ご無沙汰
「ちょっと、美琴先輩までなにくっついてるんですか?」
「だってー怖いんだもん」
棒読みで全然怖がってそうに見えない。
「美琴先輩までってなんですか。私は怖がってませんしくっついてもいません!」
いや、あなたは確実に怖がってるし、くっついてきてるよ。
こんな俺だけ絶対絶命の状況でも、今更戻ることはできないので、仕方がなく前に進む。
「ひゃぁ!」
進むごとに怖さ加減が増すにつれて、水上さんの悲鳴も大きくなっていく。
「あ、ゴールです!」
ゴールとなる扉が見えたとき、希望が見えたのかビビりまくっていた水上さんは扉に向かって走り出した。
「あ、ちょっと水上さん・・・」
突然走る水上さんを見失うまいと俺も後に続く。
「うぉーーー!」
その時、扉の前に最後のお化けが出てきて、水上さんを驚かせにかかった。
「ひゃーーー!」
突然前にやってきたお化けに急に足を止めバックした水上さんは後ろで追っかけていた俺にぶつかって2人とも転倒した。
「大丈夫?水上さん」
「大丈夫です。ありがと・・・きゃーーーーーー!」
水上さんはお化け屋敷なんかでは比較にならないほど大きい声を出した。
「どうした・・・あ・・・マジでごめん!」
俺はなぜあんな声を出したのか分からず、水上さんに尋ねていた途中で手になにか柔らかい感触があるのに気づき、視線を落とすと俺の手には1番置いてはいけないところにあった。
「・・・私からぶつかったので特別に許します。怖かったからとかじゃないですよ」
なんとか許してもらえてよかった。
「分かってるよ。じゃあ、もうお化け屋敷でますよ」
お化けなんかよりも数十倍こっちの出来事の方が心拍数が上昇した。
「水上さんの気持ち良かった?」
美琴先輩は水上さんがまだびくびくしているのをいいことに小さい声で問いかけてくる。
「なんてこと言うんですか。手が当たっただけでそんなこと分かりませんよ」
「なーんだ。つまんないの」
近頃、美琴先輩は瑞希みたいに俺をからかいはじめた。純粋無垢な子は水上さんだけだよ。
・・・柔らかかったけどね。
「やっとお化け屋敷から出られました!」
「怖かったなら無理しなくても良かったのに」
「だから、怖くなんてなかったです!」
そのスタンス貫くつもりなんだ。そこまで貫きたいならもう俺は何も言わないよ。
「見て、この1階下のクラスで射的やってるよ!」
「げ」
美琴先輩は楽しそうにパンフレットに載っている射的のお店を指さす。
遥紀と別れて、20分ほど経過しているため、合流時間にはあと10分ある。あと1つくらいだろう。
射的は目立ちやすそうだが、他に隠す手段も見つからないため、覚悟を決めるか。
「射的ですか!じゃあ、美琴先輩勝負です!私が勝ったら、あそこにあるチョコバナナ奢ってもらいます。司先輩に」
「え、なんで俺?」
「じゃあ、私が勝ったら逆に私にチョコバナナ奢ってもらうよ。司君に」
「だからなんで俺?全然逆じゃないし」
俺の言葉なんか無視して、2人はずんずんと射的のクラスに向かっていく。
「なあ、水上さん。美琴先輩と射的勝負は・・・」
「しーーー」
以前の俺と同じように美琴先輩と射的勝負をしようとしているので、俺は水上さんに美琴先輩が射的がめちゃくちゃ上手いことを教えてあげようかと思ったが、途中で美琴先輩に止められてしまった。
「先輩、大丈夫ですよ。こう見えて私射的得意なんですよ!」
ドヤ顔を見せてくるが、完全に美琴先輩に敗北する俺と一緒だった。
結果は美琴先輩のボロ勝ち。
知ってたよ。
「なんでー」
得意と言っていた水上さんは一つも落とすことはできていなかった。
「じゃあ、約束通りチョコバナナ奢ってね?司君」
「だからなんで俺なんですか、関係ないですよ」
「男に二言はないでしょ?」
一言も言った覚えはない。
「まあ、それくらい言ってくれれば奢りますけどね」
「やった!」
謎の勝負に巻き込まれ、俺は美琴先輩にチョコバナナを奢った。
「うーん、おいしいね。久しぶりに食べたけどやっぱりこの味だよね。司君も食べる?」
「え、いいんですか?」
「いいよ」
間接キスとかはそこまで気にしないが、チョコが溶けていて、食べた後がくっきりと分かり、なんだか緊張する。
「じゃ、じゃあいただきます」
「はい」
俺はその棒を受け取ろうとしたのだが、美琴先輩はチョコバナナ本体を俺に近づけてくる。
「あーん」
「恥ずかしいですよ」
「いいからいいから」
止まることのないチョコバナナに観念して、俺はおとなしく差し出されたチョコバナナにかぶりつく。
「いいなー」
水上さんから羨ましがる声が聞こえる。それはチョコバナナが食べたいって意味だよね?
そんなことをしていたら、遥紀の用事が終わったらしく、メッセージが飛んできた。
『今手伝い終わったんだけど、せっかくだからこれから始まる、吹奏楽部のステージ見に来ない?そこで合流もできるしさ』
「この後、吹奏楽のステージ見に行かないですか?」
「いいですね!齋藤さんも吹奏楽部なので行きたいと思ってたんですよ!」
「私はもうそろそろ帰らないと。もともとこんなにいるつもりじゃなかったからね。司君とたまたま回れるからここまで遊んでたけど、この後用事があるんだよね」
「そうでしたか」
そういうことなので、ここで美琴先輩とは別れて、俺と水上さんは吹奏楽部のステージをやっている体育館に向かった。
体育館に向かっている途中にある、下駄箱で俺は見知った顔を見かけた。
すると、あちらも俺に気づき、近づいてきた。
「ご無沙汰してます。真由美さん」
61話も読んでいただきありがとうございます。
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