衣装
「当たり前じゃん。女子たちだけ着せて男子は見物なんてさせないよ」
「全員着用って言ったしね」
つい、俺を含めた男子どもが舞い上がっていたので俺たちは着ないものだと思っていた。
「でも、俺カフェ衣装なんて持ってない」
「それは大丈夫。ない人はレンタルで借りるから」
チッ、そういうこともケアしてあるんかい。
「瑞希もレンタルだろ?」
「いや、私は違うよ。忘れたの?私バイト先喫茶店だよ」
「あ、そうだった」
瑞希は最初の方はいくつものバイトを掛け持ちしていたが、俺と暮らすようになって余裕もでき、今は喫茶店のみで働いているんだそう。
場所はだいだい知ってるが、行ったことはない。瑞希に絶対に来るなとだいぶ強めに念押しされているからだ。だから、瑞希が喫茶店で働いていることをつい忘れる。
「でも、いいのか?そこの制服なんか着てったらバイト先バレるんじゃないか?」
「多分大丈夫。バイト先はチェーン店じゃない個人でやってる喫茶店だし、高校生が気軽に入れそうな雰囲気じゃないから、高校生っぽい人はほとんど来ないよ。制服にお店名も書いてないし、見ただけじゃどこの店かなんて分からないと思う」
瑞希が喫茶店の制服なんか着ていたってまさか本当に自分が働いている喫茶店の制服だとは誰も思うまい。
「遥紀、うまくやって借り物ってことにしとけよ」
「おっけー」
こういうとき遥紀はなんと頼もしいことだろう。
***
今日の放課後は文化祭準備に使われる時間だ。
そして、衣装が届く日でもあった。
「じゃあ、女子からサイズごとに並んでいるから取ってってくれ」
うちの高校はバイトがOKだと言っても、それなりに進学校だし、バイトしている生徒は多くはない。ましてや喫茶店系のバイトをしている生徒は一握りだ。
9割ほどの女子が席を立ち衣装を取りに行く。
少し出遅れた瑞希が衣装を取りに行くと、もう衣装は残っていなかった。
「ごめん!涼風さん。レンタルする数間違えちゃって、1着足りなくなっちゃった。一応、代用の衣装もあるんだけど・・・」
そして、事前に遥紀に渡していた瑞希のバイト先の制服を差し出した。
「それでいいですよ」
「ありがとう」
わざわざ自分がミスをしたと言って、違和感なく渡すとは本当に恐れ入る。
「ナイス遥紀」「むしろそっちの方がいい」
本来は誉めるべきポイントはないが、瑞希が他の女子とは違う衣装を着ることになって、他の男子は喜びだす。
「次に男子も取りに来てくれ」
これも同様、俺を含めた9割ほどの男子が衣装を取りに行く。
「じゃあ、衣装受け取ったら、女子は隣が空き教室だからそこでサイズが合うか確認してくれ。男子はここな」
そうして、お互いが着替えたあと、女子たちがこちらの教室に戻ってくる。
女子の衣装の種類は3種類の中から選べたが、男子は1種類しかないため、男子はどれも似たような格好になっている。
女子は衣装の種類がいい感じにばらけており、華やかなものになっていた。
瑞希が一番最後に入ってくると、クラスあちこちから男子の声が漏れる。
「やっば」「めっちゃ可愛いじゃん」「普通にモデルみたい」
瑞希の衣装は上品でおとなしい瑞希の様子にぴったりはまっていて、思わず目が奪われてしまいそうになる。
「あれー?司はあんまり興味なさそうだね」
「そりゃ、あの制服はよく家で見てるからな」
バイトの制服を家で洗濯して、干してあるのを飽きるほど見ている。
一応、洗濯は別々にしようと言ってはいるが、瑞希は適当なため、俺の洗濯かごに瑞希の衣服がたまに紛れている。バイトの制服くらいなら動揺せず、瑞希の洗濯かごに入れられるのだが、たまに見過ごせない服も入っていることがある。それに比べたら、こんなの可愛いものである。
そうは思っているが、それを着た瑞希は初めて見るので、つい目線を向けたくなってしまうが。
そうして、つい瑞希の方を向くと、瑞希もまたこっちを凝視していた。
目が合うと、クラスのみんなにバレないように一瞬だけニコッと笑い、口パクで何かを伝えようとしてくる。
俺が、その口パクが読めなくて、疑問のような態度を取ると、瑞希はそっぽを向いてしまった。
「あーあ、クラスの中でそんないちゃついちゃって、お熱いことで」
「そんなんじゃねえから」
どうせからかってるだけだろ。
衣装の合わせが終わると、メニューの相談だったり、内装の相談に話が移った。
***
そして、いよいよ文化祭前日。
この日は学校の授業はなく、1日文化祭準備に使われる。部活も基本的にないため、準備が終われば今日の学校は終了する。
「じゃあ、一応みんなの希望を聞いて、シフト表作ったんだけど、どうしても、入れないところあったら、言ってくれ」
文化祭は明日と明後日の計2日間開催される。
そして、その2日間のシフト表が公開された。
うちのクラスはフルーツ飴を販売するため、一応その場で座って食べられる席なんかも用意している。その関係でまあまあ多くの人が同じ時間に動員される。
1日目は俺と瑞希と遥紀のシフトが被っていた。
2日目は俺と遥紀は被っていたが、瑞希は別時間になっていた。
「ごめんね、2日目も一緒にしてあげたかったんだけど、他の女子との兼ね合いでどうにも合わせてあげられなくて」
「そんな気遣いいらんわ」
「そんなこと言って、実は一緒がよかったくせに」
第一、一緒になっても周りの目があるから話すことはそこまでないだろうし、文化祭は瑞希と回るわけにはいかない。文化祭では瑞希となにかするということはないのだろう。
しょうがないはずなのに、なんだか、その事実に少し不満を抱いた。
54話も読んでいただきありがとうございます。
文化祭も皆さんの予想に反した展開になるかも?
これから始まる文化祭をお楽しみに!
これからも応援よろしくお願いします。




