綺麗
この花火大会は割と大規模で多くの出店が並んでいる。
まだ花火が上がるのに時間があり、りんご飴を食べながら世森先輩は、楽しそうに出店を見て回っている。
「ねぇ、あの射的やらない?」
「いいですよ」
「じゃあ、負けた方は勝った方の言うこと聞くことね」
「いいですよ。言っとくけど俺、負けませんからね」
勝った方の言うことを聞く罰ゲームはなんだか、なんだか見覚えがあったが、今回は努力せずとも俺は勝てる自信があった。
小学生くらいの頃に遥紀と一緒に来て、射的だけはよくやったものだ。今でも、射撃の腕は落ちていないはずだ。そのため、今回の勝負は流石にもらった。
まさか世森先輩は俺が射撃が得意だとは知らないだろう。どんなことでも絶対勝てないと思っていた先輩に勝つことがあるなんて。
どんな言うことを聞いてもらうかワクワクしながらその提案に乗った。
弾は全部で5発。
俺はできるだけ乗り出し、腕を伸ばして、両手で狙い澄まし5発中3つの景品を落とした。
「む。なかなかやるじゃん」
「よしっ。次は先輩の番ですよ。あ、りんご飴持ちましょうか?」
3つも景品を落としたのだから、先輩が頑張っても良くて、2つくらいだろう。俺は完全に勝利を確信していた。
「いや、大丈夫」
「えっ」
世森先輩は片手で食べかけのりんご飴を持ちながら、なおかつ乗り出すことなく、標準を合わせ、簡単に銃の引き金を引く。
そして、5発中4つの景品を落とした。
「まあまあかな」
「・・・なんでそんなに上手いんですか?」
俺はあまりの先輩の上手さに驚愕しながら質問する。
「去年の学祭の出し物がコルク銃の射的だったんだよ。だから、練習し放題だったわけ」
「そんな!ずるいですよ。そんなんじゃ俺に勝ち目なかったですって」
「でも、早乙女君も負けないって言ってたじゃん。相当自信あったみたいだけど?」
「ぐっ。まぁそうなんですけど」
そう言われるとぐうの音も出なかった。
「それで、言うことって何ですか?」
「まあ別にそんな大層なお願いではないんだけど、聞いてくれるかな司くん?」
「約束ですからね・・・・・・え、今司って」
あまりに自然な世森先輩の言葉にいつも通り返答したが、返答した後で違和感に気づく。
「そう。いつまでも早乙女君ってなんだか距離感じちゃうなーって。だから名前で呼ばせてほしいの。もちろん司君も」
想定外のお願いに俺は動揺しだす。どうせ、焼きそば買ってほしいとか荷物を持ってほしいとか、そういう易しいものだと思ってたのに、いや、お財布にはこっちの方が優しいのだが、俺の心には全然優しくない。
「えぇーっと。先輩はつけていいんですよね?」
頼む。これが承認されないとマジでやっていけない。
「えー。ほんとはつけてほしくないけど、ちょっといきなりすぎだから今はつけていいよ」
「それなら分かりました。美琴先輩」
実際に口に出すと、想像していた100倍恥ずかしくなった。それにしても、今はって、後々先輩もつけなくて、みこ・・・
そこまで考えると俺の頭はキャパオーバーになって強制的に考えることをやめた。
「うん。これからはそれでいこう」
キャパオーバーになってる俺に対して、美琴先輩は思惑が達成して、嬉しそうにうなずいた。
ヒューッ、ドン!
その時、轟音と共に1発目の花火が空に打ちあがる。その音で思考停止していた俺はようやく動き出した。
「あーあ。もうこんな時間か。あっちの方が良く見えるから移動しておきたかったのに」
俺たちが今いる場所は人だかりは多いし出店やそこら中に生えている木で花火が見やすいとはとてもじゃないが言えない。
だけど、その木の隙間から見えた花火は今まで見たどんな花火よりも綺麗に見えた。
「でも・・・綺麗ですね」
「そうだね」
俺の言葉に美琴先輩は共感したように大きく頷いた。
***
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」
花火が打ち終わり、花火大会が終わりを告げたころ、美琴先輩は少し残念そうに俺に話しかける。
「家まで送りますよ」
年齢的には俺の方が下なのだが、もう夜も遅いし、こういうときは男が送ってやるのが筋だろう。
そうして、俺たちは電車に乗り込んだ。
「そういえば美琴先輩、最寄り駅ってどこなんですか?」
「下野町駅だよ」
「え!」
俺は聞き覚えのある駅に思わす声が出る。
「どうしたの?なんかあるの?」
「ああ、いえ。何でもないです」
下野町駅と言えば遥紀の最寄り駅だ。意外な共通点があったとは。もしかしたら遥紀は美琴先輩を見たことくらいはあるんじゃないか。
「さ、着いたよ」
そんなことを考えていると、最寄り駅である下野町駅に着いたようだ。俺は促されるまま電車を降り、改札に向かう。
「え・・・」
ホームに降りた瞬間に聞こえた、聞き覚えのある声に俺は思わず振り返ると、俺の親友である遥紀の姿があった。
「どうしたの?」
美琴先輩が異変を感じ振り向き、俺に声をかけてくる。
どうしよう、まずは美琴先輩に遥紀を紹介するべきか?いや、それとも遥紀にこの状況を説明するべきか? この現状を見られると、確実に誤解される。
「えっ、えっとー」
どうしていいのか分からず混乱していると、遥紀がこっちに向かって歩いてくる。
完全に詰んだと思い、何もできない俺は目をつぶった。すると、声をかけられると思った俺の予想は外れ、俺の横を風が横切っただけだった。
恐る恐る目を開けるとそこに遥紀の姿はなく、振り返るとホームの方に歩いていく遥紀の背中が見えただけだった。
「大丈夫?体調でも悪いの?」
「あ、いえ。なんでもないです」
俺はわけのわからぬまま答えた。
47話も読んでいただきありがとうございます。
また投稿遅くなってごめんなさい!
あまり書いてこなかった世森先輩の魅力、気づいて貰えたでしょうか。
これからもこの作品の応援よろしくお願いします。




