2度目
瑞希は表情で誤魔化して、先に行ってしまった。
それから神社のあちこちを回って、箱根湯本駅に戻った頃には時刻は18時になる頃だった。
「そろそろホテル行って、チェックインするか」
「「賛成―」」
宿は駅から専用のバスが出ていて、それに乗ると大体10分くらいで到着した。
「予約していた、早乙女です」
「お待ちしておりました。こちらがお部屋のカギになります」
そうして、俺は2つの鍵を受付の人から受け取る。
旅行に出かける1週間ほど前、俺は箱根で泊まるホテルをネットで検索していた。
「どしたの?なんか難しそうな顔してるけど」
「なかなか良さげなホテルがないんだよ。もう旅行の日まであんまりないし、2部屋取らないといけないから」
「? なんで?」
瑞希は不思議そうな顔をして首をかしげる。
「なんでって、そりゃ人気なところはどこも埋まってるからだよ」
「そうじゃなくて、部屋は1部屋でいいんじゃない?」
「いやいやいやいや、男女で泊まるっていうのは流石にダメだろ」
瑞希の予想外の発言に焦りを覚える。
「私は別に気にしないよ? それに、私たちだってそんなにお金に余裕があるわけじゃないんだし、1対1じゃなくて黒瀬君もいるんだよ?」
「そういう問題じゃない」
「あ、もしかして2人で私を襲っちゃうってこと?」
瑞希がニマニマしながらからかってくる。こいつ、俺が手出さないからって調子乗ってやがる。本当に襲ってやろうか。
「全然違う」
「じゃあいいじゃーん」
「ダメです。これだけは譲れません」
「けーち。でも、ホテルないんでしょ?じゃあ、仕方な・・・」
「お!ここいいじゃん」
「チッ」
ホテル見つかったからって舌打ちすんな。
こうして、瑞希の反対にはあったがどうにか2部屋を取り、部屋に向かった。
部屋に入ると、和室が広がっており、その奥の窓側に椅子とテーブルが置いてある広縁があった。
「わぁーめっちゃいい部屋じゃん。最高―」
なんで瑞希がテンション上がってるんだよ。
「ここは瑞希の部屋じゃないのにそんな喜んでるんだよ。お前の部屋は1階下だ」
「いーやーだ。今日はここで過ごします」
「何のためにもう1部屋取ったんだよ」
まあ、瑞希だけ1人にするのもかわいそうだし、こうなることは大体分かっていたことなので、ここで寝ようとしたら絶対追い出すとして、それならまあいいか。
荷物をおいて、少しゆっくりすると俺たちは今日昼ごはんも軽く済ませた程度だったため、お腹のなる音が聞こえた。
全員お腹はペコペコで目玉の温泉は最後にして、まずは夕食を食べに食事処へ向かった。
料理は思ったよりも豪華で旅館らしい日本料理が出てきた。
「「「いただきまーす」」」
空腹だった俺たちはバクバクと食べあっという間に夕食を終えた。
「夜ご飯めっちゃおいしかったね」
「そうだなー」
夕食も食べ終わり、部屋に帰って寝そべると1日歩いた疲労がどっと押し寄せ、体は重くなっていった。
「でも、流石にそろそろ温泉入るか」
箱根に来た一番の目当てはこの温泉だ。疲れてぼーっとしているなんてもったいない。俺は意を決して、体を起こし着替えの準備を始める。
遥紀と瑞希もおろおろと動き出して、ごそごそと荷物を物色する。
「あ!やばい!」
瑞希がいきなり大きな声をあげる。
「どうしたんだ?」
「温泉入る準備で荷物見てたんだけど、日焼け止めが入ってない。今日の朝使って急いでたからそのまま鞄に入れないで家に置いてきちゃった」
「いいじゃん、日焼け止めくらい1日しなくたって」
「だめーーー。いい、日焼けは乙女の大敵なの」
確かに今日、明日は予報では晴れで夏の紫外線を1日浴びると日焼けは確実だろう。
「じゃあどうするんだ」
「コンビニとかで売ってると思うから買ってくる」
「でも、もう外は暗いよ?司行ってきてあげなよ」
「なんで俺が行かなくちゃいけないんだよ」
「じゃあ涼風さん1人で行かせる気?」
「・・・」
もう時刻は8時ごろになっていて、女子高校生が1人で土地勘もない場所を出歩くのは流石に危険だ。それが美少女ならなおさら。
「遥紀が行けよ」
「それはまあ、涼風さんのお世話は司の担当だからね」
「なんだよそれ、そんな担当についた覚えはない」
だからって、たかが日焼け止めを全員で行くのも違うよなぁ・・・
「まあ、しょうがないか。行ってきてやるから風呂入る準備しとけよ」
「「はーい」」
疲れ切った体を動かし、コンビニに向かう。
あれだけ渋ってはいたが、コンビニはホテルを出て少し歩いたところにあるので、行く決意さえ決めてしまえばそんなに大変なことでもない。
コンビニに入店し、まあまあ強そうな日焼け止めを買い、ホテルに戻った。
ホテルに入り、エレベーターに向かうためロビーを通る。
何となく周りの見渡しながらロビーを歩いていると、見たことある影が視界に移る。
俺がその子を見ていると、その子も俺の方に顔を向け、視線が交差する。
「あーーーーー、お昼の先輩ーーー!」
「しぃーーー。ちょっと静かに」
だが、今度は4人ではなくて、ハンカチの落とし主1人の姿しか見えなかった。
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