嫉妬
「げ、目立ちたくないから無理」
「久しぶりに会ったのによくもこの私に、げって言いましたね。今日は絶対逃しませんからね」
やってきたのはもちろん、俺の後輩の水上希だった。
ここ数日は同級生にしか会わなかったから希に会うのはなんだか懐かしく感じるな。
希も会うのが久しぶりでなんだか張り切っているのか、譲らない強い意志が見て取れた。
「いいよ、水上さん。じゃあ食堂行こっか」
「あ、おい」
「流石、黒瀬先輩は分かってますね」
遥紀の余計な助け舟で俺達は食堂に行くことが決定し、教室を出ようとしたとき、このクラスに用があるのか、扉に近づいてきて、体をこちらに向けてきた人物がいた。
「わ!司!」
教室の入り口で鉢合わせた人物は勉強合宿で話すようになった、桜井鈴賀さんだった。
彼女は共通のマジックファンタジーというライトノベルを好きな、いわばオタク友達だ。
「どうした?何かこのクラスに用あるのか?」
「どうしたも何も、司とお昼食べようかなぁーって思っただけ」
「なる・・・ほど・・・」
「何その間。私と食べたくないの?」
勉強合宿の時はそんなだったけど、少し時間が空くと、随分とぐいぐい来るようになったな。
そっちの方が話しやすいからいいんだけど、周りからは目立つんだよなぁ。
「ねぇ先輩、ちょいちょい」
「ん?」
そんなことを考えていると、希が手招きをしてきたので、仕方なく桜井さんから少し離れた所まで移動する。
「なんですか!あの人!」
「なんですかって桜井さんだけど、知らない?」
この学校で桜井さんは成績は毎回1位で、とても容姿も整っているので、有名人だ。まだ1年生だから知らないのか?
「それはもちろん知ってますけど、あの人は知りません。私の知っている桜井先輩はもっと大人しい人物です!」
「勘違いしてたんじゃない?」
「あれ?そうですかね?やっぱり評判と違いすぎるので別人ですかね?」
希のイメージと今見た桜井さんの印象がかけ離れ過ぎていて、驚くことに何とか誤魔化せそうになっている状況になっている。
「でも、それは抜きにしてあの態度は何ですか!」
「?」
「つ、司って呼び捨てにして、お2人はお付き合いをしてるとか?」
「まさか、そんなわけないじゃん。ただ共通の趣味があるだけだよ」
「だって・・・」
「俺は呼び捨てにしてなくて、桜井さんって呼んでるよ?」
「でも、向こうは・・・」
「そんなこと言ったら、俺は希って呼び捨てにしてるから、付き合ってることになるけど?」
「まぁ・・・それはそうですけど・・・」
「ほら、もう戻るぞ。待たせてるから」
結局、何が知りたかったのか俺には分からなかったが、待たせているので2人の元に戻った。
「じゃあ、仲良く4人で食べよっか」
流石に、希のお昼のお誘いを了承しておいて、桜井さんのお誘いを断るのは角が立つし、遥紀の案に乗ることにした。
「桜井先輩!私は水上希って言います!よろしくお願いします!」
「わわわわ、私は桜井鈴賀って言います・・・・・・」
「?????」
元気な希が先に挨拶したはいいものの、初対面の桜井さんはいつもの人見知りが発動した。さっきまで見ていた元気な桜井さんと自分に向けてきた人見知りな桜井さんのどっちが本当の桜井さんか分からなくなって、希はフリーズしてしまった。
「ま、まぁとりあえず食堂行こっか」
「司先輩、私、桜井先輩になんかしちゃいました?怒ってるから私にはあの態度なんですか?」
「まぁそのうち分かるよ」
***
4人で昼飯を食べた後、希と桜井さんとは解散して、遥紀と一緒に教室に戻ってきた。
「それにしても、水上さんがめちゃくちゃポカーンとしてたのは面白かったなぁ」
「そうだな」
食事中、希はさっきの謎を解明しようとずっと難しい顔をしていたので、俺がマジファンの話を始めたら希がいて、ずっとおどおどしていたのに、急にテンションがマジファン好きの桜井さんに戻った。
それを見ていた希はようやく桜井さんは、ただただコミュニケーションが苦手なラノベ好きな女の子ってことが分かったらしく、その後はぐいぐい攻めて行って、解散する頃には結構話せるくらいまでには仲良くなっていた。
俺低いのに周りにはコミュ力が高いやつが多いのはなぜだ。
それにしても、そうと分かるまでの希のポカーンとした顔を思い出すとつい笑みがこぼれる。
すると、俺のポケットに入れていたスマホがブルっと振動した。
『いつの間に桜井さんと仲良くしてたんだね』
スマホを確認すると、瑞希からのメッセージだった。
『勉強合宿の時に仲良くなった』
『可愛い後輩と私の知らぬ間に仲良くなった可愛い同級生と仲良くランチなんて、楽しそうだね』
食堂で食べていたところを見たらしく、自分は猫をかぶって同級生と食べていたので、大方愚痴をこぼしてたくなったのだろう。
『怒るなって、いったん落ち着こうな?』
『もう知らない。今日の黒瀬君の誕生日の件もフォローしてあげないから』
『おい!嘘だろ?』
メッセージは既読にならず、俺は瑞希の席の方を見てみるも、プイっとそっぽを向かれてしまった。
周りの目があるので、話しかけることもできないので、どうすることもできなくなってしまった。
96話も読んでいただきありがとうございます。
ヒロインも増えてきて、修羅場を書く機会が増えました(笑)
これからも応援よろしくお願いします。




