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指名

 「いきなり何のことかな。涼風さん」


 心に片隅にあった最悪のケースに狼狽えながらも悟られないように冷静に返した。


 「ごめん、確かにいきなりだったよね。昨日あるお店に行ったんだけど、そこで早乙女君っていう名前で声も似ているような人がいたから、本当に早乙女君なのかなって気になって聞いてみたんだけどどうかな?」

 「昨日は遥紀と一緒にいたよ」


 嘘は言っていない。遥紀と一緒にいたとは言ったが、一緒に帰っただけだ。それを涼風さんが俺の都合よく思い違いをしてくれただけだ。(そう仕組んだのは俺だが)


 俺は誤魔化すことにした。幸いまだ俺だと確信しているようではないようだった。学校で1番の人気者をマッサージしたなんてことが知られれば本人からもそうだが、周りが知ればどんな目に遭うか想像もつかない。


 「そうなんだ。私早とちりして勘違いしちゃった。あははは、ごめんね今日のことは忘れて」


 勘違いして恥ずかしかった涼風さんは少し早足で俺の前を通り過ぎ階段を降りようとする。


 その瞬間、視界の端で捉えていたその姿が消える。


 何が起こったのか考えるより先に反射的に手が出ていた。


 涼風さんは動揺し、少し早足で降りようとした階段を踏み外してしまっていた。俺の咄嗟に出た手は涼風さんの腕をつかみ、階段から転げ落ちることを阻止していた。


 「危なかったぁ。涼風さん大丈夫?」

 「・・・やっぱり昨日私と会ったでしょ」

 「いやいや、会ってないよ。涼風さんも顔を見ていないんだから、似た感じの雰囲気の人がいただけだと思うよ」

 「じゃあなんで私が顔を見てないことを知ってるの?」


 ミスった。これはあの体勢を見てないとわからないことだった。俺は慌てて誤魔化した。


 「それは…顔まで見たら流石に俺じゃないって分かるからそう思っただけだよ」

 「今、腕を掴んでもらったときに確信した。昨日マッサージを受けた時と同じ手だった。こっちは確信しているわけだし、これ以上誤魔化すなら学校中にばらしちゃうかもね」


 終わった。俺の平穏な学校生活が終わった。


 昨日マッサージした場所と同じ場所を掴んだのが裏目に出た。これ以上誤魔化しても乗り切れる気がしないし、脅されている俺がとれる選択肢は1つしかなかった。


 「確かに昨日マッサージしたのは俺だけど、あれは元々やる予定の人が病欠だからたまたま俺がやっただけで、わざとじゃないんだ。ほんとにごめん」

 「え!別に怒ってるわけじゃないし、謝ってほしいわけでもないよ。ただ気になったから聞いてみただけだよ」


 俺には気になった以上の何かを感じたが、その真意はわからずじまいだった。


 「君だって分かったから、今日はそれだけ。またね」

 「ああ、うん。また」


 煮え切らない返事のまま彼女を見送ったあと、俺も階段を降り教室に戻る。


 「司、遅かったな。お腹痛かったのか?」

 「いや・・・俺は無実だから遥紀は信じてくれるよな」

 「いきなり何のことだ?」


 遥紀はいきなり言われたことに何も分かっていなかったが、俺も説明するわけにもいかなかった。


***


 あの日から2週間ほど経ち、リラほっとでのアルバイトにも慣れてきた。数日前からカウンターでの受付も行うようになった。


 カウンターに立って事務作業をしていると、1人のお客さんが来店してきた。


 「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてですか?」

 「2回目です。予約してないですけど大丈夫ですか?」


 帽子をかぶり、マスクをしているお客さんは小さな声でそう言った。


 「大丈夫ですよ。今空いてるスタッフ限定になってしまうのですが、指名等ございますか?」


 俺は顔写真と少しの紹介文が1人づつ書いてあるスタッフの一覧を見せる。


 帽子とマスクで少し分かりにくいが雰囲気で女性だとわかった。彼女はその一覧を1人1人しっかり見ていた。


 「あの・・・ここに載っていない人でも指名できますか?」


 ここに載っていない人は基本的にいないはずだが、他店舗からの応援の人か新人の人ぐらいだろう。

 そんな人は今日来ていないはずだが、俺の知らない人がいるかもしれないと思い、一応聞いてみる。


 「そのスタッフのお名前等ご存じですか?」

 「・・・あなたです」


 そう彼女はマスクを下におろしながら言った。


 「涼風さん!なんで来たの?」

 「なんで来たのとは失礼だなあ。単に部活で疲れた体を癒しに来ただけだよ」

 「俺はまだ補助しかやったことがなくて、メインでマッサージしたことないから他のスタッフを選んだ方がいいよ」

 「いいや、君がいい」


 そう言われてついドキっとしてしまったが、すぐに冷静になり店長と相談してみることにした。


 「店長、今いらっしゃったお客様が僕を指名してくださったんですけど、まだメインでやったこともないのでお断りした方がいいですよね?」


 頼む断った方がいいと言ってくれ。1回目は補助だったからまだいいが、メインで彼女をマッサージするとなったら本当にどうなってしまうかわからない。断ってくれと心の中で願いながら相談してみた。


 「指名もらったの!早いね。最近は補助でも慣れてきて上手くなったし、そろそろメインをお願いしようと思ってたから早乙女君なら大丈夫だと思うよ。でも流石に最終チェックだけはしたいからその時に呼んでね」

 「はい。分かりました」


 終わった。また終わった。2週間前にバイトがばれたときに終わったと思った衝撃がまた来た。


 俺は涼風さんが待っているので逃げたい気持ちをぐっとこらえてカウンターへ戻る。


 「お待たせしました。私が担当させていただきます。こちらへどうぞ」


 空いてる部屋へ涼風さんを先に案内し、準備を整えてもらっている間に俺は必要なものを裏に取りに行く。


 「コンコンコン。準備の方よろしいでしょうか?」

 「はい。大丈夫です」

 「失礼いたします」


 これから俺はどうなってしまうのだろうか。

6話目も読んでいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いいたします。

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