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十八話 『いく』と衝撃の言葉

「何しにだと? それはこっちの台詞だ」


 あ、言ってくれた。


 金剛寺さんが私の気持ちを代弁するかのように、というか言いたかったのか、少しだけ前に進み、近づきすぎず、遠すぎない距離を保った状態で女の子に言う。


 荒げていない。でも食い入る様なそれは言いたかった気持ちを片田で表現しているんだろうな。


 茫然としている私の横で、リンさんが近付いてくれたのだろう。小さな声で「あ、言った」と、これも私が思っていることを口にして、リンさんのことを見上げながら私は頷く。


 私の頷きを見てリンさんは腕を組んで見降ろした後――小さな声で『やっぱな?』とコンタクトを取ってくれた時、金剛寺さんは『感染』者を斃してくれた女の子に向かって続けるように言う。


「『感染』者のことを斃してくれたことに関しては感謝する。俺達の手持ちでもあの数は斃せなかっただろうが、それでも俺達からすれば君が『何しに来たんだ?』と聞きたいくらいだ」

「あー。なるねー。てかおっさんたちが最初だったの? てっきりウチはウチが最初かと思っていた」


 金剛寺さんの言葉を聞いていた女の子は、心底興味なさそうな顔をして、あろうことか小指を耳の穴に入れて搔きながら言い返す。


 もう『お前等の興味なんてない』と言わんばかりの態度だ………。


 というか、一人称うちなんだ……。なんか独特………。


 そんなことを思っていると、リンさんが前に出て――女の子のことを見ながら開口『ひとついいか?』と聞くと、リンさんのことを見た女の子に向けて、リンさんははっきりと聞く。


「お前の名前は? まずはそこからだ」


 これも何かの縁だと思うし。


 リンさんの言葉を聞いて、私はやっと気づく。


 確かに………、名前がないと何て呼べばいいかわかんない。金剛寺さんも気付いたらしく、『あ』とうっかりみたいな声を出してしまう。


 名前を聞かれた女の子は『あ?』と、凄く面倒臭そうな顔をした後、少しの間考えてから零した。


 黒い血だらけになった刀を一回地面に向けて振るい、血をまき散らしてから元の鞘に戻しながら彼女は言う。


「――『()()』だ」


「………行く?」

「そう。ひらがなで『いく』な。『いく』って呼べ」


 女の子――いくさんは堂々とした面持ちで言う。腰に手を当てて、まさに『堂々としている』を体現しているその姿で言った名前に、私は困惑しながら聞いてしまう。


 ひらがなで『いく』って言う名前なんだ………。見た目に反して可愛い名前だ。


 どことなくギャップを感じさせるその名前を聞いて、少し和んでいると、いくさんは私達に向けて――


「名前に関しては返答したけど、まずはあんた達のことに関して聞きたいことがある。なんでここに来たのか話してくんね?」


 と聞いて来た。


「なぜこちらから話さないといけないんだ? 先に話してもいい事だろう? なぜそこまで順番を気にする」

「………。ウチがここに来た理由は、返答次第だよ。()()()()()()ってこともあるし」


 ? どういうこと?


 金剛寺さんの言うことは分かる。そこまで先か後かを重視するようなことではない気がするけど、いくさんは先に話そうとしない。話したがらない様子だ。


 それを見て、リンさんは金剛寺さんの脇腹を肘で小突き、金剛寺さんにアイコンタクトを取ると、それを見て金剛寺さんは腕を組んですこし悩んだあと………。


「………わかった。こっちから話そう」


 誰にでも隠したいことや、言いたくないことはあるからな。


 金剛寺さんはいくさんの意見を呑み、私達がここに来た理由を話し始めた。



 〓  〓  〓



 この時、私は気付けばよかったのかもしれない。


 すぐに気付けば、何とかなったかも………、ううん。もう無理だったんだ。


 閉じ込められた瞬間から、もう決まっていた。


 気付いたとしても、結局未来は変わらない。


 どうやったとしても、結末を変えたとしても、私達は、私は――受け入れなければいけなかったんだ。


 ああなる未来を――



 〓  〓  〓



「……………ということだ」

「なるなー。食料があると騙されてここに」

「そうだ………。拠点に食料がない焦りと、電源を手に入れた余裕で、あまり深く考えることができなかったんだな」


 金剛寺さんは俯きながら握り拳を強く作り、歯を食いしばる音を出しながら後悔の言葉を零していく。勿論この間に私達の自己紹介も済ませて置いたから、いくさんは私達のことを少し知ったことになる。


