研修
迎えた研修2日目、今日からは店長にマッサージを教えてもらいながら、実際にスタッフの方にやっていく方式で研修が進められた。
「今日実際にマッサージをしてもらう進藤さんだよ」店長がそう紹介してくれた。
「最近入りました。早乙女です。これからよろしくお願いします」
「よろしく、早乙女君。僕は進藤遼生。僕もわりかし最近入った方だから、全然緊張しなくていいよー」
気さくに先輩にそう言ってもらえたが、俺の内心はすごく緊張していた。
店長にマッサージを教えてもらうこと数十分・・・
「・・・はぁー・・・」
進藤先輩から吐息交じりの声が聞こえてきた。
「早乙女君マッサージめっちゃうまいわ。力加減と言い、教えられた場所を的確に押せてる。前にもマッサージ店で働いてた?」
「いえ、ここが初めてです」
そうは言ったが、1人暮らしをする高校1年生まで、いつも疲れて帰ってくる両親のために時々マッサージをしたりしていた。その経験が生きたのか褒めてもらうことが多かった。
研修も3日目、4日目を経て、今日が予定されている研修最終日だ。今日は、実際にアドバイスなしで店長にマッサージを行い、横で見ているスタッフと店長の2人にこれから補助に入ることができる実力がついたのかを判断してもらう日だ。
横から見てもらうスタッフは進藤先輩だろうか。3日目も4日目も進藤先輩にお世話になった。流れ的に考えれば進藤先輩に見てもらうことになるだろう。
そう思いながら、いつも以上に緊張しながらお店への道に足を運ぶ。
お店に入り、制服に着替え、時間まで待機している流れの過程で店長の姿は確認できたが、進藤先輩の姿は見えなかった。
少し不安な気持ちを持ちつつ待機していると、時間になったらしく店長がやってきた。
「じゃあ、研修最後のチェックをやろうか」
「はい。お願いします」
「その前に今日、横でチェックしてくれる人を紹介するよ。いつもは進藤君だったけど、今日は予定が合わなくて、違う人に担当してもらう。こちら世森さん」
「世森水琴です。よろしくね早乙女君」
「・・・あ・早乙女司と言います。よろしくお願いします」
先輩のあまりの美貌に一瞬言葉に詰まってしまった。黒髪のストレートの肩よりも少し長めの髪形で、かわいい感じというよりはクールな感じの顔立ちをしており、とても整っていた。
一気に心臓のリズムが早くなった気がした。
お客さんの方からすればうつぶせになっている場合が多いため、マッサージ師の姿は見えない。体の
体勢によって力の入れやすさは変わるだろうが、横から見てもらう人が必要なのだろうかと少し疑問に思っていると、
「今日、僕は早乙女君のマッサージに集中するから、会話は世森さんの方に話しかけてね。マッサージをしてもらうのは僕だけど世森さんにマッサージをしていると思ってね」
マッサージ師はマッサージのスキルとともに会話のスキルも求められる。これは、マッサージの満足感を上げるとともに指名をもらうために重要になるそうだ。そのため、会話力というスキルもリラほっとでは重要視される。
「はい。分かりました」
緊張した声で返事を返えすと、高鳴った心臓とともに研修はスタートした。
心音の影響か自然と早くなってしまうマッサージのテンポを何とか抑えつつ、これまで教わったことを生かして、自分なりの全力を持ってマッサージを行った。
「力加減等、気になる部分はございますか?」
マッサージをしていない世森先輩に話しかけるのはなんとも違和感があるなと感じつつそう話しかけると、
店長が手でグッドを作り、世森先輩に伝える。
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます」
マッサージに関する質問ならある程度、テンプレートがあるため話しかけやすいがほかの話題となるとそうはいかない。何の話題でなんて切り出そうか悩んでいると、
「私、今大学生なんですけど、アルバイトやっててそれが立ち仕事なんで足が疲れたり、それより手とか腕を主に使う仕事なのでそこが凝ったりしちゃうんですよねー。」
助け舟を出すように世森先輩がそう話しかけてくれた。
「腕周りとか足回りがほかの部分よりかなり凝ってると思ったら、そういうことなんですね」
「やっぱり分かっちゃいますか」
この流れを切れさせまいと会話を続ける。
「今、大学何年生なんですか?」
「今二年生です」
「じゃあもう大学には慣れてきた頃合いですか?」
「まだまだですよ。1年生の時よりは余裕が出てきましたけど、今はついていくのが精一杯です」
この状況を利用しつつお互いに軽い自己紹介をした。
世森先輩は関東体育大学でスポーツ関連について勉強しているらしい。スポーツには体の仕組みや筋肉が大きくかかわっておりそれを勉強するため今のアルバイト先を選んだそうだ。
世森水琴先輩の助け舟を皮切りに話が続くようになっていった。
世森水琴先輩には、最初クールな感じで話しかけずらい印象を持っていたが話してみると、フランクな感じでとても話しかけやすかった。
今は、お客さんとマッサージ師という関係で、少し堅苦しいしゃべり方をしているが、その中にも間の使い方や言葉遣いなどから世森水琴の先輩の魅力が垣間見えた。
『ピピピピピ』
そんなことを考えながらマッサージをしていると、初めに設定したタイマーの音が鳴った。
「マッサージお疲れ様。全体的には良かったし、これからな部分もあるけど慣れていくうちにできてくるようになるから上出来だと思うよ。世森さんはどう思った?」
「マッサージしているときの姿勢は変じゃなかったし、力も入れやすい姿勢だったと思います。会話についても最初は慣れてない感じだったけど、途中からは話しやすくて良かったですよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、次回からは私たちの補助から入ってみようか。時間も短いしそこまで緊張することないからね」
「分かりました。頑張ります」
研修最後のチェックはどうやら合格をもらえたようだ。
これからは実際にお客さんに向けてマッサージをしていくことを考えると、以前にも増して緊張してきた。
2話目も読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。