出会い
お店に戻り、作業をしているとまたもや来客があったようでお店の扉が開いた。
「・・・」
「いらっしゃいませとか言わないの?」
「それはお前には言わない」
俺の目論見通り、遥紀が来店してきた。
あの状況でバレてないわけがない。ああいうときはだいたい俺の願望とは逆になる。長年一緒にいるからそれくらいは分かる。
「何しに来たんだよ」
「そりゃ、マッサージ受けに。司暇でしょ?」
「暇とか言うな。じゃあ紙書いて、あっちの部屋で待ってろ。すぐ行くから」
「ほーい」
今日は1日で知り合いを3人もマッサージすることになるなんて。
まだ新人なのでしょうがないが、指名が全部知り合いなのは嬉しいことなのか、悲しいことなのか。
「うあぁー 気持ちいー」
「そりゃどうも」
「この受けたときは誰かさんの策略で寝かされてあんまり堪能できなかったから、今日が実質初めて司のマッサージを受けるな」
「それはごめんって」
「そういえば、司。あの件どうするんだ?」
「あの件って?」
「この前言ってたじゃん。そろそろ受験だから予備校行かないとって」
「ああ、その件か」
もう高2の11月で高校生活も半分が過ぎ、受験まで迫ってきた感覚が徐々に俺にのしかかってきていた。
「だいたい、今からでも遅いんだからな。クラスのやつはだいたいもう予備校通ってるぞ」
うちの高校は結構な進学校なので俺は遅い方で、この時期になると大体の人が難関校の合格に向けて、すでに予備校に通っている。
だが、そう言っている遥紀だって行っていない。こいつの場合はどうせ予備校なんて行かなくてもそつなく大学入試も終わらせてしまうんだろうけど。
「ふっふっふ。そう言うと思って実はもう申し込んでる」
「絶対たまたまだろ」
たまたまですけど。
「そういえば、涼風さんは予備校とか行ってるのか?」
「行ってないよ」
そう考えると俺の周り行ってる人誰もいないじゃん。
「それで、高校入った時からずっといい成績保ててるのか。流石だな」
「あいつはめちゃくちゃ努力してるからな」
あまり人には見せない努力をめちゃくちゃしている。きっと俺にだって全ては見せていない。
「これからも入らないのか?」
「どうなんだろうな・・・」
***
「瑞希は予備校とか行かないのか?」
「私はねー今のところ行かないかな」
バイト中に遥紀に言われたことを思い出した俺は、夕食を食べ終わった瑞希に聞いてみた。
「なんでだ?」
「部活にバイトに忙しくて、今はそんな余裕ないし、そもそもお金だってそんなに余裕あるわけじゃないしね」
「お金ならあるぞ」
「え?」
瑞希はたまげた表情をする。
「実はこの前、俺の両親に瑞希と一緒に暮らしていると知られてから、毎月の生活費が今までより多く送られてきているんだ。どうせ瑞希のために使えってことだろう。だから予備校行くくらいはあるぞ」
「・・・ありがたいけど、今は他のことに集中したいから。それに勉強は家でだって出来るし」
瑞希の場合なら部活が上手くいけば、スポーツ推薦だって余裕で狙える。今だって成績のいい瑞希はそれほど焦って入る必要もないか。
「逆に司は?そういう話をしたってことは予備校入るの?」
「俺は明日、河口塾の個別相談に行ってくる」
「行く気なんだ」
「まあそうだな」
最近になって、親から予備校にそろそろ入った方がいいんじゃないかと持ち掛けられた。
俺としても入らないといけないと思う気持ちはあったので、これを機に入ろうと思っている。
「だから、明日夜遅くなると思うから先食べててくれ」
「・・・はーい」
瑞希はなんだか、つまんなそうな表情を浮かべたが、俺にはその真意を問うことはしなかった。
***
「司、これから予備校行くんだろ?」
「おう、そうだな」
放課後になり、遥紀と帰っていると昨日話した予備校の話になった。
「どこの予備校なんだ?」
「新宿の河口塾」
「へぇーあそこか」
遥紀はなんだか含みのある笑顔を浮かべた。
「なんだよ、その顔。なんかあるのか?」
「いーや。何でもないよ?」
「嘘つけ絶対なんか知ってるだろ」
「なんか、最近の司の行動を見てると、これからの展開が浮かんでくるなーって」
「?」
遥紀はわけわからないことを言っていたが、結局別れるまでにその意味を聞き出すことはできなかった。
***
「それで、早乙女君はどこか志望校とか決まってたりする?」
「いや、今のところ特に決まってません。ある程度良いところ行けたらなーってくらいしか考えてないです。ダメですかね?」
「いやいや、この時期で明確に志望校決まってる子の方が少ないからね。それくらいが普通だよ」
個別相談をしてくれた講師の方はとても気さくで話しやすい人だった。
「高校はどこに行ってるの?」
「資生高校です」
「あそこか、頭いいじゃん。うちにも資生高校の子何人かいるよ」
「そうなんですね」
友達の少ない俺には縁のない話だと静かに心にダメージを受けた。
「どれくらい講座受けたいとか決まってる?」
「いや、自分のレベルがあんまり分かってなくて、決まってないです」
「じゃあ、試しに認定テスト受けてみる?これ受ければ大体の自分のレベルが分かるし、これ受けたからってうちに入らなくちゃいけないってわけでもないからさ」
「じゃあ、お願いします」
そうして、俺は認定テストを受けることになった。
俺は文系なので、文系科目のテストを受けて、これからの話はテストの結果が出てからという形になり、今日はこれで帰ることになった。
「・・・ん?あれは・・・」
河口塾を出ようとしたとき、見覚えのある人物とすれ違った。
でも、どこで見たんだっけ?いまいち思い出せないな。
78話も読んでいただきありがとうございます。
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