十七話 『感染』者斬り
※今回も残酷な描写が含まれます。ご了承ください。
刀を持った眼鏡の女の子は、数十人いる『感染』者に向かって走る。
一直線に――真っ直ぐ。
「おい待てっ!」
「危ないから――」
金剛寺さんとリンさんの静止の声が聞こえたけど、それを無視してその子は走り、襲い掛かって来た『感染』者に対して、逃げる素振りすらしないで刀を構える。
すらっと………時代劇とかでしか見たことがない横に斬る構えを取ったと同時に、即座と言わんばかりにその刀を振るう。
――しゅっ!――
と、聞いたことがないその音を聞くと同時に、襲い掛かろうとしていた『感染』者三体………、前で女の子のことを噛み殺そうとしていたその三体の胴体から、黒い血が噴き出した。
「がギぃやァアアっっ!」
斬られた三体の内、二体は斬られた箇所が深かったのか、そのまま前のめりになりながら斃れる。痙攣をおこしながら黒いそれを流していたけれど、左にいた『感染』者だけは浅かったのか、胴体に浅い傷ができるだけで斃れなかった。
「っち。めんどくせ」
その光景を見て、女の子は舌打ちを零し、姿勢を低くした後振るった刀を今度は後ろに引き――斬って斃れなかった『感染』者の顎に向けて。
――どしゅっ!――
と、貫通するくらいの一突きを繰り出した。
頭に向かって突き刺さり、がくがくと体を震わせた『感染』者は、次第に痙攣しなくなり、そのまま力なく手をぶらつかせた。
だらんっと、一瞬振子のように動く手も次第に真っ直ぐになり、そのまま動かなくなったところを見た女の子は『感染』者の胴体に向けて、今度は足を上げる。
「邪魔だからぁ………」
流れる様にと言うか、慣れた行動で彼女は刀で突き刺した『感染』者の胴体に向けて、勢いをつけた蹴りを一発。
どっ! と、またまた聞いたことがないそれが響くと、ずるりと顎から突き刺さったそれを勢いよく引き抜いた女の子は、そのまま斃した『感染』者を後ろにいた『感染』者に向けて蹴り飛ばす。
「ぎぃ!」
「ガぁっ!」
蹴られたことでもう動けない『感染』者は、女の子のされるがままとなって後ろにいる二体の『感染』者の衝撃材となって、そのまま大きな音を立てて倒れると、その音を聞いて他の『感染』者も音がした方向を向くという、何ともおかしな光景ができてしまったけど、それでも女の子は止まらない。
倒れて、視線が倒れてしまった『感染』者たちに向けられた瞬間、女の子は姿勢を低くした状態でm王一度刀を振るい、今度は足元をすり抜けるように走り出す。
「なんなんだ………? あの子は?」
「希ちゃん、知り合いか?」
「い、いいえ………初対面です」
金剛寺さんの困惑を聞きながら、私はリンさんの質問に返答した。
勿論、私は初対面だ。皆初対面だ。
だからこそ、初めてであった女の子の戦い方を見て、言葉を失ってしまったのだ。
考える思考も、削られてしまった。
簡単に言うと――呆気に取られていたんだ。
「あとは十一から二引いて九体。まぁ――」
女の子は言った。足を掻い潜り、背後を取った女の子が入り口付近で跳躍し、そのまま背後を取った『感染』者三体の首を、後頭部を見ながら苛立ちを隠せない顔を晒して言った。
「余裕だな」
余裕とは思えない苛立ちを含めた声でそう言った後、三体の『感染』者の首に向けて刀を一気に横に振るう。
振るい終わったと同時に斬ったであろう『感染』者の肩に手を掛け、そのまま踏み台にして乗ると、今度はその正面にいた『感染』者三体の頭を斜めの状態で斬り。
また斬られた『感染』者の肩に足を乗せて、その上を走るように彼女は駆けて、斬りまくる。
黒い血が辺りに飛び散り、その光景を茫然とした顔で見ることしかできなかった私達は、女の子のことを見て………多分同じことを思っただろう。
この子は、慣れているって。
まるで何年もの間戦ってきたかの様な流れを見て、私達は唖然としてしまったのだ。
唖然として、私は、怖くなってしまった。
戦い慣れているせいなのか、戦いに躊躇いがない、恐怖がない。
その光景が怖かったけど、それ以上に怖かったのは………。
――どすっ!――
「っ!」
突然聞こえたその音は、床を貫通してしまうのではないかと言わんばかりに突き刺さった音で、そのことを聞いて肩を震わせてしまった私は、再度目の前の光景を見て理解する。
やっぱりだ。と――
黒い液体が辺りに飛び散った世界と、背後で首を無くした『感染』者たちが斃れている光景を見ながら、私はその前で立っている女の子を見た。
女の子は無傷だ。黒い液体は付いているけど、傷ついていないみたい。
真っ黒いそれを拭けたまま彼女は腕や服を見て、また舌打ちをして、苛立った声で眼鏡を取る。
「まただよ………。もうティッシュねーし、水で洗うか。あ、でも今は服で拭いてっと」
汚れてしまった眼鏡を見ながら言う女の子。苛立ちを零しながら服でなんとかふき取って再度眼鏡をかける。
なんだろう………。この子はなんだか、次元が違う。
直感的にそう思ってしまうほど、女の子は強かった。
躊躇いもない。『感染』者相手に戦い慣れているような行動。
そして…………。
「がァアあっっ!!」
「「――っ!!」」
「まずい!」
突然、女の子の背後から『感染』者が口を大きく開けて襲い掛かって来た。
きっと斃せていなかったんだろう。
それを見た私とリンさんはすぐに斃そうと武器を手に持って、金剛寺さんも手製の槍を持って女の子を助けようとしたんだけど………。
女の子は手慣れた感じで刀を背後にいる『感染』者に向けた。
――どしゅっ!――
と、目と目の間――眉間に刀を突き刺し、少しの間刀を引っこ抜こうとしていたけど、それも叶わず、最後の『感染』者はそのまま力尽きてしまった。
だらり………。と足掻いた腕が力を無くして振子になり、そのまま地面に向かって真っすぐ下ろした状態になる。それを確認しないまま女の子は後ろに向けて蹴りをもう一発。
今度は後ろからなので下半身に当たってしまう位置で蹴りを入れて刀を引き抜く。
ずるるっ。と、嫌な音と共に『感染』者は後ろに向かってゆっくりと倒れ、その光景を見ていた私達に向けて、女の子は聞いた。
首を傾げ、面倒臭そうな皺の寄せ方をして――
「あんた等――生存者だよね? 何しにここに来たの?」
女の子は聞いて来た。
面倒臭そうで、イライラしている顔を私達に向けて、何しにここに来たのかを聞いて来た。
それはこっちの台詞だ。
と言いたかったけど、それを言う勇気は、私には無かった………。




