目的地
「いきなり何言い出すんだよ!」
おいおい、隣には遥紀もいるし、近くにはまだ部屋に戻っている最中のクラスメイトもいる。万が一聞こえたらどうするんだよ。
「だーかーらー『好き』だって!」
「???」
ここで好きを連呼する意味がさっぱり分からなくてただただ戸惑っていると、遥紀が助け舟をくれた。
「キーワードは『推し』じゃなくてね『好き』だったってことだよ。初めからそうやって教えてあげればいいのに勘違いするように言って涼風さんは意地悪だなー」
「えへへ」
「あ・・・そういうこと・・・」
自分でも間抜けな声が出たなと思った。
じゃあ、先ほどの2人きりの教室で放った言葉は告白なんかでは全くなくて、ただ俺がキーワードを聞いてどんな反応をするかで裏切り者かどうかを確かめていたってことか。
俺が裏切り者でなければ「何キーワード言ってんだよ」と言うはず。真剣に受け止めてしまった俺はキーワードが分からない裏切り者だということが確定したのか。
「なぁんだよぉーーーーー」
よくよく考えてみれば、瑞希が俺のことを好きなんてそりゃありえないよな。
いくら告白されたからってそれを本気にした俺の方がバカだったな。
「ごめんごめん。絶好の機会だったから、つい」
「つい、じゃねーわ!」
大声を出してしまって、慌てて周りを見てみるが、もうクラスメイトは全員校舎に戻ったようで安心した。
そして、ちょうど校舎からは片づけに来たらしい杉本先生が出てきた。
「さっ、杉センだけに片づけ任せるわけにはいかないし、俺らも手伝いますか」
「暇だからいいけどな」
「さんせー」
「おーい、お前らいつまでいるんだ?もう片付けするから部屋戻れ」
「先生、俺達も手伝いますよ」
「え!マジでか!やっぱお前らはいい奴らだよ本当に!」
露骨に杉本先生のテンションが上がったようだった。
***
「ねぇ先生―」
「どうした黒瀬?」
「明日どこ行くんですか?」
人狼ゲームの勝利特典として、明日どこかに行けるようだが、そのどこかは俺達、裏切り者にも教えてもらえていなかった。
「えー、それは秘密にしておこうと思ったのだけど、片づけ手伝ってくれる優しいお前たちのためにヒントはあげようかな」
「あざまーす!」
まさか遥紀、このために手伝うって言いだしたのか?
「ヒントはな、明るいところだ!」
「明るいところ?」
なんだそりゃ、昼間ならどこも明るいだろ。
「ヒントはここまで。あとは明日のお楽しみだ」
「ちぇーケチ」
その後も俺たちはせっせと働き、片づけを終わらせた。
***
「なんだよ瑞希のやつビビらせやがって」
「まぁ、あれは分かりづらかったよな」
部屋に戻ると、俺は遥紀に先ほどのことを愚痴っていた。
「違うんだよ、その前にも2人で話しているときにいきなり好きだよとか言ってきたんだよ」
「あらま」
「それはいくら何でも告白かと勘違いしちまうだろ!」
「なんでそれができるのに、大事なところ濁しちゃうかな・・・」
「ん?小さい声で聞こえなかった。なんて言った?」
「でも、司だってキーワード分かったって調子乗ってたじゃん。結果的には間違えてたけど。正解が分かってればこんなに動揺しなくて済んだじゃん。調子乗って一回信じたものを疑わなかった罰だよ」
「ぐっ、正論言うな」
でも、推しと好きなんて意味は紙一重なくせにこういったときは全く意味が変わってくるなんて日本語って難しいな。
「まあ、今回は涼風さんの方が一枚上手だったってこった。残念だったな」
「そう、だよな」
でも、どこか俺の中で突っかかるのは瑞希が好きだよと言ったときの、あの表情、あの声色は本物だと俺の中では確信したのだからだと思う。
流石だな、この演技力はクラスメイト全員騙されるわけだ。
***
迎えた勉強合宿最終日。
長いと思われた勉強合宿も振り返ってみれば色んな事がありすぎて、あっという間にここまで来た感じがする。
もう人狼ゲームも終わったし、今日1日はいままでよりずっと穏やかに過ごせるだろう。
「おはようっ!」
「うん、おはよう」
昨日も聞いたはずの桜井さんの挨拶も今日は何倍も澄んで聞こえる。
「え、何ですか?その笑顔、きもい・・・」
まだ仲良くなってから数日のはずなのになかなかきついこと言うじゃないか。
「いやいや、違うんだよ。桜井さんは今日もいい声をしているなぁーと思っただけなんだ」
「何も違ってない。誤解でも何でもなくきもいじゃん」
「またまたー」
俺はこうして軽口を言えるくらいには昨日のショックから普段通りを取り戻していた。
「はい、じゃあこれで勉強合宿の授業は全て終了だ。おつかれ様」
「「「やったー」」」
クラス中から歓声が聞こえる。
その後は昼食を食べて、全体集会を行って、基本的には勉強合宿のすべての項目が終了した。
「くぁー、やっと終わった」
「副校長、話長すぎだろ」
俺と遥紀は集会での愚痴を言い合っていると、たまたま桜井さんと目が合った。
「また学校でな」
「うん」
桜井さんはなぜか少し悲しそうな表情を浮かべたが、お互い手を振って別れた。
「司、うちのクラス予定タイトらしいから、早く準備しないと遅れるぞ」
「おう」
***
急いで荷物の準備をした俺たちは、バスに乗り込んでどこに行くかも分からない目的地に胸を躍らせていた。
「じゃーん!ついたぞ!」
そうしてバスで30分程走らせるとある施設でバスは停車した。
その施設は広いらしく、目的の場所にはそこから20分程歩いてようやく到着した。
「イチゴ狩りだ!」
連れてこられたのは大きなビニールハウスが立ち並ぶいちご狩り施設だった。
「さっきお昼を食べて、もうおやつ時だからな。たっぷりイチゴ食べろよ。あ、イチゴ嫌いなら隣に違うフルーツあるから先生に言えよな」
クラスメイトは大喜びでイチゴを食べ始める。
俺もイチゴは大好きなので、新鮮なイチゴを堪能していた。
あれそういえば昨日先生、目的地は明るい場所って言ってたよな。
今日はいい天気でビニールハウスの中もそれは明るいが本当にこれのこと言ってたのか?
93話も読んでいただきありがとうございます。
私事ですが、インフルエンザに感染してしまい、更新が遅くなりました。大変申し訳ございませんでした。
もう体調はほぼほぼ回復しているのでこれからはいつも通りくらいの更新スピードに戻ります。
皆様も体調にはお気を付けくださいませ。
これからも応援よろしくお願いします。




