考え方
「今の話に間違いはないんだな?」
父さんが真剣な顔で俺に言ってくる。
「・・・はい」
俺は父さんに反論できるように、緊張しながらも集中して次の言葉を待った。
「よくやった」
「「え!?」」
予想外すぎる一言に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「よくやった。流石我が息子だな」
「・・・反対しないの?」
俺を責めるつもりは微塵もなさそうで、父さんは誇らしげにしていたため、俺はつい思っていることを聞いた。
「なぜそんなことをするんだ?司は大変な状況下で無理をしているクラスメイトを助けたんだろう?私だってそんな状況下に置かれている人を見たら助けたくなるからね」
「そうよ、司。よくやったわね」
「はぁーーーー」
一気に体の緊張が解けて、机に突っ伏した。それは瑞希も同じだったようで、横を見るとさっきの真っ青な顔に血の気が戻りつつあった。
「でも、私のお母さんは退院してます」
耐えきれなくなった瑞希は父さんに確認をしだす。
「再発の危険性があるなら、前の生活に戻って、無理をさせたくないだろうし、2人で住んでみて、お互いが続けたいと思うなら親御さんの許可も得てるんだし、続けても何の問題もないと思うがね。実際私も若いころは女子を家に泊めたもんだよ」
「あなた?そんなことしてたの?私してもらったことないけど?」
「美花と会ったのは大学の頃だからね・・・、家に泊めてたのは高校の頃だよ・・・」
「ふぅん・・・」
母さんのあまりの迫力に父さんはすっかり縮んでしまった。
「とにかく、私はこの件について、とやかく言う気はないよ。そういうことはそちらの母親としっかり話したみたいだし、周りからは良くないと言われるかもしれないが、人としてはいいことをしたと私は思うからね」
瑞希の親と俺の両親は全くもって違う考え方をしていた。どちらが合っている、どちらが間違っているというわけではない。子を想う気持ちは家族ごとに違う。
だが俺は、なぜだか父さんの考え方がかっこいいと思ってしまった。
「さて、息子と一緒に暮らしているなら遅ればせながら自己紹介をしよう。私は早乙女和紀」
「私は母の早乙女美花よ」
「私も自己紹介が遅くなりました。涼風瑞希と言います」
「よろしくね、瑞希ちゃん」
「はい」
「もう夜も遅いし、今日はここに泊まっていこうかな」
「え!」
「なんだダメなのか?」
「だめじゃないけど・・・」
「よしじゃあ、決定だな」
いつも父さんは急なんだよな。
だが、父さんが今日ここに泊まっていくことが決定した直後、父さんの携帯が震える。
「もしもし、今日の予定は全部キャンセルって言っただろう。え、なになに商品に不備があってリコールしないといけないから来てほしい?」
内容は深刻そうだった。
「うーん、でもなぁ、今日は息子の家に泊まるって決めたしなー」
子供か。そんな理由で大事そうな仕事を断ろうとするな
「父さん、行ってきなよ。俺の家で泊まるのはまたいつでもできるでしょ?」
「うーん、息子がそういうならしょうがないか。じゃあ、今から行くから」
そう言って、父さんは電話を切った。
「じゃあそういうわけだから、大変名残惜しいけど父さんたちは行くな」
「司、いつでも戻ってきてもいいのよ。もちろん、瑞希ちゃんと一緒でね」
「今のところそれは考えてない」
「あらあら」
「じゃあね、瑞希ちゃん。次会ったら料理教えてあげるからね」
「はい!お願いします!」
瑞希もうちの両親のフレンドリーさで案外仲良くなっているようだった。
「司の両親ってこんな時間までお仕事なの?忙しいね」
両親が仕事に行ったあと、瑞希が俺に質問してくる。
「まあな、一応おもちゃ会社の社長だからな」
「なんてとこ?」
「・・・プレイトイカンパニーってとこ」
「え!あのプレトイの社長なの!誰でも知ってる超有名企業じゃん!」
「まあな」
「司、両親と仲良さそうだったじゃん。それなのになんで、一人暮らしなんてしてるの?」
まあそう質問したくなるよな。
高校生で両親と仲良く、学校もそこまで遠くない奴が一人暮らしをしてるなんて、理由が気になるよな。
今まで理由を聞いてこなかったのは、俺が両親と仲が良くないかもしれないという気遣いからかもしれない。
「別にそんなに深いわけがあるわけじゃないよ。父さんは、社長だし、母さんは副社長だから家にあんまり帰ってこれなくて、俺の面倒はお手伝いさんが、全部やってくれた。だから、俺は高1まで自分のことなのに、身の回りのことが何1つできなかった。流石にまずいと思って、親に頼んで1人暮らしを始めさせてもらっただけだよ。最初は超反対されたけどな」
「なるほど・・・お金持ちにもそんな悩みがあるだね・・・だから、この家もオートロックだし高校生の1人暮らしには広すぎるサイズだったんだね」
「俺はいいって言ったんだが、両親が最低ここじゃないとダメだって言われてな・・・って言うかこんな時間か。さっさとお風呂入って来い」
「いや、今日は先司入ってきていいよ」
「ん?そうなのか?じゃあ入ってくるけど・・・」
いつもは夕食を食べる前に瑞希が風呂に入って、俺が食べた後に入るので、俺が順番的に後になる。
今日は打ち上げで外食だったので、風呂に入るタイミングが重なったが、いつも通り、瑞希が最初に入るもんだと思ったが、今日は先を譲られた。
疑問に思いながらも、なにかやっておきたいことでもあるのかと思い、俺は先に風呂に入った。
「風呂出たぞー、次瑞希入って・・・」
風呂から出て洗面所で着替えた後、そう言いながらリビングへと続く扉を開けた。
「Trick or Treat! お菓子くれなきゃいたずらするぞ!」
瑞希が血だらけのナースの格好で突然俺に脅かしに来る。
「何してんだよ」
今日まだハロウィンじゃないぞ。
67話も読んでいただきありがとうございます。
文化祭編はこれにて終了!
物語の季節がやっと、今に追いつきそうですね。
これからも応援よろしくお願いします。




