レクリエーション
こういう場合、宝探しとか謎解きゲームが一般的だと思うが、まさかの人狼ゲームだった。しかも3日間という勉強合宿の期間ほとんどかけてのゲーム。
クラス中が予想外なゲームにざわつき始める。
「まあ、普通の人狼ゲームは流石にできないから特殊な人狼ゲームだけどな」
最初からそう言え。そんな楽しそうに言うから内容を知っている俺でさえデスゲーム的なのが始まるのかと思ったぞ。
「まず、このゲームは先生対お前らではない。このクラスにはすでに裏切り者が2人いる!」
さながら、デスゲームの司会者みたいなトーンで杉本先生は話し始める。
これ変なスイッチ入っちゃってるな。
周りは前々からそんな仕掛けがされていたのかと驚いて、それと同時に近くにいたクラスメイトを疑いだす。
「今から1人1人に紙を配っていく。その紙にはキーワードが書かれている。だが、君たちの中の裏切り者の紙には何も書かれていない。3日目のBBQの終わりまでに見つけ出すことが出来ればお前らの勝ちだ。人狼ゲームというよりワードウルフだな」
ざわめきの中、紙が配られ始める。
俺に先生から渡された紙を周りに見えないように開いてみると、やはり分かっていたことだが、中身は何も書かれていなかった。
何を隠そう裏切り者は俺なのだから。
***
あれは勉強合宿の1週間前、遥紀が授業後に杉本先生に呼び出されたことが原因だった。
職員室から戻ってきた遥紀に俺は声をかけた。
「どうした?なんか様子がいつもと違うけど。やっぱり怒られた?」
「そうじゃないけど、どうしようかと思ってね」
遥紀は珍しく難しそうな顔をしていた。それと同時に楽しそうな表情も浮かべていた。
俺はそれを見たら、事情を聞きたくなってしまっていた。これが厄介ごとの原因になるとも知らずに。
「実はね、今度ある勉強合宿なんだけど、それのレクリエーションに人狼ゲームをやるっぽいんだ」
「へーそうなんだ」
それは思い切ったことをやるな。でもなんで、先に遥紀にだけ言うんだ?
「それでね、その人狼を俺にやって欲しいんだとさ。俺はそういうの好きだからOKしたんだけどあと1人、人狼が欲しいそうなんだけど、それは俺が決めていいから誰にしようかと悩んでいるんだ」
「へ、へー」
まずい。もう逃げられない。
「司やってくれるよね?」
「・・・もうこれ聞いちゃった以上引き受けなきゃいけないやつじゃん」
断っても俺だけは遥紀が人狼と分かった状態でゲームが始まる。
そのことを黙っていたらもうそれは、ほぼほぼ人狼と変わらなくなってしまう。
それを知っていながら遥紀のやつ、話したな。
「頼んだぞ」
「でも、クラスメイトが勝てばあそこに行けるんだろ?俺らだって行きたいし、本気でやったら駄目じゃないか?」
そう、この勝負に勝てば4日目の午後にある施設に行くことができる。逆言えば負ければ行けなくなってしまう。そうなったら俺らはその勝負が終わってもクラスのやつから根に持たれてしまう。
「安心しろって。これはあくまでレクリエーションだから、ああは言うが本当は勝敗に関わらず行けるそうだぞ。そうじゃなきゃ、流石にいきなりすぎて向こうの施設にも迷惑が掛かるからな」
「確かに、それはそうだよな」
良かった。これで根に持たれることはない。
勝敗に関わらないなら、適当にやって最後らへんにわざとしっぽを出せば、みんな満足してくれるだろう。
「でも、俺らはバレたら冬休みの古典の宿題2倍出すって」
「は!?」
みんなごめん。背に腹はかえられない。
適当にやり過ごせない理由が出来た。みんなには最後までハラハラしてもらうが、本気でやらせてもらう。
***
そんなわけで、今回のこのゲーム俺と遥紀が裏切り者なのである。
「裏切り者には負けたら古典の宿題倍にするって言ってあるから味方に引き込もうなんて考えるなよー。じゃあ、3日目のBBQの終わりまでよく考えて立ち回るように。頑張って!」
杉本先生はそう言ってスタスタと戻って行ってしまう。
いきなり始まったクラス全体での人狼ゲームに一同は一斉に辺りを疑い出す。
このゲームは裏切り者に1度でもキーワードがバレてしまうと生徒側の負けが確定してしまう。
身の潔白を証明しようとも相手が裏切り者だという可能性があるので、むやみにキーワードを口に出すことができない。
俺としても宿題倍は絶対に嫌なので、本気でやるつもりだが、基本的には疑われたら、相手を疑い返して、キーワードを言わなければいいだけの話だ。
そして、裏切り者はキーワードは何かを当てる必要がないので、踏み込んだ質問もする必要がない。
安全に立ち回ろうとするならば、なるべくはぐらかして話さなければいいだけなので、それほど難しい話ではない。
このゲームは裏切り者が有利なゲームなのである。
場を荒らす役は遥紀がやってくれるだろう。俺は安全に立ち回らせてもらう。
「おい、お前裏切り者だろ?」
「いや、違うよ」
「じゃあ、キーワード言ってみ?」
「そりゃ、アニメとか?」
そこら中からキーワードを悟らせないために、かつ、キーワードを知っている人間には自分の潔白を示せるようにキーワードを掠った単語が飛び交っている。
それにしたってアニメってなんだ?
これがキーワードなわけないし、『オタク』とかか?
まあ別に当てる必要が無いし、何でもいいんだけど。
話す時間も惜しく、この合宿の本分である勉強が始まる。
突如始まった人狼ゲームのせいで、全く落ち着かない勉強合宿が始まりのチャイムを告げる。
83話も読んでいただきありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、2秒で終わりますので、下部にあるブックマークに追加、星をポチっと押していただきましたら、私にとって本当に励みになりますのでよろしければお願いします。(ログインしてる方は2秒くらいですが、していない方はもう少しかかります。ごめんなさい)
これからも応援よろしくお願いします。




