期待と不安
聞こえてくるアラームの音で俺は重たい瞼を開け、スマホを操作してアラームを止めた。体を起こすと昨日のことを鮮明に思い出した。
自分のことながらすごいことをしたなと感嘆のような感心のような感情を抱く。
俺は朝が弱く、料理する元気もないので、朝ごはんはいつもヨーグルトを少し食べるくらいの雑なもので済ましてしまう。
でも、今日からは涼風さんもいる。少し早起きして、朝ごはんを作っても良かったのではないかと少し後悔しながら扉を開けると味噌の匂いが鼻を抜ける。
「早乙女君おはよう。朝ごはんもう少しでできるから、ちょっと待ってて」
「あ。うん」
俺はうまく頭が回らず、空返事をして顔を洗いに洗面所に向かった。
顔を洗って、頭がすっきりすると、今起こっていることにようやく気づいた。急いでリビングに戻り調理している涼風さんに問いかけた。
「どうして朝食を作ってくれてるの?」
「いつもの早乙女君に戻った」
慌てた様子で問いかけると、からかわれてしまった。
「昨日夜ご飯作ってくれたしお世話になるわけだから、私も何か返したくておかえしとして朝ご飯くらいは作ろうと思って。だけど、冷蔵庫のもの使っていいのか分からなかったから、私が持ってきた食材だけど食べてくれるかな?」
「もちろん食べる。でも、何か返さなくちゃって思いはうれしいけどそんなこと思わなくていいから。涼風さんが心からやりたいと思うことだけやってくれたら俺は嬉しいかな」
「うん、ありがとう」
出来上がりまでにもう少しかかるそうなので、俺は自分の部屋で制服に着替えているとテーブルにお皿を置いている音が聞こえてきたので、制服に着替え終わったところで部屋を出るとちょうど朝食が完成したところだった。
テーブルを見ると、サンドウィッチに味噌汁が置いてあった。
「タイミングばっちりだね。朝ごはんできたよ。食べよっか」
「うん。ありがとう。いただきます」
俺は初めに味噌汁を口に運ぶと、眠い体に味噌が染みた。1人暮らしを始めてから朝ごはんらしい朝ごはんを食べていなかった。俺は感慨深く味噌汁を飲んだ。
「いい反応してくれるね。作り甲斐がある」
「? あ。ごめん黙っちゃって。すっごくおいしい。」
「そんなにおいしそうな顔をされたら、言われなくても分かっちゃうよ」
遥紀にも言われたが、俺は顔に出てしまうタイプなのか。少し恥ずかしくなった。
「明日からも朝ごはん作っていい?朝ごはん作るの結構楽しかったし」
「そう言われたら断れないな。いいよって言うかむしろこっちがありがとう」
そんなこんなでゆっくりしていたら、ふと時計を見たときに時間がやばいことに気が付いた。
「あ!やばい遅刻する」
「え!本当じゃん。というか絶対遅刻するじゃん」
「涼風さんは俺の自転車使っていいから。それで行けばまだ余裕はあるよ。道は分かる?」
「それはたぶん大丈夫だけど、それだと早乙女君が遅刻しちゃうじゃん。私のことはいいから早乙女君が自転車使って」
「俺は急いで駅まで走っていけばギリギリ間に合うと思う。陸上やってたからそういうのは得意」
それでも涼風さんは納得いってなかった様子だが、急いでいる状況を利用して勢いで自転車の場所と自転車のカギと合鍵を渡して俺は足早に部屋を出ていった。カギを2つ受け取った涼風さんは何の鍵か分からずにいたけど、合鍵だと分かったら受け取ってくれない可能性もあるので、何の鍵か理解する前に俺は学校へと向かった。
俺は駅まで走って、電車に乗って、降りた後も学校まで走った。俺は別に遅刻しても良かったのだ
が、今日は俺が遅刻するときっと涼風さんが自分のせいだと感じてしまうため遅れられない。
本鈴が鳴り終わる寸前のところで俺は教室の扉を開けた。
「お。早乙女来たな。ギリギリセーフ」
担任の佐藤先生にそう言われながら自分の席へと足を運んだ。
「珍しいな。司がギリギリに学校くるの初めて見たわ」
「ちょっと朝ゆっくりしすぎたわ」
「ふーん」
なんだか遥紀が不審な目で見てくるが、俺はそっぽ向いた。すると、涼風さんがこちらを向いて少し申し訳なさそうな顔を浮かべていた。俺は少し笑って大丈夫だと口パクで伝えると、涼風さんは焦った様子で前を向いてしまった。
少しきざな行動だったかもと思うと、いたたまれない気持ちになった。
そういえば涼風さんの生活用品を買いに行かないとなと思った。本人は家から持ってきたと言っているが、荷物も少なかったし、生活するうえで必ず必要になってくるだろう。こういうのは早めに買っておいた方が不便せずに済む。
今日帰ったら涼風さんに日程を聞いてみるか。
俺はこれからの共同生活に期待と不安を両方抱えながらも微かに笑みをこぼした。
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