サプライズ
「それじゃあ、行ってきます」
「ふふっ、行ってらっしゃい」
7月の末頃、俺はいつも通りバイトに出かけようとしたが何やら瑞希は笑みをこぼしていた。
「なんで笑っているんだよ」
「いーや。何でもない。ちなみにバイト何時まで?」
「18時までだけど?なんかあるの?」
「だから何にもないって。聞いただけ」
怪しい。絶対何かある。問い詰めたい気持ちはあったが。もうバイトの時間までぎりぎりだったため、俺は家を出るしかなかった。
バイトも始まり、受付に立っているとき、家に出る前の瑞希の挙動が気になっていた。
「おーい、早乙女君。ちょっと裏で荷物の整理やってくれない?」
「分かりました」
店長の指示で受付を外れ、裏の部屋に行き、そこで備品の片づけをしていた。始めて10分ほど経った頃、また店長がまた俺の元にやってきた。
「早乙女君、マッサージの依頼が来たよ」
いつもは店長が空いているなら基本的には店長がマッサージを行う、だが、今回は俺に白羽の矢が立った。
「店長は何かご予定あるんですか?」
「ああ、そういうことじゃなくて。お客さんが早乙女君をご指名なんだよ」
びっくりした。指名なんて久しぶりだ。あれからちょいちょい指名なしのお客さんをマッサージしたことはあったが、指名は貰ってなかった。
「もう部屋には通してあるからなるべく早く準備して、お客さんのところに向かって」
「はい!」
久しぶりの指名に嬉しさと緊張を覚えながらも俺は準備を終わらせ部屋の前に行き、ノックをして部屋に入る。
「お待たせし・・・」
「やっほー司。来ちゃった」
そこには先ほど家で別れた瑞希の姿があった。バイトの終わりの時間を聞いたのも家を出るとき笑っていたのもこういうことだったのか。
「なんだよ。瑞希かよ。期待して損した」
「なんだとは何だ。私だって大事なお客様でしょ?」
「なんで来たんだよ。お金だってかかるし、マッサージしてほしいなら家で言ってくれればするのに」
「この前久しぶりにマッサージしてもらったらまたやってほしくなっちゃって。それに、家でやってもらうのはなんか違うなーって。私たちのきっかけってここでしょ。だからここでやってもらいたいの」
もうここに来ちゃってるし、こっから追い返すなんてことは到底できないため俺は仕方なくマッサージを始めた。
でも、相変わらず瑞希にマッサージするのは心臓に悪い。普通の女性だって緊張が倍以上になるのに超絶美女になったらもう心臓が持たない。
マッサージが終了し、お会計も終わると、マニュアルでは次の予約をするのか聞く手筈になっている。
俺は見える範囲には誰もいないことを確認してから小さな声で瑞希に話しかける。
「おい、瑞希。まさか次の予約はしないよな?ここでのマッサージには満足しただろ。次からは言ってくれれば家でやるって」
「うーん。次の予約はしないかな」
良かった。家でマッサージするならまだ緊張感も少しは和らぐだろう。
「でも・・・またゲリラで来るからその時はマッサージよろしくね」
そう言って瑞希はお店を出て行った。
俺の心臓はははたして持つのだろうか?
そして、迎えた俺の誕生日。
俺が朝起きると瑞希は部活に行っているらしく姿が見えなかった。
朝から練習がある日はだいたいお昼の14時すぎくらいに帰ってくる。
そして、俺は今日はバイトで14時からなので、ちょうど入れ違いになってしまうだろう。
仕方がないと思いつつ、俺はバイトのために家を出る。
誕生日だからまたこの前みたいに俺のバイト先までマッサージを受けに来るんじゃないかとひやひやしたが結局バイト終わりまで瑞希が来ることはなく、俺の杞憂で終わった。
そして、バイトも終わり18時半頃に家に帰る。
自宅の鍵を開け、扉を開けると部屋は真っ暗で電気はついていなかった。
瑞希は外出中だろうかと考えを巡らせながら、リビングまで歩き部屋の変気を付けると、俺の目の前で大きな破裂音が2つ鳴った。
「誕生日おめでとう!」
「誕生日おめでとう」
瑞希と遥紀が2人同時に俺に向かってクラッカーを鳴らしたようだった。
「・・・」
俺は驚きのあまり声が出なかった。
「司、びっくりしてる。作戦成功だね」
「やったー。もう声も出なくなってるじゃん」
数秒後、やっと俺の思考が現実に追いつき、声が出る。
「・・・びっくりした。電気つけた瞬間脅かすとか反則だろ」
「だって、司いっつも冷静でたまには感情を出してほしかったから。ねー」
「ねー」
こいつら俺で意気投合してやがる。
「というか、遥紀来てたのか」
「そりゃあ、年に1回の大事な日だからね。来るよ」
いつも誕生日にはお互い連絡を取っていたが、今年は連絡がなかったため、忘れてるのかなーとか思ってちょっと寂しくなった俺の感情を返せ。
ふと、テーブルの上に目線が移ると俺の好物の料理が完成しているのが見えた。
「え!グラタンじゃん」
「まあね。司の大好物を作らせていただきました」
料理を見て、食欲の湧いた俺は手洗いをしたあと、すぐに3人で料理を食べ始めた。
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