私の気持ち
「はぁーー」
波乱が確定した未来にため息をつきながらもホテルの部屋までの道を歩く。
10分弱喋ってしまったからもうあいつらは準備も終わって、俺を待っている頃だろう。
扉を開け、部屋に入る。
「すまん、遅くなっちゃって。風呂行こ・・・」
なにか雰囲気がおかしかった。
瑞希は俺が入ってくると異様にびくっとして、それからこっちをちらちら見ているし、遥紀は満足そうな表情を浮かべている。
「おい、遥紀なにをした?」
「えー別に何もしてないよー。だよね、涼風さん?」
「え!う、うん。何もなかったよ?」
瑞希は焦りを隠しきれていなかった。それになんだか瑞希の顔が赤いような気がする。
風呂の準備も遥紀は終わっているようだが、瑞希はまだ途中だった。
「コンビニすぐそこなのに、司も遅かったな。もう夜も遅くなってきたし、早く風呂行こうぜ」
「お、おう」
俺は2人がなにか隠していることは分かったが、同時にそのことを言う気がないことも分かったので、何も言えず遥紀に促されるまま風呂に入りに行った。
***
司が私の忘れ物を買いに行ってくれた。
司が部屋を出て行ったあと、部屋には私と黒瀬君の2人きりになった。今まで、司が間にいたためこうやって少しではあるが2人だけの時間は初めてだった。
ちょっと気まずいなーとか思いながら言われた通りお風呂に入る準備をしていると、黒瀬君から話しかけられた。
「それで、司とはどこまで行ってるの?」
「・・・え!」
予想外すぎる質問に脳が数秒フリーズしたが、言葉の意味が分かる頃には私は大きな声を上げていた。
「どこまで行ったって?」
「? もう付き合ってはいるんでしょ?」
「付き合ってないよ!私はそんな目で見てないし、司だってそうだよ」
更なる予想外の質問に私は思わず即答した。
「うっそ、司の言ってたことは本当だったのか」
「あーびっくりした。黒瀬君ってそういう冗談言うんだね」
「冗談じゃないよ。付き合ってないのは本当だとしても涼風さんは司のこと好きなんだよね?」
「司にはすごく感謝してるけど、そんなんじゃないよ」
「あーいいんだ。そういう態度だと後々司取られちゃって後悔するかもよ?」
「どういうこと?」
つい反応してしまった。でも、好きだからとかじゃくてこれは同居人として気になるだけだから。
黒瀬君が私の食いつきにニコッと微笑み、言葉を続ける。
「俺この前、司が働いているマッサージ店の前を偶然通ったんだけど、窓から司の姿が見えたんだよ。 その時めちゃくちゃ綺麗な人と楽しそうに話してたよ。それこそ涼風さんと同じくらいの美女と」
私も1番初めに司のマッサージ店を訪れたときにマッサージしてくれた人は私でも驚くくらい綺麗な人だった。確かにバイトから帰ってくると、なんだかニコニコしている日があるし、スマホをいじってるときもにやにやしてる時がある。
その人かもしれないと思うと途端に焦りが体の中から出てくる。
「で、でもバイトの人なんだし会話くらいするんじゃない?」
「それに、お昼くらいの女子グループ。気づかなかった?」
「司が間違えて乗せられちゃったロープウェイのこと?それがどうしたの?」
「あの中の1人、俺の見間違いじゃなければうちの高校の後輩だよ。他の子たちは分からなかったけど、その1人はあの水上希だよ」
「っ!」
水上希と言えば今年入った後輩の中でも飛びぬけて可愛いと言われている子だ。その噂は私の耳にも届いているほどだし、廊下で実際に会ったときには挨拶しようとしたけど思わず黙ってしまったくらい可愛かった。
身体の中から出てくる焦りがどんどん強くなる。
「でもでも、他の子たちは知らなかったんでしょ?じゃあ別人の可能性だって」
「あの可愛さの子がもう1人いるとは思えないけどね。俺たちと合流したとき仲良くなったって言ってたし、司は気付いていないみたいだけど学校が始まって顔を合わせたらどうなるか分からないよ。・・・それで、これを聞いてもさっきの質問の答えは変わらない?」
司がいなかったら私は今頃どうなっていたか分からないし、すっごく感謝してる。優しかったり、いつもだらけてるのにやるときはやるところとか人として尊敬してるけど、これはきっと恋じゃない。きっと。
「うん、変わらないよ。司は尊敬してる友達だよ」
そう言うと今までおちゃらけた感じで話していた黒瀬君は真面目な顔になった。
「じゃあ、これで最後の質問。もし万が一、今後司のことが好きだって言う人が現れたら俺はその人を応援してもいい?」
司の親友の黒瀬君なら司の大抵なことは知ってるだろうし、そんな人に応援されたらその成功率はぐっと高まる。でも、私には関係のないことだ。この焦りだって、別に恋をしてるわけじゃなくて同居人として、友達としてなだけ。
「いいんじゃない?私には関係ないことだよ。黒瀬君が司に合っていると思うなら応援したらいいと思うよ」
私は心が張り裂けそうな気持ちをなんとかやり過ごして答える。
「ふーん、そうなんだ。分かったもう聞かないよ」
黒瀬君は私から背を向けた。それを見て私も背を向け、準備の続きを始める。
これで良かったんだ。私の抱いているこの感情は恋じゃない。司だって、成り行きで私を助けてくれただけでそういう感情は持っていないはず。
「俺は司には涼風さんが合ってると思うけどな」
黒瀬君がポツリと私にも聞こえないほど小さな声で言葉を漏らした。
だけど、たとえどんなに小さな声だったとしても私の耳はその名前を聞きこぼすことはなかった。
「やっぱり!」
私の身体は気づくと振り返って、力強い声で黒瀬君に話しかけていた。
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