本当の私
あの後俺は結局、司達とは顔を合わせられずに帰宅した。
俺は帰宅するやいなや今日のバイト終盤のことを思い出した。
まず、司と話していたのは涼風さんだったのか?
そんな根本的なことを考えてしまうくらい、いつものイメージとはかけ離れていた。
だが、流石にあの美貌の人は2人もいないはずだと思考を振り払う。そうなれば、俺の見間違いである可能性が1番高い。俺は料理の方を見ていて、よく顔は見ていなかった。
考えればあの声は司が座っていた近くの、違う客席から出ていた声の可能性だってある。
きっと、そうに違いない。どこか納得しきれていない自分にそう言い聞かせていると、スマホの着信音が鳴った。
『遥紀、明日俺の家来れるか?』
メッセージの内容は司からの家への招待だった。
明日は幸い用事はなく家でダラダラするつもりだったので、俺はその誘いを受けることにした。
それにしても、このタイミングで急に招待されるってことは今日のあのことだよな?
俺は期待と緊張と不安といろんな感情を持ちながら翌日司の家に行くことにした。
翌日、司の家の前に到着した。
未だに思い出す昨日の出来事。でも、それも今日で解決する。
これから司の家に入って、涼風さんのいつも通りの姿を見れば昨日のことは勘違いであったと完全に納得できる。
そう思い、インターホンを鳴らす。
「はーい。今開けるからちょっと待っててね」
元気な女の人の声が聞こえた。一瞬部屋を間違えたのかと思い、部屋番号を確認してみるが間違いなく番号は合っていた。第一、今開けると言っていたので間違えた線はない。
それなら俺の知らない人が来客で来ているのだろうか?でも、それならなぜ今日俺を呼んだのだろうか?
色々考えているうちに目の前の扉が開いて、女性が立っていた。
その女性は俺の知っている人で、俺の知らない人でもあった。
「いらっしゃーい。入って。入って」
「・・・」
俺は何も言うことができずに言われるがまま、家に入り、リビングまで歩いていく。
「おう、遥紀来たか。まあ、座ってくれ」
「飲み物何がいい?」
頭がこの状況についていくことができずに返答することができなかった。
すると、その様子を見た司が代わりに応えてくれた。
「麦茶でいいよ」
「おっけー。ちょっと待っててね」
俺の座った向かい側に司と麦茶を運んできた涼風さんが座った。
「黒瀬君、今まで隠してごめん。こっちの私が本当の私」
「そういうことだ。隠しててすまなかった」
2人は謝ってくれたが、別に俺は怒っているわけじゃない。誰にでも言えない秘密の1つや2つはあるだろうし、俺にだってある。それ以上に、驚愕の方が大きかった。
「じゃあ昨日のは・・・」
「素で喋っているところに遭遇した形だな」
あまりに信じられないこと過ぎて疑ってしまいそうになる。多分言葉で説明されてもとてもじゃないが信じられなかっただろう。だが、先ほど見せられたやり取りは演技などではないことくらいは俺にも分かった。
「別に怒ってるわけじゃないから2人とも謝らなくて大丈夫。それにしてもめちゃびっくりしたわ。あの涼風さんがまさかこんな性格だったなんてな」
「私が思った通りの性格じゃなくてがっかりした?」
涼風さんはさっきの元気な様子ではなく恐る恐る俺に聞いた。
「いいや、全然。驚きはしたけど、こっちの方が俺としては話しかけやすくていいと思う」
「ありがとう。まあ、私の学校での立ち振る舞いは完璧だから驚くのは同然だけどね」
その答えを聞くとすぐにさっきまで以上の元気を取り戻した。
「調子に乗るな瑞希、怪しいシーン結構あるぞ」
「ええ!嘘!」
それからつっかかりが解け、本調子に戻った俺たちは3人で思う存分ゲームをして、日曜日を満喫した。
***
「でも、結局全部は見せなかったんだな」
遥紀が帰った帰った後、俺は気になっていたことを瑞希に聞いてみた。
「なんのこと?」
「今日は3人でゲームやってるとき、煽らなかったよな。いつも俺とやってるときはあれ、弱くない?とかめっちゃ煽ってくるじゃん」
遥紀に見せた瑞希の姿は元気でラフな話し方をする瑞希だった。今日で遥紀は瑞希の性格を上品でおとなしい性格から元気で話しやすい性格だと認識を改めたことだろう。
だが、俺にしてみれば瑞希のウザい部分がないとどうも物足りなく感じてしまう。むしろ素の性格の真骨頂はウザい部分だろうと。
「それは司が弱いのがいけないんじゃん。でも、私がそういうこと言うのは司だけだよ。なんでか他の人は言いたくならないんだけど、司なら言いたくなっちゃう」
「なんだよそれ。いい迷惑だよ」
俺は茶化して誤魔化したが、俺だけ特別視されているということに俺は心が揺れ動いてしまっていた。
***
夏休みも1週間が経過し、今日は待ちに待ったテスト返却日だ。この日のためにかつてないほど勉強をしたし、努力が報われるかもしれない日だ。絶対に負けられない。
テストがすべて返却され、点数を確認すると過去一番の出来にひそかにを笑みを浮かべた。
瑞希の点数が分からない以上、点数を見ただけでは喜べないのだが、勝負を抜きにしても成績が上がるのは嬉しい話だ。
今日はテスト返却のみのため、家にはお昼ごろに帰ることができた。
夕方からバイトが入っているめ、そこまでゆっくりはできないが家に帰ったらやらないといけないことがある。
瑞希との決着をつけることだ。
家に帰ると1人の美少女が待っていたかのように腕を組み足を広げ堂々とした姿で俺を出迎えた。
「やっと帰ってきたね。今こそ勝負の時」
「絶対負けんからな」
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