自信
「希、今日の服装似合ってるね」
水上さんの今日の服装はとても気合が入っていて、とても似合っていた。今日初めて、水上さんに会ったときにあっと驚くほどだ。
フリだとしても周りから見たら立派なデートなのだから、気合をいれて選んでくれたのだろう。
「え!?・・・ありがとうございます。でも、司先輩。そんなに入念にフリの練習しなくても・・・」
「いいや、今のは練習のために言ったんじゃないよ。素直に似合ってると思ったから言っただけ」
昔から、両親に人にはよく褒めろと言われていたからな。
「あ・・・そうなんですか。ありがとうございます」
2度目のありがとうは何のありがとうだ?
そんな話をしながら集合場所に向かう。
朝からバタバタあったが、今日はここからが本番だ。
「おーい、水ちゃーん」
「あ、鈴ちゃん!」
この前見たときはお互いのことを苗字で読んでいたのに、見ないうちにもっと仲良くなったそうで、今では呼びやすい愛称で呼び合っていた。
それにしても、水上さんのこと水ちゃんって呼んでいるんだ。
「ほんとに来た」
「なんで!来ないと思ってたの!」
「だって、あの人見知りの水ちゃんに彼氏がいたなんて、信じられなかったんだもん。強がって言っただけだと思ってたよ。ごめん!」
「ぜ、全然いいよ」
その通りだよ、齋藤さん。今、水上さんの心はぐさぐさ刺さってるよ。
「でも、彼氏さんが早乙女先輩だったとは。確かに振り返ってみれば、早乙女先輩と一緒にいるところちょくちょく見てたし、言われば納得かな」
俺と齋藤さんは水上さんを通して、何度か会っていた。
「鈴ちゃん。このことを学校では言っちゃだめだよ」
「分かってるって。学校で男子のファンがたくさんいるもんね。このこと知ったら騒ぎになるもんね」
「そういうことじゃないよー」
本当にそういうことじゃないのよ。
「紹介します。私の彼氏の千野くんです」
「千野正好です。よろしくお願いします」
「俺は、早乙女司。俺だけ高2だと思うけど、敬語とか使わないでいいから」
「わ、私は水上希です。よ、よろしくお願いします!」
齋藤さん以外は初対面の人がいるのでお互いに自己紹介を済ました。
「彼氏さん、めっちゃかっこいいですね。自分なんか涼音に申し訳なくなってきます」
「そんなことないって、千野君の方がかっこいいよ」
ぐ、本当のカップルはこういうナチュラルにいちゃいちゃするのか。
俺は経験値が足りなくてできそうにない。
「それで、私に任せてって言ってたプランってどうなったの?鈴ちゃん」
「ふっふっふ。今日は、スポッ○ャに行きます!」
「「おおーーー!」」
あそこは比較的4人で遊べるものが多く、彼氏彼女でチームも組みやすい。プランに自信にあったのも頷ける。
「・・・?それってラウンド○ンのこと?」
水上さんは、あまりピンと来ていない様子だった。
「え、水ちゃん行ったことないの?」
「行ったことあるよ!ボウリングとかカラオケやったことあるもん!」
「かわいそう。今日はいっぱい遊ぼうね!」
「え、なんで悲しがってるの!行ったことあるって!」
おそらくスポッ○ャの方は行ったことがなくて、区別のついていないのだろう。
「先輩からもなんか行ってください」
「かわいそう」
「もぉーーーーー!」
***
「え、まさかここにあるやつ全部遊べるってことですか!?」
「ああ。それにもう1階上もあるから、そこでは屋外スポーツができるぞ」
「え、ここ天国ですか?」
実際に入場して見渡す限りの楽しそうな設備にやはり、知らなかった水上さんはさっきとは違って、目をキラキラさせながらきょろきょろしている。
「あ!卓球やりたいです!」
「いいね!」
初めにハイテンションな水上さんのお眼鏡にかなったのは卓球だった。
ダブルスでもちろんチームは、俺と水上さん、千野君と齋藤さんペアで試合が行われた。
じゃんけんの結果、水上さんのサーブから試合が始まる。
「じゃあ、行くよー!てい!あれ?」
第1球はラケットに当たることなくそのまま地面に落下した。
「も、もう一回やっていいよ」
「ありがとう!」
これ、あんまり上手くないやつだ。早くも1度目の水上さんのラケット捌きで他の3人は同時にそう感じ始めた。
「てい!あれ? もう1回、あれ? 今度こそ!あれ?」
「水ちゃん、1回早乙女先輩に代わってもらったら?」
まだ、誰も1球も打ってないのにすでに相手から気を使われ始めた。
そして、俺にサーブ権が移り、ようやく試合が始まった。
11対1
ボロ負けだった。
まぁ、分かりきっていたことではある。あれからも、ミスは連発、水上さんのサーブが来るたびに何度か挑戦するものの、最終的には俺にサーブ権が移った。
別に責めているわけではないんだが、なんでこれで自分から卓球やりたいとか言ったの?
水上さん、運動部じゃなかったっけ?
「私のせいで。司先輩、ごめんなさいー」
「いいよ、別に」
それからも、動く牛に乗って振り落とされないようにするマシンも速攻で吹き飛ばされるし、パターゴルフをやると水上さんだけ全く入らず、ゲームが終わらず、強制終了がかかったり、全くと言っていいほど、運動ができない水上さんだった。
なぜ、ここに来たことがないのかが分かった気がした。
「バッティングセンターまでありますよ!次あれやってみたいです!」
絶対に1球も当たらないだろうに。
それでも、一切めげることなく自信を持って楽しそうにはしゃげるのはこの子の良いところで、可愛いところだ。
74話も読んでいただきありがとうございます。
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