内緒ばなし
瑞希が部屋を出てその扉が閉まり数秒した後、俺は意を決して口を開こうとしたとき、意外にも先に口を開いたのは瑞希の母親だった。
「挨拶が遅れてしまってしまったわ、私は涼風真由美。呼ぶときはあの子と混ざっちゃうから真由美でいいわ」
「分かりました。ではこれからは真由美さんと呼ばせていただきます」
「どうして、あなたは瑞希を助けたの?親目線のえこひいきかもしれないけどあの子は同世代のなかでも容姿は整っていると思うの。そんな子を家に泊めようなんて普通に考えたら下心があるとしか思えない。最初は友達なんて嘘かと思ったけど、あなた達を見ていると付き合っているとは思えない。それならどうして?」
「俺も男ですから下心がないと言えば嘘になると思います。でも、助けようと思ったきっかけは別だったと思います。真由美さんは瑞希さんの学校での様子を知っていますか?」
「? 元気で明るい子じゃないの?」
やはり母親に言っていないのか。瑞希に外してもらって正解だったな。
「俺の第一印象と他の全校生徒の瑞希さんに対する今の印象は上品でおとなしい性格という印象です」
「え!?」
真由美さんは驚きながらも信じられないという表情を浮かべた。
「瑞希さんがこの前言っていました。その性格は自分の身を守るためのガードだって。真由美さんの言う通り瑞希さんの容姿は整っていて、うちの学校の中でも1番人気があると言ってもいいほどです。それ故に明るい性格でいると理想と合わずにがっかりされることが多かったそうです。だから、みんなの期待に応えられるように上品でおとなしい性格を学校では演じているそうです」
「そう・・・なのね」
「俺はたまたま学校とは違う場所で本当の性格を知ることができましたが、他の生徒は本当の性格は知りません。いつからこの性格になったのか知りませんが、少なくとも高校生活の1年ちょっとは誰にも悟らせることなくこの性格を演じていました。でも、バイトを詰め込んだ結果、今まで1年間保ってきたガードが崩れかけているほど瑞希さんの身体は限界に見えました。わけを聞いて、学校で気を張っていた瑞希さんが完全に素を出せる存在の真由美さんが倒れてしまったことを知りました。もちろん、真由美さんが悪いわけではありません。俺は、お金の面も大変だと思いましたが、それ以上に家に帰ったら、素で話せる人を失ってしまったという精神的な面が心配でした。だから、真由美さんの他に唯一素を出せる俺が、図々しいですが真由美さんの代わりになってあげたいと思ったからなんです」
静かに聞いている真由美さんを見て俺はそのまま続ける。
「そんなわけで始まった同居ですが、今では俺も瑞希さんと同じ気持ちでこの生活が楽しいと感じています。助けたつもりが、俺の方が助けられたのかもしれません。連絡は欠かしません。真由美さんを、そして瑞希さんを不安にさせることは絶対にしないと約束します。どうかこのまま同居を認めて頂けないでしょうか。」
俺は深々と頭を下げた。
数秒が経った後「頭をあげていいわよ」と声が聞こえ、俺は恐る恐る頭を上げた。
「私はこれまであの子のことは分かっているつもりだった。だけど、あの子が外でしている苦労に全然気づけてなかった。私の常識だけではなくて、あの子を、あの子が信じた司君を信じてみてもいいのかもしれないわね」
「じゃあ・・・」
「ええ。同居を認めるわ」
「ありがとうございます!あ、あと学校での様子とか俺の本当の理由とかは瑞希さんには内緒でお願いします」
「分かってるわよ」
俺はもう一度深々と頭を下げた。
「じゃあ、瑞希さんを呼びますね」
俺は、そういいながら瑞希に『もう戻ってきていいよ』とメッセージを送った。
「あの子が戻ってくる前に1つだけ聞かせてほしい」
「はい?何ですか?」
「瑞希と司君の関係は本当に友達なの?」
一瞬息が詰まった。俺自身答えが出ていない。そんな問いだったからだ。
「俺も正直分かりません。友達と呼ぶには行き過ぎているし、恋人と呼ぶにはまだ足りない。だからと言って特別な人とも曖昧に定義して逃げたくない。これから向き合っていく。それしか今の俺に言えることはありません」
「その言葉が聞けて良かったわ。しっかり向き合って頂戴ね」
苦言を言われるかと思ったが、真由美さんは意外にも応援してくれた。本当に瑞希を大切に思っているのが分かった。
それから5分程経った頃、瑞希が病室に戻ってきた。
入ってきた瞬間はなぜか赤面して、黙った様子だった。
「それで・・・どうだった・・・?」
「あなた達の同居を認めます」
「!やったーーー」
さっきの黙った様子とは違って飛び跳ねて喜んでいた。
詳しいことはまた後日話し合うことになり、今日はそのあと俺が病室を外して親子水入らずで話した後、帰宅することになった。
帰り道、瑞希が自分がいない時のことを聞いてきた。
「私が外した後、お母さんと何話したの?あんなに意思が固かったお母さんを納得させるなんてどんなトリック?」
「教えない」
「えーなんでよー教えてよー」
学校でのことを勝手に話したなんて言ったら絶対怒られる。もちろん、最後の言葉なんて口が裂けても言えない。今日の会話は墓場まで持っていこう。
俺たちはぺちゃくぺちゃと話しながら帰路についた。
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