勝敗
テストは計5日間の全16科目実施された。
科目は現代文・古文・数学Ⅱ・数学B・化学・物理・生物・日本史・世界史・公民・英語表現Ⅱ・コミュニケーション英語・家庭科・情報・保険体育・音楽
漫画やアニメの世界などでよく順位が張り出されたりするが、うちの高校はそんなことはないため、瑞希の順位を知るには家で見せ合うしかない。
俺たちは椅子に向かい合って座り、緊張感を漂わせていた。
「じゃあまずは数学Ⅱからね」
「分かった」
「せーの!」
お互いにテスト用紙をテーブルの上に出す。
俺が78点、瑞希が92点
「イェーイ、勝ったー。これなら余裕そうじゃん」
「まだ1教科目だろ。それに瑞希は数学得意なだけだから」
まだ余裕そうに見せていたが、うちの高校は期末テストの難易度が高く、学年1位でも100点は滅多に出ない。
平均点は50点を切る教科がほとんどのため、90点前後にもなるとほとんどいなくなる。そんな中、数学92点を取っているとなると内心はかなり焦っていた。
「バレた? じゃあ次も数学のBね」
「おう」
「せーの!」
俺が81点、瑞希が90点
「まあまあまあ、瑞希は数学得意だしな。しょうがない」
「あれー?焦ってる?」
「うるさい。次行くぞ。次は現代文だ」
「せーの!」
俺が96点、瑞希が85点
「高!なんでそんなに高いの?」
「まあな。これが俺の真の実力だよ」
ただ俺が一番得意な科目が現代文なだけなのだがここは強がっておいた。
「まあいいもん。まだ私の方が勝ってるからね。次行くよ」
「せーの!」
「せーの!」
「せーの!」
主要5科目最後の世界史の点数は俺が77点、瑞希が84点
主要五科目の12科目が終わった段階での俺の点数は975点、瑞希が1019点
12教科が終わって差は44点
後4教科でこの差は絶望的だろう。
「やったーもう勝ったでしょ。何してもらおうかな?この前言ってた1日語尾にワンってつけてもらおうかな?」
この差埋めるのに絶望的なことに瑞希も気づいたらしく勝ちを確信して煽り始めた。
「まだ副教科が残ってるだろ」
「それはそうだけど後4教科しかないんだよ?もう勝てないでしょ。最後はもう勝敗なんて決まってるから4つ同時でいいよね?」
早く勝ちを確定させたい瑞希が調子に乗ってそう言う。
「分かった」
俺は絶望した様子をあえて演じて見せたが、この絶望的な差に絶望しているわけではなかった。
「「せーの!」」
瑞希は家庭科94点情報78点保健体育92点音楽90点
俺は家庭科100点情報100点保健体育100点音楽100点
合計点は瑞希1373点、俺1375点
「!よっしゃーーー」
俺は思わず立ち上がり、喜びをあらわにした。
「えっ、・・・」
瑞希は信じられないものでも見たかのように固まり、点数の計算をしている
「・・・2点負けてる・・・」
さかのぼること2週間ほど前、俺が世森先輩から教えてもらった秘策とは副教科に全神経を注ぐことだった。
なんてことはない作戦だが、うちの高校にとってはとても有用な手だった。
うちの高校は進学校で頭がよく、テスト難易度も高い。だが、副教科はそこまで高いわけではない。
それに加えて、みな大学受験をゴールに勉強しているため自ずと主要の5科目に力が入る。あまり勉強せずとも点数がとることができ、受験に必要のない副教科はあまり力を入れない傾向にある。
だからこそ、そこで高得点をとることで点差を追い抜かす作戦だった。さらに、遥紀からもらった過去問も活用することで副教科すべてで100点を取ることができた。
「じゃあ、どうしようかな。色々言われたし瑞希には1日ニャンって語尾につけるとかやってもらおうかな?」
「!それだけは許してー私恥ずかしすぎて死んじゃう」
冗談のつもりで言ったのだが、瑞希は上目づかいで目をうるうるしながら、俺に訴えかけてきた。
そもそも今回は瑞希に罰ゲームを執行させるつもりはない。
副教科で点数を稼ぐ作戦はいいとして過去問を貰うのは流石に反則だろう。
真面目にテストに向き合った瑞希に対してそれで勝って罰ゲームを執行など流石に申し訳なくなる。
「冗談だって、安心しろ。今回は勝つために過去問とかも使ったし、罰ゲームはなしでいいよ」
瑞希は一瞬嬉しそうな顔を見せたが、すぐに悩むような素振りを見せる。
「私としては嬉しいけど、別に過去問を使っちゃいけないってルールはなかったし、そこを含めての勝負。ルールはルール。罰ゲームは受けるよ」
自分のプライドが許さないらしく潔く罰ゲームを受けるらしい。
申し訳なさがあるが、そこまで言われたら拒否することもできない。
「でも、何をお願いするか考えるから、ちょっとあとでもいいか?」
「それはいいけど、私の弱みをずっと握ろうって魂胆ね。お前なんていつでも思い通りにできるよって言われ続けるんだ私。」
「そんなことしねえって」
瑞希はわざとわしく悲劇のヒロインを演じた。
会話に夢中になっているとバイトの時間が押し迫っていることに気づいて急いで準備を始める。
「あ、やばい、もうバイト行かなくちゃ」
「うん。気を付けて」
玄関が完全に閉まろうとするとき振り返ると瑞希の顔が少し寂しそうになっているのが見えた。
バイトも終了し、帰っている帰り道、家を出る前に見た瑞希の顔を思いだし、家に帰る前に少し寄り道をすることにした。
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