言えない秘密
「もう1回言ってくれるかな?多分聞き間違えちゃったみたいだから」
流石に聞き間違いだろう。あんなにいい子だった玖美ちゃんがこんな悪い子になるわけがない。俺は受け入れたくない事実に目をそらしたくて、もう1度質問した。
「いいや、聞き間違いじゃないですよ。だから、司さんは私の言うこと聞かないといけなくなりましたねって。じゃないと、涼風さんの正体バラしちゃいますよ?あと、一応、私のこの性格のことは誰にも秘密ですよ。私のことは言っても最悪いいですが、言われたら涼風さんのことも言っちゃいます」
「それって、遥紀にも?」
「はい。兄さんにもです」
まじか、遥紀も知らんのか。
「分かったよ。言わないよ」
「うん。それでいいです」
「おーい、玖美。なに司と話してるんだ?」
長い内緒話を不思議に思った遥紀が玖美ちゃんに話しかける。
「何でもないです、兄さん。早く次を案内してください」
「そうだな。てことでじゃあな、玖美に次のところ案内してくるから」
「おお、じゃあな」
「またねー玖美ちゃん」
玖美ちゃんはさっきの態度からは想像もつかないような礼儀正しいお辞儀をして、遥紀についていく。
「どうしたの司?なんか変じゃない?」
「いいや、何でもない」
いい子だった玖美ちゃんがあんなになってしまって俺は動揺が隠せていなかった。
***
「今日、遥紀がお昼頃うちに来てもいいかって?」
「全然いいよー」
夏休み最終日、1件のメッセージが俺の元に飛んできた。
『後で司の家行ってもいい?』
『今日夏休み最終日だぞ。どうせ宿題終わってないんだから、俺の家来てないで、勉強しろ』
『だからだよ。司の家行って、司の宿題見せてもらえば早く終わるでしょ?そしたら終わったらそのまま遊べるじゃん』
『いや、自分でやれよ。俺は見せないからな』
『お願いだよ、司。俺頑張ったじゃん。特に涼風さんのことで』
確かに、めちゃくちゃお世話になってる。それを言われると俺にはどうすることもできない。
『分かったよ、ちょっとだけな。大部分は自分でやれよ』
『やったー』
ということで、遥紀が家にやってくるのが決定した。
***
「お邪魔しまーす」
11時頃、遥紀達がやってきた。
「お邪魔します。司さん」
「あ、玖美ちゃんも来たの?」
「そうなんだよ。俺が行こうとしたら、玖美も忘れてた宿題あるって言ってついてきたんだよ。玖美も来て大丈夫だったか?」
「ああ、それはもちろん大丈夫だけど」
玖美ちゃんが遥紀の見えないところでニヤッと笑う。
あ、これダメなやつかもしれない。
「あれ、涼風さんは?部活?」
「そうだよ。2時前くらいには帰ってくるらしいけどな」
「最終日まで部活とは大変だな。じゃあ、俺はパッパと宿題終わらせて遊びますか」
遥紀が珍しく、宿題を先にやり始めようとする。どうせ、帰ってきた瑞希と遊びたいだけだろうがな。
「その前にトイレだけ行ってくるわ」
「おう」
遥紀がトイレに行くためにリビングを離れると、俺の向かい側に座った玖美ちゃんが話しかけてくる。
「はいこれ、」
俺の前にノートが置かれる。
ノートには数学の宿題をやったと思われる計算式がいっぱい書いてあった。
「?どうしたの?」
「丸つけして?」
「玖美ちゃん?自分の宿題は自分で・・・」
「じゃあ、ばらしちゃうね」
「やります」
なんで瑞希の秘密が俺が守らないといけないんだよ。それも、瑞希は何にも気づいてないし、言えないし。
俺が玖美ちゃんの宿題の丸つけを始めると、遥紀がトイレから帰ってきて、俺が宿題らしきものをやっていることに疑問を持つ。
「あれ、司何やってるんだ?そんな宿題あったっけ?」
よし、これで遥紀が気付いて玖美ちゃんに言ってくれれば丸つけをしないで済む。
「それが今玖美ちゃんに・・・」
「司さんが、私の宿題の丸つけしようか?って言ってくれたんです。だから、お言葉に甘えてやってもらってます。ですよね、司さん?」
あれー?全然違うよ玖美ちゃん。玖美ちゃんがほぼほぼ脅迫のやって?って言ってきたんだよ。
「う、うん。そうだね」
だが当然、素直に言えるはずもなく、俺は思っていることと言っていることが正反対になっていた。
「いいなー。それ終わったら俺の宿題もやってほしいなー」
「だめ。甘えんな」
「ちぇ。司は、玖美には甘いよな」
違うんだよ。俺だってやりたくてやってるわけじゃないんだ。気づいてくれー遥紀。
為す術がなくなった俺は観念して、丸付けを再開する。
量が多く、丸つけも結構な時間がかかってしまった。だがそれも、あと何問かで終わるくらいになった。
「あー疲れた。ちょっと休憩。ゲームしよ」
丸つけをしている俺より先に遥紀の集中が切れたらしく、机から離れ、ソファに座りゲームを始める。
俺ももう少しで終わるので、終わったら遥紀とゲームするか。
そして数分後、最後の問いの丸をつけが終わった。
「よーし。玖美ちゃん終わ・・・・・・?」
俺が丸付けを終わらせたことを伝えようとすると、教科書を渡された。嫌な予感がする。
「じゃあ、次はこれをやってください。字がバレちゃうから答えを紙に書いといてくださいね。終わったら私がノートに書き写しますから」
「あ、はい」
逆らうことはできなかった。遥紀はゲームをしていて、こっちに気づかないし、角度的にはテーブルの上は見えないため、さっきと違うことをやっていても分からない。
誰も、助けてくれないことを悟った俺は自分の運命を静かに受け入れた。
瑞希ー早く帰ってきてー
50話も読んでいただきありがとうございます。
今回で記念すべき50話を迎えることができました。
今までの応援本当にありがとうございます。
次話は今日の夜頃投稿予定です。
これからも応援よろしくお願いします。




