十九話 ゾンビと『感染』者
乾いているような音は重いドア越しから出も聞こえて、それを聞いた私達四人は音がしたドアを見ていた。
あの音は聞いたことがないし、何より何の音だと思っていたとき――いくさんが小さな声で呟く。
「マジかよ………。あの音って………!」
驚きからまた苛立ちに変わり、眉間にしわを寄せて、歯を食いしばりながらいくさんが言うと、それを聞いて金剛寺さんとリンさんも困惑と驚き交じりの顔でお互いの顔を見ながら言った。
「周りにはいなかったはずだが………!」
「きっと偶然だろうな。偶然ここに来て、そんでやっちまったんだっ!」
「あ、あの………」
いくさんと二人の会話を聞いていた私は、何が何だかわからない顔をして三人に声をかける。
なんでそんなに慌てているのか。それを聞くために。
「ど、どうしてそんなに慌てているんですか………? あの音は一体………」
「はぁ? マジで言ってんのかお前………」
私の言葉を聞いたいくさんは呆れたような顔をして、溜息を吐いてから私を見て言う。
親指で指を指して――分厚いドアにそれを向けながらいくさんは苛立ち交じりの言葉でこう言ってくれた。
「いいか? あれは銃の音だ。発砲音だよ」
「発砲? 銃って………、あ」
あの音の正体は発砲音。
それを聞いた時は驚きを隠せなかったけど、同時に思い出す。
あの時、ネットカフェに入った時、金剛寺さんが言った言葉を――
「こ、こん。金剛寺、さん………」
私は金剛寺さんを見る。きっと、強張ってしまって恐怖の顔になっているかもしれない。でも、私は気付いてしまった。だから、答え合わせをするために――じゃない。そうじゃないよね? と言う顔をして私は震える声で金剛寺さんに聞いた。
思い出してしまうと、脳裏をかすめるあの言葉。
『確かに壊せばいいが、その音を聞いて他の『感染』者がここに来たらどうする? それに、――――――――――― ここは鍵を開け行くしかない』
その言葉が脳を支配していく中、私は金剛寺さんに聞く。
あの時言った言葉は、このことを指していたんだと理解すると同時に、そうじゃないという考えを芽生えさせながら……。
「金剛寺さん………、まさか、この『感染』者は」
「………。ああ。そうだ」
金剛寺さんは言う。
私の言葉を聞いて、考えもしないで、言いづらそうな顔をして金剛寺さんは言った。
その通り。それを短くした後、金剛寺さんは続けて、後悔のそれを零し、頭を掴んで俯きながら金剛寺さんは続けて言う。
与えたくない。でも、こうなってしまう。
更なる絶望を与えるように……。
「フィクションのゾンビは殆ど武器を持たないが、この『感染』者は、武器を持って襲い掛かってくる個体がいる。銃も然りだ」
このパンデミックで発生した『感染』者は、銃や武器を使って襲い掛かる。
これが、ゾンビではないと判断した結果でもあり、警戒した本当の意味だ。
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『確かに壊せばいいが、その音を聞いて他の『感染』者がここに来たらどうする? それに、警官の『感染』者が来てしまったら危険だ。ここは鍵を開け行くしかない』
これは金剛寺さんが言った言葉。
ネットカフェに入った時、金剛寺さんが言った言葉だけど、まさにその通りだった。
警官は銃を持っている。それは威嚇でしか使わないとか (あまり覚えていないうろ覚えの知識)聞いたけど、まさか『感染』者になってそれを使うなんて、だれが想像しただろう?
私が見ていたゾンビものでも、銃を使うゾンビはいなかった。
ううん。固定概念かもしれないけど、銃を使うゾンビなんて見たことがないし聞いたことがない。
でも『感染』者は使う。まるで生前の記憶がそれを覚えているかのように――
だからみんなゾンビって言わずに『感染』者って言っていたんだ。
ゾンビに酷似しているけど、ゾンビではない行動をするから………。
銃は、音が大きい武器。
その武器の発砲音が出たということは………。
「急いでここを出るぞっ! 音を聞いて『感染』者が群がる!」
状況を把握したリンさんはすぐにこの部屋から出ようとする。分厚いドアに手を掛けて押したり引いたりしたけど、びくともしない。
びくともしないことに苛立って『くそぉ!』と言いながら分厚い扉を蹴り上げるリンさん。
ごんっ。と鈍くて小さい音が地下内に響いただけで、それ以外は起きていない。
リンさんの行動を見て、金剛寺さんも殴ろうとしていたそれを止めて、小さな声で『密室なのか……』と、絶望と言えるような言葉を口にする。
そうだ………。ここは荒木さんがカードキーを使って開けた場所だ。
荒木さんが持っていたカードキーで開いたということは、荒木さんが持っているカードキーがなかったら開かない。
そう――閉じ込められたんだからそう考えるのが当たり前か………。
というか、どうやってここから出るのっ!? こんなところでここを新しい拠点にするなんて言う考えは最終的な判断にしてほしい……!
でもどうやってここから出るっ?
荒木さんが来るのを待つ? それはもう無理だ。
ならここにいないお兄ちゃんにこのことを伝えて? そもそもお兄ちゃんがピンチかもしれないのにお父さんと同じことをするのっ!? 危険なことは駄目っ!
それじゃ音を出して注意を――
「!」
音………? 音って言えば………。
なんか焦りの所為で変なことを考え、そんな最中に急に冷静になる私。正直情緒不安定なんだろうな……。って思うけど、そんな時にあのことを思い出し、もしかしたら………と考えていると――いくさんが天井の方を指さしながら私達に告げた。
「あそこから出るから、少し待ってろ」
「?」
「あそこ?」
「あ」
いくさんの言葉を聞いて金剛寺さんは首を傾げ、リンさんは指さした方向を見て目を凝らし、私もそれを見て、納得した。
まず、いくさんがなんでこんなところに来たのか。
外側からしか開かない。そしてそこにしかドアがない状況の中、どうやっていくさんはこの部屋に入って私達を助けたのか。
まずはそこに疑問を持つべきだったんだ。
いくさんの言葉を聞いて見上げたところにあったのは――正方形の空洞………ううん。これは通気口だ。
「まさか、あそこから入ってここまで来たのかっ?」
「だってそっちの方が早いじゃん。鍵かかっている部屋もあって入れないとイライラするし」
金剛寺さんの驚きを聞き流して通気口に向かういくさん。
いくさんは通気口の前で止まり、私達の方を振り向きながら『じゃ』と言って、続けて私達に告げる。
「ここから出て『感染』者ぶっ殺すから。それまでここで」
「あ、あのっっ!!」
いくさんが言い終わる前に、私は思わず声を荒げてしまった。
声は密室の空間に反響して、少しの間私の声が響いた気がしたけど、それもすぐに消えて、みんな私を見て首を傾げている。
いくさんはなんか怪訝そうな顔をしながら首を傾けて『なに?』と低い声で聞いて来ている。きっと遮ったことを怒っているんだ………。
みんなの視線といくさんの殺気の視線を感じながら、私は何とか頭の中で言葉をまとめる。
ここにいてもダメだ。
お兄ちゃんが外にいる。外は危険だから、お兄ちゃんはすぐに見つけないと。
でも『感染』者もあの音を聞いて集まって来ているかもしれない。
だから――私は提案した。小さな声で最初『あ、えっと』と言って、やっと言葉をまとめた後で私はいくさんに言う。
「あ、わ、私に、考えが、あります………! つ、連れてってくだ、さい……っ!」




