ややこしい
「あれ?早乙女だけで、本当にいないじゃん」
「ほら言ったでしょ?」
男子たちはそれでもまだ信じられないのか、辺りを捜索しだす。
「クローゼットとか怪しい・・・いないのか」
俺はその様子を胸の鼓動を早めながら見守る。
「ねぇもっと膝を立てて、私のスペース広くしてよ」
「おい、喋るな。ばれるだろ」
そう、瑞希はベッドに隠れたのだった。
ベッドに隠れると、僅かながらふくらみが出来てしまい、バレるので、俺と一緒に入ることでそれを誤魔化そうという作戦だった。
でも瑞希は横向きに俺の足にピタッとくっついているために柔らかい部分がもろに当たっている。
この状態で足を動かせるものがいるだろうか?
「なんか早乙女の入ってるベッド、変に膨らんでない?」
「!?」
瑞希が僅かにぴくっとする振動が伝わってきた。
「いや、いないよ」
遥紀は分かっているのか、すかさず否定するが、疑いの目は消えない。
「じゃあ見せてもらおうか・・・」
そう言いながらニヤニヤした目で近づいてくる。
他の女子ならギリギリ遊んでいたとかで事なきを得るかもしれないが、瑞希はまずい。
そもそもこういうことをしない人間として知られている。この姿を見られた時点で誤魔化しようがないのだ。
万事休すかと思われたとき、隣の部屋から声が聞こえた。
「あれ?この部屋は誰もいないのか?就寝時間も近いのにまさか他の部屋に遊びに行ってるとかないよな?」
杉本先生が見回りに来ていたのだ。
「やばいやばい、早く戻るぞ」
「おう」
まさしくその部屋の男子がこちらに来ていて、その部屋にはいないのだが、男子たちはその声を聞きつけると、いるかも分からない女子のことよりも自分の保身を気にして、そそくさと部屋に戻っていった。
「おい、どこ行ってたんだ?もう自由時間は過ぎたはずだが?さっさと就寝準備をしろ」
「「はーい」」
外では戻った男子たちを問い詰める声が聞こえてきた。
「あっぶなかったー」
瑞希がひょっこり顔だけ出して、安堵の声を漏らした。
「早く戻れ。女子の部屋にも見回りが来てるんじゃないか?」
「でも、今出たら見つかっちゃうよ?」
廊下で鉢合わせたらしい、杉本先生と先ほどの男子達はそのまま廊下で問い詰められていたため、今部屋の外に行けば確実に見つかってしまう。
「ぐっ・・・」
「それに寒かったからこの布団の中暖かくてちょうどいい」
こんな状況にいるのにも関わらず、瑞希は俺の布団の中でぬくぬくしだす。
動くな、俺の足に色んなものが当たってる。
雑念を抱いていると、外で杉本先生の声が聞こえなくなった。
「おい、終わったっぽいぞ」
「そうだね、私の部屋に見回りの先生来てるかもだし、そろそろ帰らないと」
瑞希も流石に分かっていたのか、出ようと先に顔だけ出した時、足音がこちらに近づいてきた。
「やばい、こっちの部屋に来るぞ」
見回りの順番的に次はこちらの部屋だった。
「もう一回隠れろ」
「わぷっ」
俺は瑞希の頭押し込んで、もう一度布団に隠れさせた。
「おーい、いるかー?」
案の定、こちらの部屋に声をかけてきた。
遥紀は平静を装って扉を開けた。
「よし。お前らは2人しっかりいるな」
2人じゃなくて、3人いるんですけど・・・
「就寝時間までには寝ろよー」
杉本先生は人数を確認した後、それだけ言って、部屋を立ち去ろうとした。
胸がほっとした。今日1日色々あったがなんとかバレずに終われるなと。
「あ、そうだ!お前らありがとうな」
「? 何のことですか?」
俺は何を言っているのかピンとこなかった。
「え、あれだよ。レクリエーションの・・・」
「あーーー!!!そのことですね!!!」
そうだそうだ。この騒動で忘れかけていたが、俺たちをこんなゲームに誘った人物は紛れもなくこの人だった。
でも、この場で話すのはすっごくまずい。瑞希がいるからだ。
先生には瑞希の存在をバレてはいけないと同時に瑞希に俺たちの正体もバレてはいけないのだ。
そんなややこしいこの状況をどうしようか考えていると遥紀が口を開いた。
「早乙女、お前そんな大声出たのか・・・」
「先生、そのことについては積もる話があるので長くなってしまいそうで・・・もうすぐ就寝時間ですし、日を改めていいですか?」
「ああ、なんか積もる話は怖いけど、もう就寝時間だしな。分かった、また明日な」
遥紀ありがとう!
瑞希には少し疑問を持たせてしまったけど、核心的な部分には触れずに済んだ。
「ねえさっきの何の話?」
先生が去った後に、予想通り先ほどの会話に疑問を持った瑞希が質問してきた。
「なんのことでもない。勉強合宿が始まる前にレクリエーション何にしようか悩んでたから、話聞いただけ」
「ほんとー?」
動揺しまくった俺に瑞希はさらに疑いを強くする。
「それにしても、2人ずっと一緒に布団に入ってるけど、もしかしていつも家でそんな感じなの?」
「「え!?」」
動揺で気にしてなかったけど、もう5分程同じ布団の中にいる。
「ち!違うよ!家ではこんなことしたことないよ!」
瑞希はようやく自分がしたことの重大さに気づいたのか急に顔を真っ赤にし始めた。
「私もう行くね!」
恥ずかしさが限界点に到達したのか、ぴゅーっと逃げるように俺たちの部屋から出て行った。
まだ1日目だぞ・・・色々ありすぎだろ・・・
俺はこの勉強合宿を無事に生き延びれるのか?
85話も読んでいただきありがとうございます。
次の話から2日目行きます!2日目はあの天才が・・・?
これからも応援よろしくお願いします。




