行方
「このお仕事が嫌いになったとかじゃなくてね。私は今大学2年生なわけで、再来月にはもう3年生なの。どうしても就活に目を向けなきゃいけない時期になってきたわけで。大学生のうちに色々な経験を積んで、将来を決めたいと思ってインターンをすることにしたんだ」
正しい選択だと思う。
誰しもこの選択を間違いだと言える人はいないほどに。
それだけに俺は引き留めることが出来ない。
「そうなんですか、頑張ってください」
これしか言葉がなかった。
「うん、ありがとう。じゃあね」
俺はいつもより小さく見える美琴先輩の後ろ姿を見送るしか出来なかった。
***
「ただいま」
「おかえり!」
家に帰ると瑞希が上機嫌に俺を出迎えた。
「いつもより遅くなかった?」
「まぁ、ちょっとだけ」
「ほら、じゃーん!」
瑞希はテーブルに置かれた料理を自慢するように見せた。
「今日の晩御飯はハンバーグです!」
「さっき電話で言ってたじゃん」
「それはそうだけど、ハンバーグだよ、テンション上がらない?」
「確かに。あがるな」
***
「「いただきます」」
瑞希が作ったハンバーグを一口頬張る。
「美味しい」
「・・・」
瑞希がこちらを向いて、なんだか言いたげな顔をしている。
ちゃんと美味しいって言ったじゃないか。
「なんだよ」
「司さ、なんか隠しているでしょ」
「何も隠してないって」
「帰ってきたときからなんか変」
「うっ・・・」
別に瑞希に隠しているわけじゃない。
これはバイトでの話であって、誰に話したからって解決する話でもない。
「いや、別に瑞希には関係ない話だから」
「私に関係なくても司の話なら何でも聞きたいよ?」
「でも・・・」
「私は司の話し相手にもなれてない?」
「・・・分かった。話す」
「うん」
そこまで言われたら話さないわけにはいかないだろう。
他の人に話しちゃいけないってわけでもない。
「・・・そっか、世森先輩辞めちゃうんだ」
「そうなんだよ」
「でも、辞めちゃったからってもう会えなくなるわけじゃないんでしょ?」
「そういうわけじゃないと思う」
インターンは近場だろうし、会おうと思えば会えるはずだ。
だけど、就活のために一直線になっている美琴先輩にこれまでのような頻繁で会うことは叶わないだろう。
「何か解決するわけじゃないけど、まだ辞めるまで1カ月以上あるじゃん。それまでに悔いが残らないようにするしかないんじゃない?」
「そうなんだよな・・・」
どうしたら悔いが残らないのか、その方法は俺にはまだ分からない。
「それにしても、司ったらそんなに悩むんだ」
「どういう事だ?」
「いーや、分からないままでいいでーす」
「なんだよ、それ」
***
「なぁ司、今週の金曜日って学校休みらしいぞ」
「えっ、なんで?」
月曜日、学校に登校すると遥紀からそんなことを言われた。
「うちの高校入試があるからだって」
「あーもうそんな時期か」
世の中の受験生は今が正念場ということか。
「学校が休みってことは・・・」
「俺らも高校2年生で、来年受験生だから勉強するか」
「なんでそうなるんだよ!どっか遊びに行くに限るだろ!」
またそんなベタな。そんなやつ遥紀くらいしか・・・
「えっ、遊びに行くの?俺も行っていい?」
「おう、湊。もちろんいいぞ」
「私も行きたい」
瑞希も小さな声で参加してくる。
「瑞希まで・・・」
「だって、部活が休みなんて珍しいんだもん」
廊下でも・・・
「司先輩っ!今週の金曜日学校お休みなので遊びに行きたいです!」
「よしっ!じゃあ水上さんも俺らと一緒に遊ぶ?」
「おい遥紀!勝手に誘うな」
瑞希も参加することになったし、それは色々まずい気が・・・
「私がいちゃダメですか?」
「そういうわけじゃないんだけど・・・希のあんまり仲良くない人もいるから・・・」
「そうですよね・・・私わがままばっかりで・・・すみません。諦めます」
おそらく、希の参加に湊は断らないだろうし、瑞希も文化祭で会ってるし完全な初対面じゃない。瑞希の体裁的にも断ることはしないはず。
そんな悲しそうな顔されたら断ることなんて出来ないじゃないか。
「・・・分かった。聞いてみるよ」
「ありがとうございます!」
瑞希は遥紀が誘ったことにすれば、そこまで違和感も抱かないだろう。
もちろん、後で聞いてみたけど両方OKが出た。
そうして、俺と遥紀と湊と瑞希と希の5人で遊びに行くことが決定してしまった。
***
そして、りらホットでも・・・
「おはようございます」
「ああ、早乙女君。早くて来てもらってありがとう」
今日はりらホットの出勤日だったのだが、昨日連絡が来て、予定より30分早く出勤していた。
「だれか欠員が出たんですか?」
「そういうわけじゃなくてね、今日研修をやりたいんだ」
普段、研修は開店前を使って行われるが、この時期は忙しいようで、営業中の合間を縫って行うそうだ。
「分かりました。じゃあその間受付をすればいいんですか?」
「いや、早乙女君には研修を手伝って欲しいんだ」
「えっ?」
「早乙女君もやったでしょ。あの時はたしか進藤君と世森さんだったよね。今回は早乙女君が審査する側だからね」
懐かしい記憶が蘇る。
あれは、初めて美琴先輩に会ったときだった。
「分かりました」
そうして、俺と店長で部屋に入って行く。
「お待たせ。じゃあ、研修最後のチェックをやろうか」
「お願いします」
「その前に今日、横でチェックしてくれる人を紹介するよ。いつもは世森さんだったけど、今日は予定が合わなくて、違う人に担当してもらう。こちら早乙女君」
「早乙女です。よろしくお願いします」
緊張交じりで新人さんに挨拶をする。
「小倉葵です。よろしくお願いします」
茶髪で髪の長さは美琴先輩と同じくらいの肩よりも少し長い、右目のすぐ下のほくろが特徴的なすごく可愛らしい新人だった。
159話も読んでいただきありがとうございます。
いよいよ本格的に新章が開幕しました。
てんこ盛りな学期末をお楽しみください!
次話は今週中に投稿致します(今週でもなるべく早く)
これからも応援よろしくお願いします。




