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初めてのマッサージ

 研修もひとまず終わり、初出勤まで少し日数が空いた。その間、心の片隅では不安が残りつつも学校生活を過ごした。


 今日は土曜日で授業は4限までしかなく12時を過ぎたころには放課後になる。いつも通り4限が終わり、HRを終えると、クラスの数名がバタバタと速足で移動するのが見えた。


 俺はその様子に特段気にすることなく遥紀に話しかけた。


「早く食堂行こうぜ。めっちゃおなか減ったわ」

「そんな食いしん坊キャラだっけお前?」

「今日寝坊しちゃって朝飯食べてないんだよ」

「そういうことね。じゃあ行くか」


 俺と遥紀は土曜日は基本的に学校の食堂で食べている。学校の外で食べることもあるが、学食の方が安いため1人暮らしをしている俺には学食の方が家計にやさしい。そんなわけで基本的には学食で昼飯を食べている。


「それでバイトはどんな感じ?」


 昼飯を食べながら遥紀が聞いてくる。


「まだ研修だけだけどなんとかやれそうな感じはある」

「おおーさすがだな。一回肩揉んでもらったことあるけどめっちゃ気持ちよかったから司ならいけると思ってたよ。それで、バイト先に可愛い人いた?」


 いきなりバイトのことを聞いてきたと思ったらそれが目的か。

 すぐにいないと否定しようと思ったが、世森先輩が頭に浮かんだ。


「・・・特にいなかったよ」

「いるのかー。お前ほんとにわかりやすいよな」


 気づかれないようになるべく冷静に答えたはずなのに簡単にばれてしまった


「こんどほんとに司のバイト先行ってみようかなー。そのかわいい人にも会ってみたいし」

「マジでだめ」


 前回の軽口とは違いガチっぽい口調で言う遥紀にとっさにくぎを刺す。


「冗談冗談。まだ行かないよ。司が一人前になったくらいになったら行くから」

「結局来るのかよ」


 遥紀のいつもの冗談かとも思いつつ、本当に来るつもりでも俺が一人前になるころにはどうせ忘れているだろうと思い、それ以上深く言及することはなかった。


「じゃあ、昼食べ終わったことだし帰りますか」

「そうだな」


 俺が通っている資生高校の食堂は正門から離れたところにあり、正門まで行くのにいろいろな教室を通る必要がある。


 食堂から正門へと歩いている途中、大きな歓声が聞こえた。ふと、目を移すと体育館から聞こえてくることが分かった。


 体育館では女子バスケットボール部が試合らしきものをやっているのが見えた。


「女バスが試合やってんの?ちょっと見に行こうぜ」


 どうやら近隣の高校との練習試合をしているようだった。


 HRのあとバタバタしてたのはこれがあったからかとさっきの行動に納得しつつ、体育館の入り口から覗くと多くの学生がこの試合を見に来ているみたいだった。


「うわ、めっちゃいるじゃん。相手の高校強かったりする?」

「それもあるみたいだけど、みんなのお目当てはあれだろうな」


 遥紀が指をさしてそう言ってくる。その先に視線を移すとそこには1人の女子生徒がいた。


「涼風さんか。めっちゃ人気だな」

「そりゃそうだろ。あの容姿で運動神経もよくて、性格もいい。超完璧な人だからな。ワンチャン付き合えないかなー」


 基本的に恋愛に興味がない遥紀でさえ、涼風さんには興味があるようだった。


 涼風さんは部長を務めていて、ほかのチームメイトよりも、一段と運動量が多く声を出し、チームメイトを鼓舞している様子だった。たった数分観戦しただけだが、バスケに全力なことが明白に伝わってきた。


 それから数分後


「もうそろそろ帰るか」


 飽きたらしい遥紀がそう言って、決着が決まるよりも早く、俺たちは帰路についた。


***


 それから数日が経ち、アルバイトの出勤日を迎えた。


「おはようございます」

「おはよう早乙女君。今日は、計3回補助に入ってもらって、2回は僕だけど、1回は進藤君に入ってもらうね」

「はい。分かりました」


「最初は僕がマッサージしているから、早乙女君は施術が開始してから、10分経ったら入ってきてね。それからお客様にもよるけど基本的には足や腕周りを20分くらいマッサージしてもらう。20分が経ったら、退出していいからね。進藤君ともそんな感じでお願い」

「分かりました」


 リラほっとでは、すべて個室での施術になり、会話程度では外に声が漏れないようになっている。


「初回のお客様にはカウンセリングシートを書いてもらっているから、それをチェックして、名前とかマッサージする場所を決めておいて。2回目以降のお客様には入ってきたときに僕が指示するからそこの部分をお願い」


 カウンセリングシートとは初回の施術の際に必ず書くものであり、そこには簡単な個人情報や、疲れている部位、要望などを書く欄がある。


「分かりました」


 それから、施術をするときの作法を店長と復習していると数分後、俺が補助を行う最初のお客様が来店してきた。


 店長が対応し、個室へと誘導する。


 その際に俺は、過去に書いてもらったカウンセリングシートを確認する。


 名前は本田康介。1年前くらいから通っている常連さんだ。店長と仲がいいこともあって本田さんが来る今日が研修初日になった。


 心臓が高鳴る音を感じながら必死にこれからの手順を頭の中で何度も確認した。


 そうこうしている間に10分が経過し、ついに時間となった。


 俺は、本田さんの施術を行っているドアの前に立ち3回ノックをし、すこし扉を開けた。

 そのタイミングで店長が本田さんに話しかけた。


「本田様、最近入りました新人が研修のため、少しの時間、私と2人で揉んでもよろしいですか?」

「ああ、大丈夫だよ」


 その言葉を聞いてから部屋に入ると、店長から足の方を揉むように指示を受けた。


「早乙女司と申します。本日は足の方を揉ませていただきます。よろしくお願い致します」

「うん、よろしくね」


 それからマッサージを20分ほど行い、店長から下がってもいいと指示を受けた。


「それでは、私の方はこれで失礼させていただきます」

「ありがとう。気持ちよかったよ」

「ありがとうございます」


 何事もなく初めてのお客様に対するマッサージを終えた。


 この調子なら今後もやっていけるかもしれないとそんな期待を抱くような1回目だった。


 この時はまだ2日目のお客様があの人だとは知る由もなかった。

3話目も読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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