遥紀の影響
それから、時間が経つと瑞希と室井さんがほぼ同タイミングでやってきた。
室井さんはきょろきょろした後、俺たちを見つけるとクラスで固まるのかと思ったのか、遥紀の横にちょこんと座る。そして、その様子を見ていた瑞希は、不自然ではないことを悟り、俺の隣に座った。
時間になり、俺たちは今回の案内役としての説明を受けた。遥紀の言っていた通り、男女1:1に分かれて、1つのクラスで2つの中学生グループを担当するらしい。
「じゃあ、分けるのもめんどくさいし、今座ってる隣同士の俺と室井さん、司と涼風さんでいい?」
流石に適当すぎかとも思ったが、室井さんはそれで納得してくれたので、当然俺と瑞希からの不満は出ることなく、これで決定した。
「じゃあ、行こうか。涼風さん」
「分かりました」
なんだか調子狂うな。学校外では瑞希と話す機会はめちゃくちゃあったが、学校の中で話したのは久しぶりだった。
俺は瑞希のこっちのモードと話したことはほとんどない。そのため、話しかけている人物は一緒なのに返ってくる言葉は全然違い、なんだか違和感を感じる。
それから、俺たちは事前に決められたコースで中学生に校内を案内する。
柔道場、トレーニングルーム、講堂、食堂など区立の中学校にはあまりなさそうな場所を案内した後、うちの高校で1番のアピールポイントである図書館を案内する。
「ここは、図書館になります。資生高校の図書館は普通の高校と違い校舎の中の1部屋としてあるのではなく、校舎の向かい側に独立して建築されています。蔵書数は約20万冊あり、高校の中でもトップクラスです。そして、ここは広い自習室も兼ね備えているため、テスト期間になっても満杯になることはありません」
「「「わぁーーー」」」
瑞希が中学生に淡々と図書館の説明をしている。中学生達は学校で見ることのない図書館の規模や内装に目を輝かせていた。
「ふっ」
何度聞いても、瑞希の違和感に慣れることなく、普段とのあまりの変わりように俺は思わず笑みをこぼす。
すると、瑞希と目が合った。
やばい。
「じゃあ、ここで説明をこちらの生徒に代わってもらおうと思います」
そうして、俺と瑞希の立ち位置を交換するため、すれ違おうとしたとき、ちょうど2人が交差する瞬間、中学生には見えない死角でまあまあ強めに殴られる。
あんなに大人しく説明していた人が殴る強さじゃなかった。すみません。
瑞希の方を見ると、さっきと変わらない顔で、でも威圧感たっぷりの態度ではやく説明しろやと指示をしてくる。
その姿に怯えながらも、中学生には悟られることなく、説明を始める。
その後も30分ほどかけ校内を案内して、中学生への校内案内は終了した。
俺たちのグループが1番終わるのが遅く、終わったグループは先生に報告したら帰っていいそうなので、俺と瑞希は帰るために誰もいない校舎を歩いていた。
「ねえ、私が丁寧に説明してるのに笑うなんて、ひどくない?」
「ごめん、ごめん。夏休みであんまり瑞希のそういうモード見てなかったからつい」
雑談しながら曲がり角を曲がると、その先には遥紀がいた。そして、遥紀もこちらに気づいたようだった。
「おう、司と涼風さん。そっちも終わった?」
「うん。終わったよ。ねぇ聞いてよ、司ったら私が中学生に丁寧に説明してるのに笑うんだよ?ひどくない?」
「まあ、司はいつもの涼風さんしか見てないからなー」
そこまで話していると遥紀の後ろに見覚えがある人影があるのにようやく気付く。
「玖美ちゃんか?」
「そう。今年で中学3年で、ここ受けたいらしいから案内してる」
遥紀の妹の黒瀬玖美。遥紀と似て顔の造形は整っていて、すごく可愛いが、性格は遥紀とは正反対ですごく真面目だ。だが、兄妹仲はとても良い。
そこまで言うと、遥紀の後ろから出てきて、挨拶してくれる。
「お久しぶりです、司さん。・・・と、こちらの女性は?」
「キャー可愛い。私は涼風瑞希だよ。瑞希お姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」
さっきはいると思っていなくて、素の瑞希の発言を聞かれてしまったし、遥紀の親族ならいいかと思った瑞希は最初から素を全開にして話しかける。
「おい、やめろ。玖美ちゃんはお前みたいな、きゃぴきゃぴしたタイプ苦手なんだよ。近寄んな」
「ひど!黒瀬君も何か言ってやってよ」
いつも通りの瑞希との会話を繰り広げていると玖美ちゃんが口を開く。
「兄さん、この2人はすごく仲が良さそうなのでお付き合いをされているんですか?」
「そうだよー。この2人は付き合ってるんだよ」
玖美ちゃんの予想外の質問に遥紀は面白がって、ふざけて答える。
「え!違うよ!私と司はそんな関係じゃ・・・」
「そうだよ、玖美ちゃん。俺たちはそういうのじゃないよ」
付き合ってないのだが、瑞希の咄嗟の否定に心がチクリと痛んだ。
「でも、玖美ちゃん。瑞希は今はこんなだけど、他の人にはすごく真面目なキャラで通ってるから他の人には言っちゃダメだよ」
「分かりました。言いません」
遥紀は基本的に俺の家に来るばっかりで、俺が最後に遥紀の家行ったのはだいたい2年前くらいだ。その時の玖美ちゃんはいい子だったが、今でもやっぱり玖美ちゃんはいい子だなー。誰かの兄と違って。
すると、玖美ちゃんは俺に向かって手招きをしてこちらに来るように指示を出す。
そして、玖美ちゃんの元に行くと、手を俺の耳に当て、内緒話をしてくる。
「これで司さんは私の言うことを聞かなくちゃいけなくなりましたね?」
「え?」
もしかして、遥紀の影響で性格変わっちゃった?
49話も読んでいただきありがとうございます。
次の話で記念すべき50話を迎えます。そして、総合ポイント5000ptも見えてきました。いつかはしたいな書籍化。(まだまだまだまだ先だと思うけど)
皆様の応援のおかげでございます。本当にありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。