 いくさんは『ふーん』と、また興味なさげに聞いていたけれど、金剛寺さんの話を聞いて首を振るいながら――


「いんや。食料がないと死んじまうし、何よりこの状況だ。焦る気持ちもわかるし、てか電源手に入れたんだ。すげー」


 と、ポータブル電源のことを聞いて素直に言ういくさんに、金剛寺さんはなんだかまんざらでもない感じで頭を掻く。


 そんな光景を見てリンさんは呆れた溜息を零す。


 照れることじゃない。的なことを言いたいんだろうな……。そう思っていると、いくさんは私達がここに来た理由を聞いて、一人で何かを納得したかのように頷くと……、私達を見てこう言う。


「ん。わかった。ならあんた達は()()()()ってことだな」

「「「?」」」


 何が知らないんだろう………。


 いくさんの言葉を聞いて私達は首を傾げそうになる顔をしてしまい、それを聞いた私は「あ、あの……」と言った後、いくさんを見ながら――


「な、なにが知らないですか? いくさんは一体………何を言っているんですか?」


 と、率直に、純粋に思った疑問を言うと、それを聞いたいくさんは私を見た後、少し考える様な仕草をした後で答えてくれた。


 はっきりとした言葉で――あっさりと。




「なにって――パンデミックの原因、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のことだよ」




 ウチはそれを調べるためにここに来た。


 あっさりと告げられたその言葉は、私達の思考を停止させるには十分すぎる内容だった。


 パンデミック………、この事態を引き起こした張本人………? その黒幕のことに関して、知らないって言ったの?


 というか、このパンデミックって、もしかして…………!


 どくん。どくん――と、心臓の音がやけにうるさい。うるさいせいで落ち着きを取り戻せない。というか混乱して頭が回らない。


 あっさりと告げられたそれは衝撃以上の激震のようなもので、私は頭を抱えながら定まらない思考の中で考えを巡らせる。


「張本人って…………! このパンデミックの原因は人の所為ってことかよっ!?」

「そだよ。しかも単独」


 リンさんの驚きの反応にいくさんは平然としたそれで答えて………。


「単独犯の犯行で、人為的な災害なのか………っ!? それで世界が崩壊してしまったのかっ!?」

「よくある展開だと思うけど、世界中に蔓延してしまっているんだ。驚異の感染力だよ。マジでリアルでこうなるとは思わなかった。日本に蔓延するかと思っていたのに、まさか世界中にまで………」


 金剛寺さんも困惑した面持ちで言っている。いくさんはそんな言葉を聞いて頭を掻いていたけど……、私の脳は現在進行形で混乱していた。


 これが、単独犯によって引き起こされたウィルスなの………?


 それが世界中に蔓延して? 皆『感染』者になって? そのせいで、お母さんは………。


 どんどん渦巻く感情と思考。


 ドロドロとしたものをかき混ぜるかのように思考を巡らせている私を見てか、いくさんは私に向けて、『だから――』と言った後続けて言ってくれた。


「ウチはここに来て、黒幕の情報を探っていたんだ『晤狼院(ごろういん)製薬』の子会社でもある、『岩玄(がんぐろ)株式会社』の資料室を漁ってな」

「………、どうして、ですか?」

「あー、まぁ製薬会社だし、何か情報があると思って。結果は惨敗だけど」


 いくさんは肩を落としながら言うと、それを聞いて金剛寺さんは納得したのか、リンさんや私達のことを簡単に説明してくれた。


「製薬会社――つまり、生き残っている人がいればワクチンが作られているかもしれない。あとは病原菌の情報もあるかもしれないと踏んで行動していた。と言う事だろう?」

「あ、そうそう! それ!」


 金剛寺さんの言葉にうんうん頷きながら言ういくさん。


 確かに………、ウィルスは医療系とか、あとは科学とかでよく出る様な内容だし、製薬会社でも、少しは情報があるかもしれないと思って行動していたんだと思うと、いくさんはやっぱりすごい人なんだなと思ってしまった。


 一人でここまで頑張るって、そして『感染』者相手に一人で戦うなんて、私ならできないことだし………。


 なんか………、凄すぎて遠すぎる感じだ。


 自分の無力さ。そして何もできないことへの募りを感じながら黙っていると、会話が進んでいたらしく、金剛寺さんはいくさんに質問をしていた。


 最初に『それで』と言った後――


「ここで何を知ったんだ?」


 と聞くと、それを聞いたいくさんは肩を竦めて、うーんっと唸りながら私達に言う。


「わかったことは、今まで見てきた奴と同じ物だったな。つまり収穫なし」

「同じ? 同じ物って、何があったんだ?」

「それは――」


 同じ物しかなかったという言葉を聞いて、続いてリンさんが質問をして答えようとした。


 その時――






              ――バァンッッ!!――






 乾いた何かが地下内で小さく響き渡った。

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