形勢逆転
「でも、今回のレクリエーションは瑞希はあんまりフルには楽しめないよな」
「ん?どういうこと?」
俺は2日目の夕食の後、廊下でばったり出くわした瑞希にそう言った。
「だって、今の瑞希はそう簡単に疑ったりできないだろ?」
「あぁーそういうことね。それ自体は合ってるけど、別にそれは私のキャラのせいじゃないよ」
「?」
瑞希の演じている優等生なキャラはクラスメイトを疑ったりはあまりしない。そういう意味合いで俺は言ったのだが、俺の予想に反してそれが理由ではなかったようだ。
「キャラのせいじゃなくて、単純に私の性格の問題。今のキャラでも少しくらいなら疑っても平気。そういうゲームだからね。司とか黒瀬君は大丈夫だと分かってるからいいんだけど、それ以外のみんなに、もし疑ったりして嫌われたくないから疑えないよ」
「それこそこういうゲームなんだから、クラスメイトは疑われることなんて前提だろ。それで嫌ったりするやつはよほど変な奴なんだよ」
「私が言うからショックを受けちゃう子もいるんだよ、きっと。それによほど変な奴にさえ嫌われたくないって思っちゃうのが私なの」
「・・・」
何も言えなかった。瑞希のその誰にも嫌われたくないという感情は過去のトラウマから来るもので、それを感じたことのない部外者が簡単に口を出してはいけないことだったからだ。
「大丈夫だよ。私は私なりに楽しんでるし、いざとなれば司をもう1回疑って楽しむからさ」
「そうだな・・・」
***
「矢口さん、俺が涼風さんと話してたのは疑ってた話をしてたわけじゃないよ。だから、焦ったとかは関係ないと思うよ」
「で、でも!突然室井さんに耳打ちしたのは怪しいでしょ!」
どうしたものか。この件に関しては俺と遥紀は深くフォローすることは出来ない。俺達2人が裏切り者だからだ。遅かれ早かれ、全てが終わった時裏切り者が誰かは発表されるだろう。
この状態は裏切り者からしたら美味しい状況なのにも関わらず、深くフォローをしてしまうと、裏切り者が判明したとき、なぜフォローしたのかと疑問を持たれてしまう。もしかして、特別な感情があるのではないかと。
「今、室井さんは友達が何とか言ったのは謝罪しなさい」
沈黙の中、突然放たれた瑞希の一言は俺でさえ聞いたことのないような冷酷さでそれでいて、怒りが籠った声だった。
「な、なによ、事実じゃない。そうやって図星だからって話題を変えるつもり?」
「事実であってもなくても、裏切り者とは関係ない。それに、私は裏切り者ではないから分からないのだけれど、どうしてもう1人の裏切り者は私が選べると思っているのかしら?私はてっきり2人とも先生が選んだものだと思っていたのだけれど。もしかして、あなたが裏切り者だからもう1人は選べることを知っているんじゃないかしら?」
「ち、違うわよ!そんなのただの予想よ!」
形勢が逆転して、焦った矢口さんは必死に誤解を解こうとした。
だが、今の言葉は失策だろう。口走った言葉がさらに自分自身を問い詰めることになる。
「へぇ、矢口さんはただの予想でクラスメイトに友達がいないとかなんとか言うんですね。そんな人の言うことが正しいとは思えないわ」
「ぐっ、でも、それはあんただけでしょ!周りはみんなあんただと思ってるわよ!」
そう言って、そうであって欲しいと思う矢口さんは周りを睨むような顔で見る。
「いや、普通に考えれば矢口さんが裏切り者の可能性だってあるのか・・・」
「クラス全員に聞いたって言ってたけど、そうやってキーワードの情報得ようとしてたんじゃね?」
「確かに」
さっきの状況とは一転して、今度は矢口さんが疑われるようになった。
「涼風さん、ここまでして裏切り者だとバレたくないの?古典の宿題が増えるくらいいいじゃない!」
「そんなことはまったく気にしていないけれど、それなら私が裏切り者じゃないって証明するために、投票はみんな私に入れていいわ。その代わりに投票権は1人2票あるから、もう1人はあと1時間で私が見つけるからその人に入れて頂戴。まぁ現時点ではあなたの確率が高そうだけど、一応探してみるわ」
「チィ!そんだけ言うなら後で間違えて、赤っ恥をかきなさい!」
現時点で赤っ恥をかきまくりな矢口さんはそう言ってどこかに行ってしまった。
投票では票の集まった2人が選ばれ、その中で1人でも裏切り者がいれば勝ちなので、瑞希が裏切り者を探し出せば、瑞希に票が集まったとしてもゲームに勝利できる。
だが、ここで問題なのは一番有力候補な矢口さんは裏切り者ではなく、キーワードの知っている俺と遥紀が裏切り者なことだ。
探すとは言っていたが、遥紀を出し抜くなど、相当難しくなってくるだろう。
そんなことを思っていると、時間のない瑞希はさっそくクラスメイトに聞き込みを開始していた。
だが、その表情を見ると、あまり焦った様子はなく、少し楽しそうな表情を浮かべていた。
あいつ、公じゃ犯人捜しできないからって、大義名分をつけて楽しんでやがるな。自分なりに楽しむとは言っていたが、状況を自分好みに変えるのが上手いやつだこと。
楽しそうでなりよりだなと眺めているとクラスメイトに一通り聞き込みをした瑞希が周りにバレないように俺に手招きをして、校舎に入って行った。
90話も読んでいただきありがとうございます。
人狼ゲームもそろそろクライマックス!誰も予想できない展開になると思います!
これからも応援よろしくお願いします。




