文化祭巡り
「ちょっとこっちに!」
うちのクラスの前はお客さんでいっぱいなため、とりあえずなるべく人目が付かない場所まで移動した。
「先輩!どういうことですか!黒瀬先輩と一緒じゃないんですか?なんでこんなきれいな人が一緒なんですか?」
「今から説明するからちょっと待って」
「ご紹介します。こちら後輩の水上さんです」
「水上希です!」
「よろしくね、水上さん。私は司君のバイト先の先輩で世森美琴です」
「先輩バイトしたんですか?」
「うん。そうだよ」
「どこでですか?ファミレスとかですか?」
「マッサージ店だよ」
「あ・・・」
「あ、もしかして言っちゃいけないやつだった?」
「あ、いえ別に大丈夫です」
本音を言えば、できれば隠しておきたかった。
教えたら瑞希みたいにバイト先に来てしまうかもしれないからだ。別に来ることは問題じゃないのだが、俺を指名されたらたまったもんじゃない。
やっと、瑞希にマッサージするのも慣れてきたってところなのに水上さんまで来たら、心臓がもたない。
「えーーー意外です」
「そうでしょ。しかも司君、マッサージすっごく上手いんだよ」
「私も、行ってみようかな」
美琴先輩が余計なことを言うから水上さんが良からぬことを言いはじめた。
「絶対ダメ」
「え!何でですか!」
「百歩譲ってきてもいいけど、俺を指名だけはNG」
「そんなーーー」
水上さんは分かりやすくショックを受けていた。
「俺なんかより美琴先輩の方が何倍もマッサージ上手いから、マッサージ受けたいなら美琴先輩にしておけ」
「むぅー、先輩のケチ」
「黒瀬は他クラスの手伝い行ってて30分後くらいに合流する予定。それまでどこ行きたいですか?」
「私は、さっき見かけたコーヒーカップに行きたい」
「先輩!私は1年5組のフォトスポットで写真撮ってもらえるので、そこ行きたいです!」
あ、絶対ダメ。
コーヒーカップなんて、3人で1つのカップに乗るの?絶対ダメ。
フォトスポットで写真取ってもらうのなんてもろ見せつけてるじゃん。絶対ダメ。
2人とも俺のこと嫌いなのかな?学校での俺の立場なくそうとしてる?
「却下です」
「えーなんでよー」「なんでですか?理由を求めます!」
「自分の見た目がすごくいいってご存じですか?今だって、結構やばいのにそんなところ行ったら、嫉妬で殺されそうです」
「そんなー可愛いなんて言いすぎだよー」「またそれですか。私が他の子より可愛いなんてありえません」
2人とも同じようなことを言っているが、美琴先輩は自分の美貌に気づいていて、わざとこういう発言をしているのに対して、水上さんは本気で気づいていないようだ。
だが、どこにも行かないわけにはいかないので、どうするべきかと悩みながら文化祭のパンフレットを見ていると、1つの出し物が目に入る。
「とにかく却下です。こことかどうですか?」
そう言って、パンフレットに書いてあるお化け屋敷を指さした。
ここなら会場全体が暗くて、顔も良く見えないだろうし、何人で来ているのかも分からないだろう。
「お化け屋敷か、入るの何年ぶりだろう。いいね!」「わ、私はお化け屋敷な、なんて怖くないですからい、いいですよ」
「よし、じゃあそこに行こう」
1人怖いのを隠せていない人がいたが、俺も人を気遣ってやるほど余裕がないので、お化け屋敷に決定させた。
「世森先輩は高校生ですか?それとも大学生ですか?」
「大学2年だよー」
「高校はここだったんですか?」
「いや、近いんだけど、ここじゃないよ。新場高校ってところだよ」
「え!めちゃくちゃ頭いいところじゃないですか!尊敬します!」
今日が初対面にも関わらず、お化け屋敷への道中で美琴先輩と水上さんは楽しそうに話している。
俺は話に入ることはせずに、一歩後ろに位置取り、俺はこの2人とは関係ないですよー的な空気を出していた。
もうお昼時でお客さんは、飲食のお店の方に集中しているため、お化け屋敷はそこまで並ぶことなく入ることができそうだった。
ここでも、俺はなるべく2人に近づかず、無関係な人を演じていた。
「はい次の人― うぉ! 2人ですか?」
お化け屋敷の受付の男子は突然来た美女2人に驚きながらも質問した。
いっそ、2人で行ってきてもいいよ。俺は外で待ってるから。
「あ、司君もです」「先輩もです」
「え!3人だけですか?」
俺の願望も通ることはなく、受付の男子は美女が来たこと以上にその2人と一緒に俺だけがお化け屋敷に入ることに驚いていた。
「チィ」
案内され、お化け屋敷に入る直前で受付の男子の舌打ちが聞こえる。
俺お客さんだよ。もうちょっと優しくして。
「先輩、前行ってください」
「水上さん、お化け屋敷苦手?」
「そ、そういうわけじゃないですよ。先輩が前見やすいかなーって思っただけです」
中に入ってみると暗かったが、所詮は文化祭レベルなので、そこまで怖い感じがしない。それなのに水上さんは隠しているつもりだろうがビビりまくっているのがバレバレだった。
少し歩くと、血だらけのお化けが俺たちの前を這っていく。
「怖ーい」「ヒィ!」
2人とも俺に寄りかかってくる。
水上さんは本気で怖がってそうだからしょうがないけど、美琴先輩は棒読みで全然怖がってなさそうなのにからかうために俺に近づいてきてるな。
勘弁してくれ
60話も読んでいただきありがとうございます。
今日は夜頃にもう1話投稿致します。
これからも応援よろしくお願いします。




