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 俺はずっとおまえを見てきた。それなのに。章吾の声が揺れている。息が上がっていた。


 インターホンが鳴る。僕を呼ぶのだ。僕はひたすらに章吾の手から逃れることだけを考えていた。逃れるために息が上がった。小学生の頃は野球と並行して柔道をやっていたという男、その激昂した身体を突き飛ばすには全身の筋力が必要だった。今や筋力不足であった。野球と縁のなくなった身体はもはや何の役にも立たない。


 なんで俺じゃないんだよ。手首を掴まれ、顎を掴まれ、その唇が幾度も幾度も迫ってきて、僕は無我夢中でもがく。


 いつしかインターホンの音はやんでいた。静寂が広がっていた。ふと、声が静かに降ってきた。それがおまえの返事か、と。涙とともに。それは僕の頬の上で散った。


 章吾の身体をすり抜ける。ごめん、ごめんな、ごめんな篤志。我を取り戻した章吾の声と手が縋りついてくる。


 忘れることのない、麦の匂い。僕は確かに欲していた。だからそれを求めて玄関に向かった。郵便受けに何か入っていた。宅配便の不在票だ、僕は自分を笑った。





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