ありがとう
「・・・っえ?なんで湊君と世森先輩が・・・?」
持っていた鞄を床に落として、完全に理解が止まっているようだった。
対して、湊も学校で見せる姿と全く違う瑞希を見て、固まっている。
「あっ、瑞希ちゃん!おかえり」
「た、だいま・・・?」
「瑞希ちゃんも一緒にゲームやろ?」
全く動揺していない美琴先輩が仲良さそうに瑞希をゲームの輪に入れようとする。
2人って面識あったっけ?
「そうじゃなくて、あの・・・」
「早く早く、もう次のレース始まっちゃう」
美琴先輩は自分が持っていたコントローラーを差し出して、催促をする。
「えっ!いや、えっとー・・・はい」
戸惑いながらも焦らされた瑞希はコントローラーを受け取って、ゲームを始める。
さっきまで、上位を連発していた湊は今回のレース最下位だった。
***
そして、美琴先輩に流された瑞希はその後も数レースプレイし、ようやくゲームも一段落ついた。
「あぁーこの中じゃ私と瑞希ちゃんペアが1番下手だったか。瑞希ちゃんも楽しかったでしょ?」
「まぁ、楽しかったですけど・・・そうじゃなくて!なんで、世森先輩が司の家にいるんですか!?湊君も」
「私が急に押しかけちゃったの。それで、司君は泣く泣く家に入れてくれたってわけ」
それを聞いた瑞希は俺の方を向いてちょっとだけ睨んでくる。
「だからって、私に伝えてくれたっていいじゃん」
「それはすまなかった。突然の連続がありすぎて、瑞希に連絡するのすっかり忘れてた」
「もぉー」
俺に対して不満を漏らす瑞希だったが、その割にはそこまで怒っている様子はなかった。
「じゃあ湊くんに一緒に暮らしてることも?」
「・・・ああ」
瑞希に相談もなしで色々言い過ぎてしまったと少し反省した。
「まぁ、いっか。ちょうどいい機会だから。いつかは言うことになると思ってたし」
力を一気に抜いて、家で見せるいつも通りの瑞希の喋り方に戻った。
「いいのか?」
「だって、同居についてはお姉ちゃんの世森先輩は知ってるし、席も近いからまた話し声聞こえたら混乱させちゃうと思ってね。世森先輩にはこの前、半分素で話しちゃったから今更かなーって」
「この前?」
「秘密の女子会だよ」
美琴先輩が楽しそうな表情を浮かべる。
「そ、そう!だから司には教えられない」
「なんだそれ。めっちゃ気になるんだけど」
「ダメ!絶対教えないから!世森先輩も絶対教えちゃダメですからね!」
仲良さそうで良かったけど。
「え・・・?」
湊はまだ混乱しているようだった。
そりゃそうだ。一緒に入るところは見たが、それは優等生モードの瑞希だった。
色々と考えることは山ほどあったはずだが、それでも、湊は真剣な顔になって、瑞希に深々と頭を下げた。
「司から聞いてるかもしれないけど、司と涼風さんのことばらしたの俺なんだ。それから新聞の件も。本当に申し訳なかった!」
「うーん、それってもう司にはOK貰ってる感じ?」
「あ、ああ。司には一応許してもらったけど・・・」
「じゃあ、私もOK!」
「本当にいいの・・・?」
あまりにも軽い感じに美琴先輩は心配そうに聞く。
「だって、私は別にそんなに被害受けてないですし」
「いや、学校でだいぶ話題になったって・・・」
「まぁ多少はやんや言われましたけど、大体は司が標的になってましたから。その司が許したなら私が怒ることでもないので。あと、あの一件のおかげで学校で司と話しやすくなりましたし」
「でも・・・」
「だいたい、司が悪いんですよ。司が私くらい完璧でイケメンなら、お似合いカップル!ってだけで終わってたはずなんですよ」
「おい、さらっと俺をディスるな」
「えへへへ。・・・ってことなんで世森先輩、湊君。私は大丈夫です!明日からも司をよろしくお願いします!」
瑞希はサラッと言って見せる。
「・・・なるほど、これはちょっと勝てないかもなぁ・・・」
美琴先輩は度肝を抜かれたような顔をしていた。
この後、瑞希がみんなに手料理を振る舞うと提案したが、美琴先輩は流石に申し訳ないとのことで、この会はお開きとなった。
「じゃあまたバイトでね、司君」
「はい、美琴先輩」
「司・・・」
湊の少し力の入った言葉に一瞬体が強張った。もう謝罪は腹いっぱいだからな?
「ありがとう」
「・・・おう!また明日な」
そうして、2人の背中を見送りながら玄関に扉は閉じられた。
***
姉弟での帰り道のこと。
「美琴姉、」
「どうしたの?」
「美琴姉はさ、司と涼風さんが一緒に暮らしてるって聞いて大丈夫だったの?」
「大丈夫って何がさ」
「いや・・・それはその・・・」
「そりゃ私だって知った時は相当心に来るものはありましたよ」
初めて見た、姉の少し歪んだ顔。少しこの質問をしたことを後悔したかもしれない。
「でもね、そんなことで焦ったり、へこたれてるようじゃ欲しいものは手に入らないでしょ?」
「・・・美琴姉は強いなぁ」
「そうでしょ、もっと姉を慕ってくれたっていいんだよ?あ、もう十分慕ってくれてるよね」
「もういいでしょ!その話は!」
司がどんな結末を望んでいるのか、俺は知ることが出来ないが、強い姉を最後まで応援したいと心から思った。
148話も読んでいただきありがとうございます。
まだもう少しだけこの話に触れることはありますが、1話丸々というのは今回で最後になりますので、148話をもって一段落とさせていただきます。
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次話からはまた新たなストーリーが展開されていきます。
150話になりましたら、連投も予定しております。(次話なるべく早く投稿します)
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