秘策
「世森先輩、お疲れ様です。先輩も休憩ですか?」
「お疲れ、早乙女君。今の時間は思ったよりお客さん来てなくて、私も今のうちに休憩しとこうと思ってね。ところで、休憩時間にも勉強してるの?」
「はい。いつもはやらないんですが、もうすぐ期末試験があって、今回はいつもよりいい点数取りたいんです」
「なるほどなるほど。ちょっと見せてみなさい」
世森先輩は俺が解いていた教科書を持ち上げて問題を読みだす。
今解いていたのは数学の応用問題。知識系の問題ではないため、いくら先輩だろうとちょっと見ただけで解けるとは思えなかった。計算して解かないといけないため、休憩中の先輩に解かせるには申し訳なくなった。
「世森先輩、解くの大変なので・・・」
そこまで言ったとき、考えていた様子の世森先輩が口を開いた。
「これ複素数の応用問題だから、この複素数の公式を使って・・・」
俺に丁寧に説明を始めた。問題を見ていた時間は10秒程度しかなかった。それなのに迷いなく俺に教えることができるレベルまで理解していた。
「世森先輩、めちゃくちゃ頭いいですね」
「それほどでもあるかな。ふふん」
少し誇らしげにかわいく威張って見せていた。
それから俺は残りの休憩時間の30分程世森先輩に教えられながら勉強を進めた。めちゃくちゃ頭がよく、聞いた問題に即座に答えてくれて、なおかつめっちゃ分かりやすい。
勉強した時間は30分程だったが効率的には1人でやった時の3時間くらいの勉強量になった気がする。
「なんで、今回そんなに頑張ろうと思ってるの?」
休憩時間も残り5分程になり、勉強道具を片付けていると世森先輩から素朴な疑問を投げかけられた。
「期末試験の合計点数で友達と勝負してるんですよ。負けると罰ゲームがあるのでどうしても負けたくなくて。相手がすごく頭いいので隙間時間も勉強しないと勝てないんですよ」
正直に話すわけにもいかないため俺は肝心な部分を誤魔化して伝えた。
「なるほど。じゃあ早乙女君はその友達との勝負に勝てればいいんだね?」
「? まあ、そうですけど・・・」
「じゃあ、秘策を教えてあげようかな」
「そんなものがあるんですか?」
「でも、勉強せずに点数が取れる方法じゃないからこの秘策を聞いても勉強は必要。結局は勉強が必要だけど最後の数点の勝負に勝てる秘策」
「教えてください」
「いいよ。それはね・・・・・・・・」
他に誰もいないので別に普通の声で話せばいいのだが、世森先輩は俺の顔に近づいて耳に手を当て、小さい声でひそひそと秘策を教えてくれた。
俺は吐息が耳に直接かかることにドキドキしすぎて、心臓の音がうるさく声が聞こえずらかったが何とか秘策を聞き出した。
「確かに、その手なら差を縮められますね」
俺は動揺を悟られないようになるべく冷静を装いながら言った。
「この秘策をどれだけ有効に使えるかは早乙女君の勉強量に関わってくるから頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
俺はお礼を言った後スタッフルームを後にした。
心臓の音につられて足はいつもより早く動き、いつもより仕事も1.5倍速くらいに動いていた気がする。
***
日付も順調に過ぎ日曜日になり、12時になった頃に遥紀が俺の家に来た。
「お邪魔しまーす。あれ、涼風さんは?」
開口一番それかよ。
「部屋にいる。1時くらいには部活で家出るって」
「そうなんだ」
どこかつまらなそうな顔を浮かべる。君今日勉強しに来たんだよね?
「よし、じゃあ勉強始めるか」
リビングに入ると、遥紀が大きな声で宣言した。
「珍しいな。てっきりゲームするのかと思ってた」
「しー。涼風さんに聞こえちゃうじゃん。ゲームはするけど、涼風さんが部活に行ったらな。そん時に昼も食べる」
来る途中で買ったらしいカップラーメンが2つ袋に入っているのが見えた。さっき、大きな声で言ったのもいい姿を見せたかっただけか。
俺としては勉強する気満々なのでそれに乗っかり勉強を始めた。
12時半頃になると部屋の扉がガチャっと音を立てて開いた。中から瑞希が出てくる。
「黒瀬君、こんにちは。」
「涼風さん。お邪魔してます」
急な登場にたどたどしく挨拶する。
「これからお昼を作ろうと思うのですが、もしよかったら黒瀬君もどうですか?」
「え!俺もいいんですか。お願いします!」
そう言って遥紀はカップラーメンが入った袋を急いで机の下に隠した。
「おい、お前お昼持って・・・」
そこまで言いかけると口を押えられてすごい迫力でにらみつけられた。
「? 仲いいですね。今から作るのでちょっと待っててください」
「はい!」
俺たちの様子に疑問を抱きつつ、瑞希はお昼ご飯を作り始めた。
その間、勉強しているといい匂いが鼻を抜け、あまり集中できなかった。
「いただきまーす」
勉強(仮)をしていた遥紀もすぐに勉強をほっぽりだし、食べようとしている。
俺と瑞希もそれに続き、俺たち3人でお昼を食べた。
「このパスタめっちゃおいしいです」
「ふふっ。ありがとうございます」
あれほど緊張していた2人も食事中は意外にもしっかり会話ができていた。
「ごちそうさまでした」
いち早く瑞希が食べ終え部活にそそくさと部活に行く準備を始めた。
「じゃあ、私は部活に行くのでごゆっくり」
「お昼ご飯、ありがとうございました」
「おう、行ってらっしゃい」
そうして俺が座っている横を通り抜けるとき遥紀に聞こえることのない小さい声で俺に話しかけてきた。
「まあ私には勝てないだろうけど、せいぜい頑張ってね」
俺をからかうように小さく舌を出し、笑みを浮かべながら家を後にした。
あいつ、バカにしやがって。絶対に勝ってやる。
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