ハプニング
箱根湯本駅からバスに乗り、俺たちは初めに箱根の有名スポットの大涌谷に到着した。
バスを降りると早速強烈な硫黄の匂いが鼻を抜ける。
「え、やっば。めっちゃ硫黄の匂いするじゃん。くっさー。あ、黒いたまごだって何あれ!食べに行きたい!」
誰に話しかけるわけでもなく1人で喋っている。まあ、いいことだけど、最近ずっとテンション高いな。
瑞希の提案通り1番目立つお店に入り、大涌谷の名物の黒いたまごを買って食べることにした。
「へぇーこれ1個食べると寿命が7年延びるんだ。じゃあこれ10個食べれば170歳まで生きれるのか」
「そんなわけないだろ。ただの通説なだけだよ」
ていうか普通に100歳まで生きるつもりなのか。
購入すると本当に真っ黒な卵が出てきた。食べてみるとゆで卵と同じような味であったが、幾分か普通のゆで卵よりおいしく感じた。
「次はあのロープウェイに乗ってみようよ」
黒いたまごにはもう飽きたらしい瑞希は食べている最中にもかかわらず、次にロープウェイに興味を示した。
ロープウェイには早雲山駅方面と桃源台駅方面の2方向があり、俺たちは芦ノ湖のある桃源台駅方面のロープウェイに乗ることにした。
ロープウェイには基本的に2組ずつ乗るのだが、俺たちの後ろに他のお客さんはいなく、3人だけに乗ることができた。
ロープウェイに乗りこむと急に瑞希の口数が減っておとなしくなったような気がした。
「どうした?怖いのか?」
「だって、乗ってみると意外と怖くなってやばいかも」
「まだ出発もしてないぞ」
少し経つと出入口が閉じ、ゆっくり進んでいたロープウェイも加速を始め、高度もどんどん高くなってくる。
「ひゃぁぁー」
隣に座っていた瑞希がわずかに肩に寄りかかってくる。
その様子を見ていた向かい側に座っていた、遥紀がニヤニヤした顔で見てくるが、俺はこっちを見てないで外の景色を見ろと首を振って、ジェスチャーした。
「なんだ、こんな程度か。もう慣れた」
芦ノ湖がある桃源台駅まで大体20分ほどかかるのだが、10分ほど乗った頃には怖さもなくなったようでロープウェイ内を移動したりして景色を堪能している。
俺のさっきのドキドキを返せ。
「とうちゃーく」
桃源台駅に着くと、駅内に某有名アニメのラッピングと中心に2メートルくらいある大型フィギュアが展示されていた。どうやらここ箱根はそのアニメの聖地であり、俺はそのアニメの大ファンだった。
興奮して、写真を撮ったり眺めたりしていると、瑞希が話しかけてくる。
「司、このアニメ好きなの?」
「あーえっとーー」
俺はアニメとか漫画とかを結構読むのだが、漫画やらは自分の部屋に置いてあり、瑞希は部屋には入ってこないので、俺のひそかな趣味は知らない。別に言ったって構わないのだが、言う機会を失い、今更言うのもなんだか憚られた。
「俺が好きで司に見せたら、司も好きになったんだよな」
困った俺を見て遥紀が助け舟を出してくれた。
あくまで遥紀がおすすめしてくれたという体なら打ち明けやすい。遥紀は本当にアニメを見ないのだが、俺がアニメ好きなのは知っている。
「あ、そうそう。進め(薦め)られて見たら結構面白くて」
「そうなんだ」
瑞希はそんなに気にすることなく湖がある駅の出口に歩いて行った。
「司、涼風さんに趣味のこと言ってないの?」
「なんだか機会を失ってな。でも、今回のことできっかけは作れたから今度言ってみるわ。サンキューな」
「それならよかった」
芦ノ湖は綺麗な水に広大な面積があり、景色は奥にある山々も合わさって素晴らしいものだった。
遊覧船も出ていたが、1度乗ると時間がだいぶかかってしまうので、諦めることにした。その代わり、近くにスワンボートの乗り場を見つけ、それに乗ることにした。
3人で1つのスワンボートに乗ることができ、少し手狭ではあるが1つで3人全員が乗れた。
「めっちゃ疲れるな」
スワンボートには初めて乗ったが、これほど足が疲れるものとは思わなかった。ペダルが2か所についており2人でペダルをこぎ、1人がハンドル操作を行う。
疲れて動作が遅れる俺に対して、隣で漕いでいる瑞希は疲れる様子がなく、どんどん漕いでいく。
「ちょっと、遥紀代わって、もう限界」
「司、体力なさすぎ、もっと体力つけた方がいいんじゃない?」
「うるせぇ。瑞希が速すぎるだけだっての」
遥紀は俺と代わり数分漕いでいたが、きつい表情を見せることなく、普通に漕いでいる。
あれ、俺本当に体力なさすぎ? いくら帰宅部だからって女子に負けるのはもうちょっと体力つけるべきだなと密かに心の中で決意する。
スワンボートを降りたころにはお昼の2時ごろになっており、みんなお腹が減ってきた頃だ。
俺たちは桃源台駅を離れ、大涌谷駅に戻り、昼食をたべることにした。
帰りのロープウェイ乗り場に近づくと、前に女子の4人組がロープウェイに乗ろうとしているのが見えた。
すると、1人の女子のポケットからハンカチが落ちた。俺はそれに気づくと駆け足で近寄り、ハンカチを拾って、彼女に声をかけた。
「あの、すみませんハンカチ落と・・・」
「お連れ様でしたらお早めにお乗りください」
「え・・・」
そのまま乗務員に勘違いされ、ロープウェイに乗せられ、すぐに扉は閉められてしまった。
女子4人に俺1人。とんでもなくまずい状況になってしまった。
35話も読んでいただきありがとうございます。
応援に支えられてここまで来ることができました。ありがとうございます。(詳しくは活動報告を更新いたしましたのでそちらをご覧ください)
面白い、先が気になると思っていただけましたらブックマーク、評価のほどよろしくお願いします。
これからもこの作品をお願いいたします。




