大切
遥紀がいるからいいやと思って、水上さんと美琴先輩の誘いを受けったってのにその頼みの綱がいなくなったら俺は本当におしまいだ。
すれ違ったらだれしも視線を奪われるような美女2人に俺がちょこんといるところを想像するだけでぶるってなる。
「頼むよー遥紀―俺を殺さないでくれ」
「頼むって言われたって、司がホイホイ誘いを受けるのが悪い」
ごもっともです。遥紀と文化祭回るのだって、別に約束してたわけじゃないので、遥紀が予定を入れたところで悪いことは1つもありません。
「でーもー」
「だめったらだめ。俺も手伝いの約束しちゃったし、ドタキャンは流石にできない。できるだけ早く戻ってくるからそれまで頑張ってね」
「んーーー」
俺がこれから訪れる災難に為す術がなくなり、頭を抱えながらどうしようか考えていた時、バックヤードと売り場を隔てる仕切りの隙間から瑞希の姿が見えた。
「なんか瑞希に話しかけてるっぽいな」
飴の受け渡しから役割が変更になったらしい瑞希がテーブルに座っているお客さんと話をしているようだった。
「どうせ、ルールも分からん奴が、連絡先を聞こうとしてるだけだろ。馬鹿だなー昨日今日で何人断られてると思ってんだ。やっぱり司はああいうの嫉妬しちゃいますか?」
「うっさい。そんなんじゃねえから」
俺も昨日はシフトが被っていて知っているが、ルールを説明されていても、瑞希ほどの美女がいたらお近づきになりたいと思い、つい連絡先を聞いてしまう人は何人も見た。その度すっぱり断られて玉砕しているのも。
相手は制服をきていないので外部の人で、大学生くらいだろうか。
「見てみな。もうすぐ涼風さんにすっぱり振られるぞ。あ、ほら」
向かい合って少し話していたが、おそらく断ったところで瑞希が振り返り、その場を去ろうとした。
その瞬間、大学生グループの1人が立ち去ろうとする瑞希の手を掴み、引き留めた。
「これまずい。あ、おい司!」
俺はその光景を見ると、遥紀の言葉なんか聞こえなくて、一目散にバックヤードから飛び出していた。
ここで出て行ったら、注目を集めるし、俺じゃない人がきっと助けに向かうだろう。冷静に考えれば俺が出ていくべきではないというのは分かっていたが、そんなのは俺が出て行かない理由には弱すぎた。
「お客様、当店は従業員との触れ合いは禁止ですよ?」
俺は瑞希を掴んでいるその手に手刀を入れ、瑞希とその大学生とのつながりを断つ。
「いってえな。おい、何してんだよ。お前には関係ないだろ」
大学生はルール違反を気にも留めず、俺に高圧的な態度を取ってきた。
「いえ、彼女は当店の大事なクラスメイトですから」
「あぁ!そういうこと言ってんじゃねえんだよ」
さらに激高した様子でこのままだと暴力に発展しかねる。そうなれば営業停止もあり得る。どうするべきか。
「はーい。ストップ!」
これからの出方を窺っていると遥紀の大きな声が聞こえてきた。
「今度は誰だよ」
「このクラスの実行委員をやっている者です。お兄さん方、ルールを逸脱してますね、ここらで退店いただけますか?」
「まだ食べ終わってないし、出ていくわけねえだろ」
「そうですか。じゃあ、強制退店ということで」
そう言いながら、扉を開けると、入ってきたのは体育主任でムッキムキの高橋先生だった。
「問題起こされると、処理が多くなって困るんですよ、大人しく私と一緒に本部まで来てくれますか?」
「は、はい・・・」
自分より明らかに大きく、強そうな大人に凄まれて大学生グループはビビった様子で店を去っていった。
「お騒がせしました。ルールを破られるとこういった対応をせざるを得ませんが、ルールを守っていただければ楽しくご利用いただけますよ。ご協力お願いします」
「涼風さんと司はちょっと裏に戻って、あとのみんなはお店を再開して」
遥紀は堂々と言い放った後、俺と涼風さんをバックヤードの方に誘導する。
「たまたま高橋先生が外にいて良かったな」
「そんなわけないじゃん。あらかじめ、そういう事態が起こった時のために高橋先生に相談して、涼風さんのシフトの時間帯だけ、この階の巡回をしてもらってたんだよ。だからこの騒ぎも高橋先生に聞こえたってわけ」
「まじか・・・すげえな」
先を考えすぎてて、時々こいつが高校生だということを忘れそうになる。
「でも、司がすぐに駆けつけてなかったら、もう少し対処が遅れてたと思うよ」
「それは・・・そうだけど」
なら、俺が飛び出したのも無駄じゃなかったということか。
「まあ俺が衣装を着ようとか言ったわけだからそれくらいの対策はしておかないとね。俺はこれから事情説明行ってくるから涼風さんを頼むよ。ステージの手伝いもあるから早く行ってこないと」
遥紀は足早に教室を後にした。
幸いお店はその後も混んでいて、バックヤードには俺と瑞希しかいない。だが、仕切り一枚しかないため、小さな声で瑞希に話しかける。
「瑞希、大丈夫か?」
「うん、別に掴まれた以外何もされていないから大丈夫だよ」
その割には少し暗そうな顔を浮かべていた。
「・・・・・・」
かける言葉が見つからなくて、沈黙が続いた。外の騒がしい声がよく聞こえる。
「・・・私は大事なクラスメイトなの?」
「・・・そうだよ?」
沈黙が続いた後、ようやく瑞希の口から出た質問の意図が分からず、答えに困った。
「それだけ?」
「え?」
「それだけの理由で私のところまで飛んできてくれたの?」
「そう・・・」
瑞希の瞳がぎゅっとつぶれた。
「・・・なわけないじゃん。もちろん大事なクラスメイトってことはあるけど、クラスメイトどうこうじゃなくて、大事な人で守ってあげたかったからだよ」
「司!」
つぶれた目は勢いよく開き、俺に向かって瑞希は抱き着いてきた。
「ちょ、ちょっと瑞希さん?」
「ちょっとだけこうさせて」
瑞希にとっては絡まれることが当たり前でも、ああやって手を出されるとやっぱり怖くなるよな。俺だってめちゃ怖かったし。安心すると、抱き着きたくたくもなるよな。
でも、これいつまで続くの?もうすぐで俺限界かもしれない
「涼風さーん。大丈夫?」
「はい!」
ようやく手が空いたらしい瑞希の友達が声をかけながらバックヤードに入ってくる。
その瞬間、俺から離れ、急いで立って返事をする。慌てたのかいつもよりも大きな声で返事をしていた。
マジでナイス。俺も限界だった。
「わぁ、そんな大きい声出すんだ。無理そうなら出ないで、ゆっくりしててね」
「いえ、もう大丈夫です」
もういいのか?と言おうとしたが、瑞希の表情は暗いものから明るいものへと変化していて、その言葉は言わなかった。
そうして、瑞希は友達と一緒にお客さんの前に戻っていった。
なんやかんやあったが、大きな問題になることも瑞希も何事もなくて良かった。瑞希も元気になったし、恥ずかしかった俺の言葉も無駄じゃなかったのかな。
そう思い、廊下へと続く扉を開ける。
「あーやっと来た」
「遅いですよ!先輩!」
あ、忘れてた。俺はこれからがやばいんだった。
59話も読んでいただきありがとうございます。
この話でここまでは書きたくて、少しだけ長くなってしまいました。読みにくかったらすみません。
まだ文化祭は続きます!ご期待ください!
これからも応援よろしくお願いします。




