合流
そう思いながらふと、クラスの出入口に目を向けてみると、見知った人物がいた。
そう、お母さんだった。
「すぐ戻るから、ちょっとだけ抜けてもいいですか?」
「お手洗い?全然行ってきていいよ」
「ありがとうございます」
クラスメイトに都合よく勘違いしてもらったので、私はクラスの外に出て、お母さんを連れ出す。
「お母さん、こっちに来て」
「ああ、うん」
お母さんを人気のない場所まで連れ出す。お母さんと呼んだ時には並んでいる人にすごく目立った。あれが涼風さんのお母さんなんだーとか言われて、ざわざわとしてしまった。
「瑞希、あなたのクラスすっごい人気じゃない。長い列ができてたわよ」
「お母さん、なんで来たの?来ないでって言ったじゃん」
「我が子の文化祭ですもの。来るなって言われても、来ますよ」
別に来ること自体は問題じゃない。お母さんの身体が心配なだけ。
「そうじゃなくて、体は大丈夫なの?」
「肺炎はもう治ったし、今までより仕事の量も減らしたから体は大丈夫よ」
「もう、私に仕送りしなくていいから」
「何言ってるの。仕送りって言ったってそこまでの額を渡せているわけじゃないんだし、あなたの母親ですもの、これくらいはさせて頂戴」
母の強い意志が見えて、私はこれ以上言うのをやめた。
「それにしても、あなたのクラスのフルーツ飴?そんなに人気な食べ物なのね。あんなに並んでてびっくりしたわ」
「そ、そうなんだよね。今の流行りとかでいっぱい来てるね」
私のせい(それだけじゃないけど)でこんなに並んでいるなんて、実の母親には口が裂けても言えない。
「じゃあ、瑞希にも会えたし、私はこれで帰るわ」
「え!もう帰っちゃうの?もうちょっとゆっくりしてっても」
「司君にも言われたけど、そんなに長居するつもりじゃないし、これで帰ることにするわ」
司に会ったんだ。
「分かった、ばいばい。また連絡するね」
「ええ、忘れないでね」
***
「先輩、もう体育館暗いじゃないですか!もう始まってますよ!」
「ごめん、ごめん」
瑞希のお母さんと話していたら、思ったよりも時間が経っていたらしく、体育館の吹奏楽部のステージはもう始まっていて、体育館は暗転していた。
「司!」
暗転していて、遥紀を探すのに時間がかかると思ったが、遥紀は体育館の入り口で待ってくれていて、探すことなく合流することができた。
「遅かったな。もう始まってるよ」
「先輩!初めまして。1年の水上希と申します!」
「そんなに堅苦しくなくていいよ。俺は司とおんなじクラスの黒瀬遥紀。司と仲良くするなら俺と会うかもだからよろしくね」
「はい!」
え、仲良くするの?水上さんは俺なんかより同級生の子と仲良くしなさいな。
「先輩、早く前に行きましょう。齋藤さんが良く見えないです」
「ああ、そうだね」
俺たちは体育館の入り口からステージが良く見えなるように前に進みだす。
「それにしても、遅かったな。今から行くってメッセージ貰ってから結構経ってるぞ」
「すまん。偶然、瑞希のお母さんと会って、話してたらこんな時間になっちまった」
「マジか、涼風さんのお母さんか」
「ちょ!」
慌てて、遥紀の口を塞ぐ。
恐る恐る水上さんの方を向くと、水上さんは友達である齋藤さんを見つけたらしく、気づいてもらえるように頑張って手を振っていた。
吹奏楽の演奏のおかげでこの会話は水上さんまでには届いていないようだった。
「ん、もしかしてこのことは水上さんには内緒だった?お母さんに会ったとき、水上さんもいたんでしょ?よくバレなかったね」
「瑞希って呼んでたから誰だか分からなかったっぽい」
「あら、司の瑞希呼びも功を奏す時が来るとはね」
「うっせ」
それにしても、合流することができて良かった。やっと馬鹿みたいに浴びていた視線から解放される。ここまで来るのにも視線を集めていたが世森先輩と一緒にいたときなんか、視線を浴びすぎて刺されるかと思った。
***
「吹奏楽部すごかったですね!」
「そうだな」
吹奏楽部が終わった俺たちは少し遅いが、お昼を食べるために飲食を出しているお店を回っていた。
「先輩!たこ焼き食べたいです!」
「じゃあ、ここにしようか」
もうお昼時も過ぎているのにたこ焼きを出しているクラスは他のクラスに比べてだいぶ並んでいたが、俺もたこ焼きを食べたい気分だったので、最後尾に並んだ。
「え!」
列に並んだ瞬間に、後ろの扉が開き、見知った声が聞こえた。
「瑞・・・涼風さん」
「早乙女君に、黒瀬君、それに・・・」
「1年の水上希です!」
3度目の自己紹介だって言うのに毎回元気いっぱいで挨拶するね。
「涼風さんも、たこ焼き買ってたの?1人で?」
遥紀が瑞希に話しかける。そういえば、瑞希の周りには一緒に文化祭を回っている人らしき人物が見えない。
「自分のクラスでのシフトが終わった時にこのクラスの人に手伝ってほしいと言われましてね。何でも、発注を間違えて量が多くなってしまったので多く売らなければいけないそうです」
だから、このクラスだけ異様に並んでいたのか。すごいな瑞希パワー。
「それで、今終わったところなんですが、お礼として友達が多いとかで、たこ焼きをいっぱい貰ってしまいましてね、よろしければ差し上げますよ」
手に持っている袋を見ると、1人だけでは到底食べきれないような量が入っていた。
遥紀の方に視線を移すと、遥紀はなんだかよからぬことを考えていそうな顔をしていた。
63話も読んでいただきありがとうございます。
今日はあと2話投稿します。(夜遅くなってしまうと思います。ごめんなさい)
これからも応援よろしくお願します。




