お願い
「司、電話なってるよ」
「ん?誰からだ?」
夕食も食べ終わってゆっくりテレビでも見ていると、テーブルに裏向きに置いてあったスマホに電話がかかってきた。
スマホを手に取ってみると、水上さんからだった。
嫌な予感がする。
「もしも・・・」
「先輩!付き合ってください!」
「え・・・」
突然放たれた予想外の言葉に握っていたスマホが思わず手からすり抜けて、床に落下した。
「え!―――」
瑞希も近くにいて、元気な水上さんの声が聞こえたようで、驚いた声を上げた。
「しーーー」
「あ、ごめん。つい」
「あれ?せんぱーいー聞こえますか?」
「ああ、聞こえてるよ」
急いで、スマホを拾い上げて、再び水上さんと電話を会話を再開する。
「なんか今、女性の声が聞こえませんでした?」
「あ・・・いや、テレビの声かな?」
「そうだったんですね」
「それで・・・付き合ってっていうのは?」
これがガチな告白なら急すぎて、脳がついていけてないし、ガチじゃなくてもなにかに巻き込まれる予感しかしない。
「詳しいことはまた明日話しますね。放課後先輩のクラスに行きますので待っててください!では!」
「え、ちょっと・・・」
そこで電話が切れてしまった。
嵐のような後輩に俺と瑞希は全くついていけなかった。
「それで・・・司君は、まさか後輩のあんな告白にのこのこOK出すような人じゃないよね?」
俺より一足先に処理が終わった瑞希は俺に迫力ある声で聞いてくる。
「いやー・・・そうだね」
「なに?その間は?」
さっきからその迫力怖いよ。
でも、即答できない俺も俺だけどね。
「い、いや考えてもみろ。ただの告白ならまた明日話すなんて言わなくないか?きっとこれは勘違いだって」
「まぁそれはそうなんだけどさー」
なんで、瑞希が不満げなんだよ。俺がもっと嘆きたいくらいだよ。
***
次の日の放課後。
「なんか、今日いつもより元気なさげじゃね」
「とーっても厄介なことに巻き込まれそうなんだよ」
「何それ?」
「まぁ、もう少しすれば分かる」
そうして少しの間、これから来る厄介ごとにため息をつきながら机に突っ伏しているとバタバタと足音が聞こえてくる。
「せんぱーい!いますか!」
ほら来た。
「あーなるほどね」
遥紀はこれから起こる状況に勘づいたようでにやにやしだした。
「おーい水上さん、司ならここにいるよ」
「あ、黒瀬先輩!ありがとうございます!」
おい、遥紀言うんじゃねえ。俺が1秒でも長い時間現実逃避したいっていうのに。
俺を見つけた水上さんは、クラスに入ってきて俺の席まで歩いてくる。
「先輩!」
「ん?」
「昨日電話でもお伝えしたんですが、付き合ってください!」
「え?」
おいおいおいおい!何言ってるんだ。昨日は電話だったからいいものの、ここは普通に教室の中だぞ。しかも放課後と言っても残っているクラスメイト結構いるし。
遥紀も流石にこの展開は予想してなかったのか、あんまり聞いたことない驚いた声出てるし。
「ちょ、ちょいちょいちょい!水上さん。声が大きい!」
「あ、」
周りがどんどんざわざわしてくる。マジでやばい。
「あーーー、テストが近くなってきたから勉強を教えるのに付き合ってくださいってことか。びっくりした!」
「なんだ、そういうことね」「チッ、仲良くしやがって」「あの水上さんが早乙女なんかとなわけないよな」
騒ぎが大きくなる前に遥紀がクラス中にわざとらしい声で急いでリカバリーしてくれる。ありがとう、心の友よ。
何か、俺に対して当たり強い気がしたけど。
「ごめんなさい!」
「大丈夫、もう少し小さい声でね」
「俺は、外したほうがいいよね?」
ガチの告白だと思った遥紀は自分がいると、気まずくなると思ったのか、気を使って外してくれようとした。
「いや、黒瀬先輩もいてもらって大丈夫です」
え、大丈夫なの?
「それで、付き合ってってのはどういう意味?」
周りに聞こえないように小さい声で1日気になっていたことをようやく質問した。
「今週の日曜日って暇ですか?」
「まあ、暇だけど・・・」
「私とお出かけするの付き合ってください!」
良かった。ガチな告白じゃなかったようだ。遥紀にいてもいいと言った時くらいからそんな気はしていたが。
「お出かけと言っても、ダブルデートなんですが・・・」
「!?」
それだと話が違ってくる気が・・・
「ダブルデートって、どういうこと?俺達付き合ってないよね?」
え、知らない間に付き合ってた?そんなわけないよな?
「昨日、齋藤さんと話してた時なんですけど、最近齋藤さんが彼氏ができたって私に楽しそうに話してくるんです。その様子を見てたら、つい私も彼氏いるよって言っちゃって」
なんで言っちゃうの。
「そしたら、じゃあ今週の日曜日にダブルデートしようって話がトントン拍子に進んでしまいまして・・・」
止めてよ!
「なので、先輩。今週の日曜日だけ、私と付き合ってるフリをしてください!」
ガチな告白ではなかったが当たらずとも遠からずってところだった。
「俺以外に頼れる人が・・・」
「先輩しかいないんです!」
それは俺に好意を持ってるってわけじゃなくて、俺しか仲いい男子がいないって意味だろう。
でも、まっすぐな瞳に俺は負けそうになっていた。
「いいんじゃない?行ってあげても。可愛い後輩からの切実なお願いだよ」
「せんぱいーお願いですー」
2人して、俺を見てくるんじゃない。あと、遥紀。お前は楽しんでるだけだろ。
「・・・分かったから。行くから」
「ありがとうございます!先輩!」
はぁーどうなってしまうんだ。俺の週末は。
俺はもう1度机に突っ伏した。
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