっ!? 変なことを言わない! 外で何を騒いでいるのか………授業にならないっ!」
そう言って直枝先生は教室のドアに向かってずんずん足音を立てて歩き始めて、うちらのことを見るために振りむいたと思ったら、先生はうちらに向かって言ったんだよ。
「いいですかっ!? 先制が戻るまで自習です! 外の騒ぎを止めに向かいますが、さぼったりしないように! さぼったら連帯責任で」
「ぎぃきぃああああァァァァアアアアァあああああッッ!!」
『――っっ!?』
直枝先生の声を遮って聞こえてきたのは、人の声見たいで、人じゃない声で、それを聞いたみんな驚いていたし、叫んだ栄田さんは立ったままの状態で声がした方を見たんだよ。うちも声がした方を見たら………、見たら………。
「あ、わ、え? なにっ!? なんでこっちにぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」
なんか、なんか………、誰かわからないけど、高校生の制服? みたいな服を着た女の人が、先生の首元に噛み付いて、そのまま押し倒して、なんか………、食べていたんだよ。
肉を食べる時の、そんな音が聞こえて、先生の叫び声も聞こえて、教室の窓に赤いそれがどんどん跳ねて、教室の床も汚してきて、それを見たみんな、うちも、声が出せなかった。
先生の叫びの中に、うちらに助けを求めているような声が聞こえてさ、だんだん、声が聞こえなくなってきて………、うちら、ただ座ることしかできなかったよ………。
何が起きているのかわからなかったよ? あの時は、でも――栄田さんがそれを見て、小さい声を出したかと思ったら………。
「きぃやあああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」
栄田さんの叫びを聞いて、先生のことを食べていたゾンビは、うちらのことを見て、すぐにうちらに向かって走って来たんだよ。
そのあとは、マジでパニックで、何が何だかわからない状況の中、色んな人の中を掻い潜ったり、突き飛ばされたり、何度も噛まれそうになったけど、何とかなって………。
机とか色んな重いものを使ってバリケードを作ったり、あとは生存した人たちと一緒に行動したりしていたんだけど、だんだんそれもできなくなって、それで………、それで………。
うちらは………、ここで、籠城することにしたんだ。
三日前に………。




