三十一話 ステルス・キル
「がァああぁああぁっ」
「ああああかアァぁあああアァァ」
「おぉおゴぉオああぁ」
三体の『感染』者はある教室のドアに爪を立てながらがりがり引っ掻いては開けようとしている。
でも引っ掻いたところでそれが開くことはないし、削れて穴が開くなんてことはない。
人間の――腐ってしまった指では簡単に指から爪がはがれてしまう。
その結果なのか………、教室のドアには血の線が幾つもついている。
多分足元には………、言わないでおこう。そして考えないでおこう。
三体の『感染】者がドアを引っ掻きながら呻く様な声を出して入ろうとしている。
幸い教室のドアの窓は壊れていないので、中に入って閉じ込めっている人は無事みたいだ。多分だけど………。
「入っている教室は………、理科室か」
「理科室ってことは、きっと何か道具とか、あとは調理できるものを調達しに?」
「アルコールランプとか?」
「そうそう」
金剛寺さんの言葉を皮切りに、私達は学校の窓からそれを覗き込み、札に書いてあるそれを見て小さく言葉を交わす。
正直、アルコールランプでできるのかな? と思ってしまうけど、ここから家庭科室までは遠いし、料理のためには火がないといけない。
一から作る。カップ麺を食べるた目のお湯とか、他にもいろいろと必要になる火。
一から焚火でもできればいいんだけど、それをしてしまったら火事になるから、やっぱりアルコールランプとかが必要になる。
でも、家庭科室に行けばいいのに、どうして理科室なんだろう…………。
そんなことを思っている間に、『感染』者の行動がどんどん激しくなってくる。
引っ掻いている行動から今度はドアを叩く行動になって、歯を使って削ろうとしている。ガタガタ揺れるドアを見て、もうこれ以上は駄目だと思った私はお兄ちゃんと金剛寺さんを見上げる。
二人も同じことを思っていたみたいで、私を見てお互い武器を持って頷いて、それを見て私も頷いて武器を手に取る。
あの時と同じ――バールを。
お兄ちゃんはリンさんから受け継いだ釘バッドを。
金剛寺さんは手首を動かして――私達は学校に突入した。
割れている窓から音を立てないように、そして割れて尖っているガラスの破片に気を付けながら窓に足を踏み入れて、そのまま音を立てないように、静かに廊下に足を下ろす。
周りにもガラスの破片が落ちていたので、それにも気を付けて足を下ろして、音を立てないように静かにしゃがんで近付く。
順番は金剛寺さん、お兄ちゃん、私。
この行動の方が音を立てず、且つ確実に近づくことができるやり方で、学校に辿り着く間に編み出したというか、テレビとかゲームでよくやるステルス方法を実際にやってみただけなんだけど、思っていた以上に音が出ないことには驚いた。
安定はしないけど、やらないよりはましになったと思う。
実際これで金剛寺さんは素手で『感染』者を斃すことを編み出したから。
そうこうしているうちに、私達三人は『感染』者に近付くことができた。ざっと見て――三メートルくらい。
『感染』者はまだ気づいていないみたいだ。
それを見て金剛寺さんはお兄ちゃんを見て頷いて、お兄ちゃんも頷いた後、リュックからあるものを取り出した。
お兄ちゃんが取り出したものは――石。
お兄ちゃんの手より少し小さめの、何の変哲もない石。
それを取り出したお兄ちゃんは、そのまま割れていない窓に向けてその石を――投げた。
ぽいっと、軽く投げて、放物線を描きながら石は『感染』者の後ろを通り過ぎ、そのまま………。
――がしゃんっ!――
と、窓ガラスを壊した。
穴が開くどころの話ではない。ばらばらになってしまい、その衝撃と落ちる音を聞いて『感染』者が音がした方向に視線を向ける。
それを見て、私とお兄ちゃんは姿勢を低くしながら走り、遠くにいた『感染』者二体の頭目掛けて武器を叩きつけた。
嫌な音と共に絶命の声を上げる『感染』者。
音を聞いて最後の一体が私達に襲い掛かろうとしたけど、金剛寺さんが『感染』者の首を絞め、地面にたたきつけた。
噛まれないように細心の注意。そして金剛寺さんの筋力を駆使した締め技 (独学)を受けた『感染』者はあばらから変な音を出して、一瞬悲痛の声を出したけど、その声に耳を傾けずに金剛寺さんは腕の力を強めて――『感染』者の首を力技で圧し折った。
三体斃し、それを見て私とお兄ちゃん、金剛寺さんはお互いを見て、お互いの体を見て確認する。
噛まれていないか。
それを目視で確認、噛まれていないことを確認した後、三人で一息。
止めていた息を吐き出すように、ゆっくりと、小さく吐いて――三人で理科室のドアを見つめる。
何度も何度も行動しているけれど、やっぱり慣れないし、慣れてしまって油断してしまってもダメだ。
慎重に、且つ的確にして、噛まれていないかを確認ちゃんと見て、生きないといけない。
今回は三体でよかったと思いながら、私達はドアを見て、お兄ちゃんが理科室のドアに手を掛けて、開けようとした。
瞬間――
「え?」
お兄ちゃんの呆れるほど間の抜けた声がして、私と金剛寺さんはそれを見て思考が止まってしまった。
簡単に言うと、誰かの叫びと共に理科室の窓が割れて、お兄ちゃんの顔面に向かって何かが飛んできたから。
「死ねえええええええぇぇぇぇっっっっ!!!」
女の子の叫びと共に、お兄ちゃんの顔面に向かって、理科室専用の角椅子が飛んできて。
「うわぁあああっっ!?」
お兄ちゃんの小さな絶叫が、理科室のドアの前で、一瞬響き渡った。




