後輩
彼女はロビーにある椅子に1人で座っていた。
目が合って、話しかけられた以上、このままスルーというわけにはいかない。
俺は彼女の座っている向かい側に座る。
「また会ったね」
「さっきぶりですね」
彼女の表情はどこか暗かった。
「他の友達はどうしたの?」
「部屋にいると思います」
「部屋には戻らないの?」
「ちょっと悩んでることがあって、せっかく楽しい旅行中なのに、悩んでる姿は見せられなくて。先輩私の悩み聞いてくれますか?」
内心はNOと言いたい気持ちはあったが、この場面で言えるほど俺の度胸は据わっていなかった。
俺は静かにうなずいた。
「私、クラスで友達がいないんです」
「一緒に旅行に来ている子たちは?」
「中学の友達なんです。高校に入って、クラスメイトが話しかけてくれると思って待ってたんですけど、声をかけてくれる人はいなくて。そのうちみんなグループが出来きて、クラスで孤立しちゃったんです。それで、さっきクラス全員が入っているライングループで夏休み中にみんなで遊ばないか?ってメッセージが来たんです。行きたいんですけど友達もいないし、そもそも行っても迷惑なだけなんじゃないかなって思うとつい暗い表情になっちゃって」
なるほど・・・だいたい原因は分かった。おおかた話しかけられないのは彼女の美貌のせいだろう。すごい美女というのは高嶺の花になりすぎて、声をかけづらい。それは話しかけられない日が続けば続くほど、イメージがついて悪化する。
瑞希はそこんところ猫をかぶってやり過ごしているが、不器用な彼女はそれが難しいのだろう。
だが、そのことをそのまま伝えてもこういう性格の子は自分がダントツでかわいいと全く自覚がないため、信じてくれない。
瑞希は自分のかわいさを自覚していて、まぁーねー私が可愛すぎるのが悪いのかとか言ってくるだろう。想像しただけでムカついてきたな。
だが、解決策は分からない俺はダメ元で原因を話してみる。
「嘘です!私よりかわいい人なんて学校にごまんといます」
やはり、信じてはもらえないようだ。それにしても、本当にそんな学校があったら顔面偏差値高すぎるだろ。
「第一、私より1年先輩にはバスケをやっていて、頭も良くて、それでいてめっちゃ可愛いって話題の子がいるんですけど、その子は人気者です」
なんか聞いたことあるなその肩書き。
「そういうやつはどうせ、家ではだらけてるんだよ」
瑞希がそうだからな。
「そんなことないです!この前、初めてバスケやっている先輩を見たんですけど、最初は負けてたのに 最後の最後でフリースローを2本とも入れて勝ったんです。きっと、真面目で練習を欠かさなかったからだと思います。そんな人がだらけているわけないです」
俺もその光景には心当たりがあった。なんかさっきから瑞希の特徴に当てはまってないか?
「ちなみに、その先輩最近なんか変わったことであった?」
「そういえば、1週間くらい休んでたってクラスメイトが言ってた気がします」
まさか・・・
「高校名教えてもらってもいい?」
「はい。資生高校っていうところです」
まさか、本当に後輩だった。そこまで言われると、やっとその人物に心当たりがついた。
確か、1個下の学年に瑞希くらいの美女が入ったって遥紀が言ってたな。それに、瑞希の試合を見ていたということはあの会場にいたということになる。
俺達はは図らずともこの旅行の前に1度会っていたのだろう。見覚えがあったのはこういうことだったのか。
「えぇーと、俺も資生高校なんだよね」
「え!!――――――」
「ちょ、ちょっと静かに」
彼女はホテルのロビーであることを忘れて、驚愕の顔とともに大きな声をあげた。
「じゃあ本当に先輩だったんですか!?」
「そうだね。俺もびっくりしたよ」
「じゃあ、学校始まったらちょくちょく先輩のところ行ってもいいですか?」
上目遣いお願いされる。可愛いなちくしょう。
「いいけど、来る時はなるべく目立たないようにしてね」
断りたくてもこんな言われ方したら断れないじゃん。
「!分かりました!そうします!」
終わった。俺の平穏な学校生活が完全に終了した。
瑞希の時はあいつ自身が猫を被っているから俺への目は向かないが、この子はそんなこと気にもせず話しかけてくるだろう。
目立たないでとは言ったが、あんな子がいたら目立たないわけがない。
「じゃあ、クラスの遊びも行かなくても良くなりました。ありがとうございます!」
「え!行かないの?」
突然彼女の顔は明るくなり、想定外の発言をされた。
「はい。だって学校では先輩に話しかければいいので」
「いやいや、クラスメイトの友達も大事だよ」
「それはそうかもですけど、1人いれば十分かなって。それともやっぱりダメですか?」
この子はわざとこういう仕草をするのかと思うくらいこっちの感情が揺さぶられる。
「ダメじゃないけど・・・」
俺だって男なので美少女のお願いは断れないんです。
それに俺と話しているところを見れば周りのこの子に対する誤解も解けて、次第に周りから話しかけられるようになるだろう。
友達が出来れば俺への執着も消えるだろうし、それまでの少しの辛抱くらいは甘んじて受け入れるか。
「私、水上希って言います」
「俺の名前は早乙女司。よろしくね」
「早乙女先輩ありがとうございます!悩みも無くなったし、友達待たせちゃってるので私は失礼します!」
そう言って、水上さんは屈託のない笑顔で去っていく。
俺の夏休み明けが波乱に満ちることが確定した日になった。
38話も読んでいただきありがとうございます。
これからも精進して参りますので、応援よろしくお願いいたします。




