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二十二話 知ってる?

 いくさんに告げた私の確証もない曖昧な作戦はこうだ。


 まず――私が最初に動くことが前提で、いくさんは『感染』者の背後から攻撃することに専念してほしい事を伝えた。


 その時点でいくさんは不機嫌な顔をしていたけど、そんな彼女のことを見ながら私は怖がりながらも続けて話しを進めた。


 私が最初に動く理由は、『感染』者の囮として動くことでいくさんから気を逸らすためであること、そして目的の場所に向かうために私が動こうと思ったから。


 リンさんやコンゴウジさんの話を聞いて、思い出したことと思ったことがあったから。


 思い出したことは――『感染』者は大きな音に反応して、音がした方に動くこと。


 これは聞いたことだからすぐに思い出した。思い出して、もう一つ思ったことがあった。


 思ったというか、こればかりは()()()()()()ことで思いついたことで、正直あそこになかったら詰んでいたか、もしくは遠くに行ってガラスを割ったりしていたもしれない。


 そう――運よく近くにあったからよかった。


 運よく近くにあった車を見て、クラクションなら大きいし、それを使って危険な目にあった映画のワンシーンを思い出したから、私はそれを使った。


 逆手にとったとは言わない。


 というかこれはドラマの見過ぎが功を奏したかのような事で、ここまでうまくいくとは思わなかったし、それに警官の『感染』者が出てきたことは想定外だったけど、何とかなってよかったのが本音。


 つまり――


 私が走る (囮として)⇒クラクション鳴らして『感染』者の気を会社から逸らす⇒いくさんが斬る。


 と言う事。


 結果的にうまくいった。


 結果オーライとはまさにこのこと。


 いくさんが『感染』者をバッサリ斬ったことでなんとかなって、本当に運がいい結果オーライ。


 後やることは………、お兄ちゃんと荒木さんを探すことだ。



 〓  〓  〓



「お前、ひょろがりのくせにあんなに早いんだったら最初から使えよ」


 終わってから第一声を上げたいくさんは、私を見ながら顰めた顔で言ってきた。


 実際そう言われると傷つくけど、私自身一瞬怖いと思って固まってしまったけど、何とか言葉にしていくさんに言う。


「あ、あの………、わ、私自身もうこんなに走れないと思って……、もう衰えているとか思っていたんで、予想外だったというか……」

「衰えてもなんでもいいから何かあるんだったら隠すなっ! 余計にむかつくわっ!」


 あとお前パルクールやってただろ陽キャッ!


 むかつく言われても困るし……、それに私、パルクールなんてやってない……っ。


「そして陽キャじゃなくて陰キャの引きこもりです………」

「――引きこもりでそんな才能あるとかどっかのツエーかよっ!」


 あ、最後声に出してしまった。


 いくさんの怒声が放たれた時、私は思わず口を塞いでいくさんに『しーっ』の合図を送った。


 勿論人差し指を口に添えて。


 いくさんは驚きながら私に掴みかかろうとしていたけれど、私の行動を見てすぐに辺りを見渡す。


 私も見渡したけど、幸い『感染』者はいない。ただ風の音が聞こえるだけ。


 それを聞いて私はそっといくさんの口から手を離して小さな声で謝罪すると、いくさんは頭を掻きながら『いいよ……。てかウチもまずかったわ』と言って会社に戻ろうと踵を返す。


 ざりっ。とコンクリートと砂利が擦れ合う音が聞こえる。踵を返しただけでこんな音が聞こえるんだ。今まで市内にいたけど、こんな音はあまり聞いていないから驚きだった。


 同時に、これが終末世界になった結果聞こえた音と言うことも実感してしまい――


 もう……、あの活気あふれた日常はないんだ。と、痛感してしまう。


 同時に――本当にこのまま世界は終ってしまうのだろうか。


 言いようのない不安が押し寄せて来る。なんか不安で苦しくなってくる。胸の辺りが気持ち悪い。


 服越しから自分のことを抱きしめると、少し落ち着いたかのような暖かさを感じたけど、それも一時しのぎ。


 なんだか……、今になって怖くなってきた。


 今まではみんながいたから考えなかったことも、一人になると怖くなるんだ。


 そんなことを考え、今はやるべきことを考えようと息を整え、深呼吸していくさんを見ると、いくさんはなぜか数歩歩いたところで立ち止まっていた。


「? いくさん?」


 声をかけるけど、いくさんは止まったままだ。


 後ろ姿で何を考えているのか、どんな顔をしているのかわからないけど、それでも私はもう一度いくさんの名を呼ぼうと声を掛けようとした。


 瞬間――いくさんは私の方を振り向く。すごく勢いがある振り向き方で、それを見た私は一瞬驚いて動きを止めてしまう。声も止まってしまった。


 そんな私に向かっていくさんはまた踵を返して、今度はずんずん歩んできたかと思うと、私の肩をがっしりと掴んで、私のことをじっと見ていくさんは聞いて来た。


 じっと――私の目を見つめて、何か考えているかのような、複雑な真面目な顔をして、彼女は私に聞いたのだ。


 ………理解できない言葉を吐いて。




「『()()()()()()()()?」




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Xから来ました! 藍空 哀です。 崩壊してしまった世界で、生き延びていく話。 とても引き込まれる始まり方に読む手が止まりませんでした。キャラクターの会話文にユーモアを感じました。そのため、一人一人が…
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