三十二話 友との再会
「死ねえええええええぇぇぇぇっっっっ!!!」
「うわぁあああっっ!?」
女の子の叫びと共に、お兄ちゃんの顔面に向かって、理科室専用の角椅子が飛んできたけど、お兄ちゃんはそれを叫びながらも何とか避けて直撃を回避する。
回避したと同時に、壁に角椅子が大きな音を立てて辺り、壁に小さな穴が開いたけど、投げられた角椅子はそのまま廊下に『ごと』と大きな音を立てて落ちた。
その音を聞いた私と金剛寺さんは驚きながら辺りを見渡して警戒する。
『感染』者がいたら音を聞いてここに来るかもしれない。
こんな状況になった世界では常識。
だから周りを見て、『感染』者がいないかを目視で確認する。勿論できる限り耳も使って、近付いて来ていないか耳を澄ませて。
……………幸い、音もないし、目視で見ても誰もいない。
漫画でよく見る『シーン』って言う効果音が、ここまで安心する。そんな世界になってしまったから仕方がないけど。
「………大丈夫そうだな」
「はい………」
金剛寺さんの言葉を聞いて私は頷く。頷いてからお兄ちゃんのことを見ると、お兄ちゃんは両ひざに手を置き、前屈みになりながら息を荒く吐いては吸ってを繰り返している。
勿論細心の注意を払って小さいそれにしているけど………。
それでもお兄ちゃん的には衝撃だったらしく、ぜぇぜぇ言いながら息を整えて、駆け寄った私が肩を叩くと、それに気付いてお兄ちゃんは首を軽く左右に振るった。
振るった後でお兄ちゃんは前を見て――肩を震わせながら一言………。
「………危ないじゃないかっ!」
………すごく小さな声で怒った。
でもあれは怒っていいと思う。だって最悪当たって死んでいたかもしれないから、当たらなかっただけ運がよかったのかもしれない。
というかあれ、誰が投げたんだろう………? それに、さっきの声、どこかで………。
そう思いながら私は視線を理科室の方に向ける。
向けて、理科室の中を見た時――私の目に入ったものは、人だった。
その人を見た瞬間、私は目を見開き、同時に色んな記憶が駆け巡って、思わずその人に向けて声をかけていた。
「え? どうして………?」
「あ? な」
声をかけると、理科室にいたその子も私を見て驚きの声を上げると、そのまま固まって私のことを見つめる。
手にはまた角椅子だけど、それでも投げる素振りはしないで、私のことを見たまま驚いた顔をして固まっている。
この学校の制服でもある緑と黒が混じったブレザー、青いチェックスカート、黒いネクタイ。胸のポケットには校章が刺繍されている。
スカートは学年によって違うから、これは三年生。
そうだ………私ももう三年生の年代だから、私もこの制服を着るはずだったけど、今はもうできない。
家に置いて来てしまったし、それに、埃がたまっている制服だから………。
制服のことはさておいて、私が驚いたのはその人の顔で、その人は私がよく知っているひとだったから。
髪の毛は茶髪で頭の後ろで一つにしているけど、髪留めはシンプルな黒いシュシュ。右手首にも白いシュシュをつけている女の子で、活発と言う印象が一発で分かる様な明るい女の子。
一言で言うと陽キャと言うものなのだろうか。
そんな女の子が私のことを見て、汚れてボロボロになってしまった服のままその子は私を見て、私の名前を小さく呼ぶ。
「の、希?」
その子の声を、言葉を聞いて私は頷き、その子の名前を呼ぼうとした瞬間だった。
――がたっ!――
と、その子は手に持っていた角椅子を手放し、それを床に乱暴に落とすと、その子は私に駆け寄って、ボロボロに汚れてしまった上履きの滑る音を出しながらその子は私に抱き着く。
ぎゅっと――強く、強く抱きしめて、そのまま私の耳元で、『感染』者なんて知るかと言わんばかりの声量で。
「のぞみぃいいいいっっ! 無事でよかったぁああああああ!!」
その子は私のことを強く抱きしめて、叫びながら泣いた。
今まで我慢していたものを開放するように、違うな………。感情が決壊して泣いた。
我慢が限界だったのかもしれない。
それを感じながら、私はその子の背中に手を回し、背中をさすりながら私は言う。
「ともちゃんも、無事でよかったよ………」
私は背中をさすりながら言う。
私のことを抱きしめて泣いている女の子――私の幼馴染の一人でもある、佐伯友香ちゃんのことを。
温かい体の温もりを感じながら私は思う。
心の底から思った。
ともちゃんが生きててよかったと――




