飴と鞭
一応中学3年生の学校の宿題でそこまで量も多くないため、俺はそこまで苦戦することなく、問題を解いていく。
宿題の半分ほど終わった段階であまりに丸つけが長引いていることに疑問を抱く。
「おーい、司。まだ丸つけ終わらないのか?早く一緒にゲームしようぜ」
「もうちょっとだから、待ってろ」
「ったく。今どこら辺?」
そう言って遥紀はゲームを一時中断し、ソファから立ち、俺達のテーブルに様子を伺いに来る。
その瞬間、玖美ちゃんは俺がやっていた紙を隠し、丸つけが終わってあるノートにすり替えた。
「お、ちょうど終わったのか。じゃあ、ゲームしようぜ」
「司さん、どうもありがとうございました」
遥紀の様子見のおかげで宿題から解放された俺は、遥紀と一緒になってゲームを始める。
ありがとう、遥紀。
その後、思ったより遥紀とのゲームに夢中になっていると、時間はあっという間に過ぎ、瑞希が部活から帰ってきた。
そして、いつの間にか玖美ちゃんも宿題を終わらせていた。
「ただいまー・・・ってみんないるね」
「おかえり」
「お邪魔しているよ」
「こんにちは、涼風さん」
「きゃー玖美ちゃんじゃん。玖美ちゃんも一緒に来たんだ。やったー」
騙されるな、瑞希。それとお前の秘密を守るために頑張った俺を褒めてくれてもいいんだぞ。
「じゃあ、みんないるし私がお昼ご飯を作ってあげよう」
「いいよ瑞希、部活から帰ったばっかで疲れてるだろ、俺が作るから」
「いいの。せっかくなら玖美ちゃんに私の手料理振る舞ってあげたいし」
俺は急にそこで1つの疑問が頭の中に浮かんできた。
「そういや、今日が夏休み最終日だし、瑞希は宿題終わったんだろうな?」
「え?いや、どうだったかなー?終わったと思うよ。多分?」
俺が質問をすると、瑞希は急に動揺し始めた。こいつ、絶対に終わってないな。
「じゃあ、見せてみろよ」
「いやーそれは別にしなくていいじゃないかな。ここは私を信用してみるのもありだと思う」
「なしだな。見せなきゃ今日の晩ご飯は豪華にするつもりだったけどなしだな」
「それはだめ!」
瑞希は晩ご飯に簡単に負け、俺に夏休みの宿題らしきものを見せてくる。
「なんだこれ?」
「だから、夏休みの宿題」
「白紙じゃねえか」
渡されたノートには夏休みの宿題をやった形跡が1つもなかった。
「だから、これからやるからそれは夏休みの宿題になるんだよ」
「・・・じゃあ、他の宿題は?」
「・・・」
あろうことか瑞希はほぼほぼ夏休みの宿題を終わらせていなかった。
遥紀もやってはいなかったが、あとちょっとのところなので、あと1時間くらいで終わるだろう。
だが、瑞希は今からやっても終わるか怪しいレベルで終わってない。
いつも、学期明けに凛々しい顔で宿題を出してるのに、前日にやってたってことか。そう考えると、なんだかあの表情もダサく見えてくるな。
「だってー今年の夏休みは旅行行ったりー意外と忙しくなっちゃって、やりそびれてたと言いますかー」
「おい、瑞希。俺が昼飯を作ってやるから、お前は今すぐ宿題をやれ」
「え、でもさっきは部活帰りで疲れてるからって」
「いいからやれ」
「はい」
瑞希は俺の気迫に負け、そそくさと宿題をやり始める。
まったく、俺が言ってなかったら本当に新学期宿題出せなくなるところだったぞ。そしたら、今までのイメージ台無しじゃないか。
「じゃあ、司さんには先ほどお世話になったので、私が代わりにお昼ご飯をお作りしますよ」
そこで、名乗りを上げたのは先ほど俺を脅してきた玖美ちゃんだった。
「やったー玖美ちゃんの手料理食べてみたい」
「キッチンのものお借りしてもいいですか?」
「ああ、うん。いいよ」
瑞希は玖美ちゃんの手料理が食べられることにおおはしゃぎし、今更俺が作るとは言えない空気になってしまった。
大丈夫だよな?俺のだけ毒とか入ってないよな?
俺の許可ももらったことで、玖美ちゃんはうちのキッチンで料理をし始めた。
瑞希はそんな様子が気になるのか、席を立ち、キッチンに行こうとするが、俺がそれを止め、席に座らせる。
遥紀もゲームを辞め、宿題に向かっている。
「よし、出来ましたよ」
「やったーお昼ご飯だーお腹ペコペコ」
出来た料理を見ると、カルボナーラだった。
料理し始めてからあまり時間が経っていないのにカルボナーラが出来上がるとはよほど手際がいいみたいだった。
「「「「いただきます」」」」
料理ができたので、俺たちは勉強を一時中断して、お昼ご飯を食べることにした。
俺のカルボナーラはみんなのと変わらないように見えるが、大丈夫だよな?
俺は恐る恐るカルボナーラを口に運ぶ。
「うっまっ」
思わず小声だが、感想が口から出てしまった。
俺もたまにお昼にカルボナーラを作るため、家に材料がある。玖美ちゃんはそれを使ったのだろうが、なぜ同じ食材でこれほど味に差が出るのだろうか。
「うっまー。これ司が作ってくれるのよりうまいかも」
おいこら。隣にいるのにそういうことを言うんじゃない。悲しくなるだろ。
「これ材料同じなのになんでこんなに味が違うんだ?」
「良ければ食べ終わったら作り方教えますよ?」
「いいのか?」
「はい。司さんなら喜んで教えます」
あれ、いくら遥紀や瑞希の目があるからって今度は優しくなった。
「美味しかったですか?」
「うん。めっちゃおいしいよ」
「ありがとうございます」
玖美ちゃんはすごく無垢な顔でお礼を言う。
やっぱり、玖美ちゃんっていい子・・・いかんいかん。料理でだまされかけたけどこの子は俺をはめているんだった。
料理がおいしくて、そんな顔をされたらつい忘れそうになる。
昼ごはんも食べ終わり、瑞希と遥紀には宿題を再開させ、俺は玖美ちゃんに先ほどのカルボナーラの作り方を教わっていた。
「司さん、いつもカルボナーラ作るときに牛乳使ってませんか?」
「うん。使ってる」
「今回はカルボナーラに生クリームを使ったんです。そうすると、濃厚な味わいになるんです。」
「なるほど」
「生クリームをこのタイミングで・・」
「なんで今度はこんなに優しくしてくれるんだ?」
俺はキッチンで遥紀や瑞希に聞こえないように小さな声で玖美ちゃんに問いかける。
「さっきは、宿題手伝ってくれましたから。そのお礼です。飴と鞭ってやつです」
飴をくれるだけ、それほど悪い子ってわけでもないのか?いや、そもそも鞭を打つのはダメか。
なんだか、玖美ちゃんに振り回される1日だった。
51話も読んでいただきありがとうございます。
ちょっと玖美ちゃんのこと悪く書きすぎたかなーって反省してます。
この話を読んで少しでも認識が変わってくれたら嬉しいです。
今後の玖美ちゃんの活躍にご期待ください。
これからも応援よろしくお願いします。




