ヲタ活
「この前はごめんなさい。いきなりあんなこと言われて引きましたよね。私初めてマジファン読んでる人に会って、つい舞い上がっちゃって・・・」
彼女は卑屈そうに言って、この場から立ち去るためなのか急いで荷物を片付けだす。
「ちょっと待って」
「すみません。早くどっか行きますから」
どこまでも彼女は自分が嫌われるべき存在だと思い込んでいる。
「この前言ってた3巻のシーンなんだけど、あれには裏話があってね。1巻の敵キャラが本当は助けに来る予定ではなかったんだって。でも、作者の奥さんが1巻の敵キャラが番好きらしくて、1番最初にそこのシーンを読んだ時に奥さんからの提案でそういうシーンが出来たんだって。俺もそのシーン大好きで読んだ時には思わず声出たよね。主人公の最強の必殺技で倒せなかったときと、主人公の師匠でも勝てなかったときは絶望だったけど、出てきたときはめちゃめちゃ希望を抱いたんだよね。俺もそこくらいからマジファンガチ勢になったんだよ」
この前披露されたようなマシンガントークを彼女にもお見舞いさせてやった。
「・・・・・・」
俺の予想通り突然のことで言葉が出てきていない様子だった。
「そんな感じでね、俺があの時黙っちゃったのは、桜井さんのトークを聞いて引いてたんじゃなくて今と同じくびっくりしてただけ。引いてるとか全くないよ。俺も似たようなものだしね。初めて会ったマジファン好きとはマジトークしてみたかったんだよ」
「・・・いいの?」
「何が?」
「私マジファンのことになったら周りが見えなくなって、それでみんなから変に思われてきたからそういう思いをさせちゃうかもしれない・・・」
「そんなこと言ったら俺が逆にマジファンのことで熱くなって桜井さんを困らせてしまうかもしれない」
「それはない!!!」
桜井さんはありえないと言わんばかりの迫真こもった顔で否定する。
「俺も同じでないよ。マジファン好きならそういう思いは同じなんだよ」
「じゃ、じゃあ・・・」
それからというもの初めてできたマジファン友達との会話に時間を忘れて没頭してしまっていた。
「それでね今後の展開としては・・・」
「もうすぐ、夕食の時間となります。生徒は時間内に食堂に集まるようお願いします」
トークに夢中になっていたら、そんな放送が聞こえてきた。気づくと外は暗くなっていて時間も1時間経過していた。
「流石にそろそろ、部屋に戻らないと」
「ごめん。私話しすぎちゃったよね・・・」
まだ、悪いことをしたと自分を責めているのか。
「こっちこそごめん。桜井さん頭いいのに勉強しているのに邪魔しちゃって」
「それは全然大丈夫」
「流石秀才」
「え・・・?」
俺の一言でいきなり空気が変わった気がした。まずい、なにかいけないことを口走ったか?
「ごめん、俺としては軽口のつもりだったんだけど・・・」
「そうじゃなくて、今私のこと秀才って・・・みんなは私を天才って言うのに・・・なんで?」
みんなは桜井さんのことを天才だともてはやすけど、俺はそうは思えない。
「今までに予備校に行ったときはいつも桜井さんが自習室にいる姿を見かけてたし、今日も休み時間にも関わらず、ずっと勉強してたから。もちろん努力を続けること自体は天才だからできることかもしれないけど、俺はそれ以上にその半端じゃない努力量を見てきたからね。天才というよりは秀才って感じがしたんだよ」
彼女と同じで努力を惜しまない人物が身近にもう1人いるからね。そいつと同じで桜井さんは俺にとっては秀才だ。
でもやっぱりまずかったか?天才より秀才ということは彼女自身に才能がないと言ってると受け取られてもしょうがない。
「やっぱり秀才じゃなくて、てんさ・・・」
「そのままでいいよ!」
桜井さんは何かに気づいたような顔をしていた。
「そうか。私は天才じゃなくて秀才なんだ・・・ありがとう」
「うん。なにより」
秀才と言われて彼女自身も満足しているようなので俺としても嬉しかった。
「明日も話しかけてもいい?」
「もちろん。でも・・・俺からも話しかけさせてね」
「うん、もちろん!じゃあね!」
彼女は満点の笑顔を俺に見せて、嬉しそうに教室から去っていった。
俺が感じた桜井さんの初めの印象はみんなが言っていたイメージと同じだったが、話してみると堅苦しい話し方はどんどん柔らかくなっていって、初めに抱いていたイメージはどこかに飛んでいった。
それにしても、これで明日から気まずく思わなくていいし、マジファンのこと話せてよかったなぁー。
個人的に大満足な結果にルンルンで部屋に戻った。
「ただいまー」
「ねぇ、司。あと1問じゃなかったの?1問に1時間もかかるの?俺オセロしようと思って準備してたんだけど」
遥紀が鬼のような形相で待ち構えていた。
やばい。そんなこと言ったの完全に忘れてた。
「ごめんね!」
「ゴラァ司―!」
***
昨日は散々だった。あの後、夕食の時間になって逃げだすまで遥紀にしばかれた。
何をしていたのかと詮索されたが、桜井さんのマジファン好きは周りには隠しているかもしれなかったので、言わずにただ友達と話していただけと説明するしかなかった。
それにしても、これから桜井さんとの付き合いはどうしていくのが正解なんだ?
87話も読んでいただきありがとうございます。
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