幕開け
「終わったかー?」
「まだー。 女子の支度には時間がかかるの」
終業式も終わってその日の夜、明日の旅行に向け俺たちは荷造りをしていた。
「ホテルにあるから歯ブラシもバスタオルもいらないぞ」
「えー!そうなの。じゃあやり直しだー」
鞄の中からごそごそといらないものがどんどん出てくる。
聞けば、今まで友達と旅行に行ったことはないそうだ。だから俺と遥紀が旅行に行くと言ったときも意外な食いつきを見せたし、こうやって前日になると楽しそうに荷造りをしていた。
「よし、準備完了」
俺に遅れること30分、瑞希も荷造りを終わらせたらしく、感嘆の声を漏らす。
「じゃあ私は明日のためにもう寝ます」
時刻を見てみると、まだ22時でいつもは24時ごろ寝るのでいつもより2時間も早く寝るそうだ。
どんだけ楽しみにしてるんだと思いながら返事をする。
「そうか、おやすみ」
「おやすみ。司も早く寝なよ。明日寝坊するよ?」
瑞希が部屋に入るのを見送ってから、まだ俺が寝る時刻までは時間があったため、俺はゲームでもすることにした。
30分くらいゲームに興じていると、ガチャと扉が開く音が聞こえ、瑞希がリビングまでやってきた。
「どうした?」
「ベッドに入ってもなんでか寝れない」
楽しみにしていて寝れないのだろうが、友達と旅行なんて経験のない瑞希は、寝れない原因に気づいていないようだった。
「まあ、寝る時間がいつもより早いしな。まだ体が眠くないんじゃないか?」
素直に説明してもそんな楽しみにしてないもんとか言って信じてもらえないような気がしたので俺はその原因については触れなかった。
「そうなのかな?結構体は疲れてるんだけど」
「ゲームでも一緒にするか?この前の続きできてなかっただろ?」
「する!」
明日のことが楽しみで元気の有り余っていた瑞希はすぐに俺と一緒にゲームを始めた。
俺と瑞希のゲームの腕前は大体同じくらいで強いて言えば俺が強いくらいなのだが、ゲームをやっていると拮抗していた戦いが突然瑞希のキャラの動きが鈍くなり、勝敗が決する。
「よーし。瑞希、急に弱くな・・・」
瑞希の方を振り向くと、瑞希は瞳を閉じて静かに息をしていた。
明日のことからゲームに意識が移ると終業式でみんなの対応して疲れた体にすぐに眠気が来たようだ。
「無防備すぎだろ・・・」
あまりの無防備さに良からぬことを考えてしまいそうになるが、ここで手を出すと今までの関係性が全てなくなってしまうかもしれない。俺は必死に頭を振り雑念を払う。
気持ち良さそうに寝ている姿を見て俺も眠気を覚えると、瑞希に毛布をかけ、時間はまだ早いがベッドに入り眠りについた。
気がつくとアラームが鳴っており、スマホを操作し、アラームを止め体を起こす。
俺の家の最寄り駅に9時集合になっていて、今の時刻は8時を指していた。俺は昨日に今日のための準備をしていたため、今日はなるべくぎりぎりまで寝ていた。
部屋を出てリビングを見回すと、昨日と同じ場所でまだ瑞希が寝ていた。
俺と違って瑞希は朝に準備することが多く、いつもバタバタして準備しているため、俺は瑞希を起こしてみることにした。
「瑞希、もう8時だぞ。まだ寝ててもいいのか?」
瑞希は目を細く開け、おぼろげながらに応える。
「うーん。8時?まだ大丈夫」
それを聞いた俺はひとまず簡単に朝ごはんを作る。
朝食も完成しそうな8時10分ごろに匂いにつられたのか瑞希がもう一度目を覚ます。
「うーん。あれ朝? 昨日ゲームして、そのまま寝ちゃったっけ?」
「そうだぞ。対戦中に寝やがって」
「今何時?」
「今は8時10分くらいだな」
「8時10分か。・・・え!8時10分!集合時間って9時で合ってるよね?」
時刻を完全に理解した瑞希は急に焦りだした。
「そうだな」
「起こしてよー」
「起こしたぞ。そしたら瑞希がまだ大丈夫って言うから。それに昨日準備したなら今日それほど時間かからないだろ」
こうなる気はしていたが、瑞希が大丈夫と言った以上、こっちはどうしようもない。
「それは今日からの旅行中の準備で、朝の支度はしてないんだよーやばいやばい」
瑞希は慌てて自分の部屋に戻り、出る支度をしているようで中からバタバタとしている音が聞こえた。
まさかこの焦りがあんなことを引き起こすとはまだ誰も気づいていなかった。
それから、準備の終わった瑞希と一緒に朝ごはんを食べ、急いで駅に向かうとなんとか集合時間の2分前に駅に到着することができた。
駅にはすでに遥紀が到着しているようだった。
「おう、来たか」
「はぁはぁ、おまたせ」
「まだ集合時間前だから待っても問題はないんだが、なんてそんな息切れしてんの?」
「瑞希が朝の準備遅いから、遅れそうになって走ってきたんだよ」
「それにしては涼風さんは全然余裕そうだけど?」
「司、体力なさすぎ。もっと早く走れたのに」
「うるせえ。瑞希のせいでこうなったんだろ」
「まあまあまあ。じゃあ、行こうか」
ここからまず20分ほど電車に乗り、比較的に大きな駅で乗り換えるとそこからは2時間弱の1本で箱根湯本駅まで到着する。
「ついたーーーー」
瑞希が箱根湯本駅に着くと、元気にあちこち見渡し始める。
そうして、俺たちの波乱の1泊2日箱根旅行が幕を開けた。
34話も読んでいただきありがとうございます。
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