素の魅力
「ただいま」
「おかえりー」
俺がバイトから帰ってくると、家を出るときに浮かべた寂しそうな顔は見せることなくいつも通りの瑞希が夕食の支度をしていた。
夕食を食べているとき俺は瑞希を試すような質問をした。
「なんで瑞希はそんな頭がいいんだ?部活もバイトも家事も放課後、クラスメイトに勉強も教えたりしてるだろ。ただでさえ時間がないのに家でも勉強してるのなんてほぼほぼ見ないし、それなのになんでそんなにテストでいい点数取れるんだ?」
「そりゃ、私が天才だからでしょ。授業で聞いたことは大体覚えてるんだから」
やはり、嘘をついた。
俺はテスト期間中に瑞希が深夜勉強してる姿を偶然見かけた。きっとテスト期間以外もそうやって深夜に勉強してよい成績も保っているんだろう。
人の理想を叶えるために誰にも見つからないところで勉強して、完璧であろうとしている。
それが悪いこととは言わないが、誰にも認めてもらえなくて、孤独に努力し続けるというのは少し寂しく感じてしまう。せめて1人くらいは本当の瑞希を受けとめてくれる人がいてもいいのではないだろうか。
「ごちそうさまでした」
俺がそんなことを考えていると、ちょうど瑞希が夕食を済ませた。
俺は瑞希の調理が終わるのを見計らってこっそり冷蔵庫に入れたものを取りに行く。
「あー食べた。食べた。司ももう少しじゃん。食べちゃいな・・・なにそれ?」
「ケーキだよ」
俺が箱を開けると中からショートケーキが出てきた。
「まだ司ご飯食べ終わってないでしょ。デザートなら先食べちゃいなよ」
「いや、瑞希のだよ」
「え、私の?」
瑞希は心当たりがないようで困惑しながら俺に問いかける。
「ああ」
「なんで?私今日誕生日とかじゃないよ?」
「俺くらいはテストの瑞希の頑張りをお祝いしてもいいだろ」
「それなら司だって」
「俺はいいんだよ。俺はずるい手を使ったし、瑞希に比べれば勉強だってしてない。本当だったら瑞希が勝ってた」
「私だって勉強してな・・・」
「いいんだよ、俺に隠さなくって。お前が深夜に勉強してるの知ってるぞ」
「・・・知ってたんだ」
「一緒に住んでんだからそれくらい気づく」
気づいたのは割と最近なんだけどな。
「瑞希がみんなの期待に応えようとしてるのは知ってる。そのために、みんなに見えないところで努力してるのも。だけど、瑞希の素を知ってる俺くらいには隠れて努力なんてしなくてもいい。俺は瑞希の素の魅力を知ってるからさ」
「う、うんありがとう。じゃあいただきます」
瑞希は照れたような、それを隠すようにケーキを食べ始めた。
俺はその様子を見届けてから再び夕食を食べ始めた。
***
翌日、俺は遥紀との旅行のための下調べをしていた。
旅行先は箱根に決まった。男2人で箱根というのは寂しいものはあったが、俺も遥紀も温泉好きなので快く決まった。
そこで宿泊先のホテルや観光地をパソコンで調べているところだった。
「ただいまー、司何調べてんの?」
部活から帰ってきた瑞希が珍しくパソコンで検索をしている俺に興味を示した。
「夏休みに遥紀と箱根に旅行行くから、それについて調べてた」
「へぇー」
興味津々のようでこちらをちらちら見ている。
「瑞希も来るか?なーんちゃ・・・」
「いいの!行く行く!」
俺は冗談のつもりで言ったのだが、瑞希は意外な食いつきを見せた。
もちろん、俺としては来てもいいのだが、いくら知り合いだろうと男2人に女子1人だと瑞希が遠慮しそうだと思ったが、瑞希はテンション高めで答えた。
「いいのか?俺と遥紀しかいないぞ」
「全然いいよ。むしろその2人なら素のままで行けるし、そっちの方がいい」
「分かった。ちょっと遥紀に聞いてみるから待ってて」
遥紀にメッセージを送るとすぐに返信が返ってきた。
『涼風さんが来たいって? 全然OK。むしろちょっと期待してたところもある』
遥紀はノリノリで了承をした。むしろ、俺を誘ったのはこれを見越してのことかもしれないと思うほどだ。
「遥紀も来ていいって」
「!やったーーー、じゃあ準備しなくちゃね」
瑞希は楽しそうに旅行のための下調べを俺と一緒になって始める。
3人の日程を調整して、旅行の出発日は少し早いが、1週間後の終業式の翌日になった。
旅行出発日の前日になり、俺たちは一週間前のテスト返却日ぶりに学校へ登校した。
学校にクラスメイトが集まるのは一週間ぶりになり、それに加えてこれから夏休みに入りその間、会うこともなくなってしまうため、教室の至る所で夏休み中の遊びに誘う声が聞こえてきた。
ボーっと教室を見回していると瑞希に男子と女子のグループが話しかけているのが見えた。
「涼風さん、明日とか空いてない?バスケ部は休みでしょ?夏休みも入るし、カラオケでお疲れ会でもどう?」
「すみません、明日は大事な用事があるので」
「あ、、、そう。分かった。じゃあまた・・・」
瑞希にバッサリ断られた男子たちが露骨にがっかりしてその場を去る。
「他にも誘ったやついるけど全滅なんだろ?やっぱりダメだったかー」
瑞希の前から去り、俺の近くを通るときにグループの中でそんな会話が聞こえた。
すると、前に座っていた遥紀もこの一連の流れを見ていたらしく嬉しそうに話しかけてくる。
「全滅だって、全滅。俺たちはOKだったけどな」
「うるさい。周りに聞こえるだろ」
俺もつい頬を緩めて答えた。
33話も読んでいただきありがとうございます。
週間現実世界恋愛ランキング1位を獲得出来ました。本当にありがとうございます。
次回から旅行回になります。
意外な展開になるかも?
これからも応援よろしくお願いします。




