仲直り
「ちょっと、湊!何言おうとしてんの!? お姉ちゃんびっくりしすぎてつい開けちゃったよ!」
「だって、司が分からず屋過ぎるから、背中蹴っ飛ばしたくなって」
「???」
何のことだ?俺が分からず屋?そんなわけがないだろう。
「ほら!今も何の話してるか分からない顔してるじゃん」
「その気持ちは重々、重々分かるけど・・・ね、自分で気づいてもらうのが大事だと思うから」
「???」
場がややこしくなったので、一度俺の部屋からリビングへともう一度戻って、話を再開する。
「それで、さっきのは聞いてたんですか?」
「なんだか大きな声が聞こえたあたりから気になっちゃって」
途中から白熱して湊は大きいな声出してたから、聞こえちゃうかもなーとは思ったけどね。
「・・・・・・」
湊は恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしていた。
「なぁ湊、ちょっと周りを見てみ」
「・・・?」
湊は俺の言葉の真意は分からないまま、俺に言われた通りに家の中を見回す。
「どうだ?」
「どうって普通じゃん」
「じゃあこっちに」
まだ気づいていない湊を洗面所に連れて行く。
「なんだよ、いきなり家の中案内しだして」
「いいから、ちょっと洗面所にあるもの確認してみて」
「だから別に普通じゃん。綺麗だし、タオルだってあるし、石鹸だってあるし、歯ブラシだって・・・」
「ちなみに、俺は両親と一緒に住んではない。仲悪いとかじゃなくて、訳あって高校の近くに住んでるだけだ」
「え?じゃあこの歯ブラシは・・・」
「それにこの簡易的なスキンケア用品も俺はほとんど使ってない」
「それって・・・」
「湊は俺と瑞希が付き合っていて、家に連れ込んだと思っているがそこが違う。瑞希は俺と一緒に暮らしている」
「えっ?えっ??? 2人は同棲して・・・」
「同棲じゃない、同居だ」
そこを勘違いされると瑞希に迷惑が掛かる。
「詳しいことは本人がいないところで話すわけにはいかないが、瑞希は俺に好意があるわけじゃない。いわゆる、家庭の事情ってやつで一緒に暮らしている」
湊は驚愕した顔で、こちらを見ている。
俺は洗面所からリビングへと戻りながら続けて湊に伝える。
「ちなみに、俺と瑞希が一緒に住んでいることは美琴先輩も知ってるぞ」
「え!? そうなの!?」
「うん。今年の年始くらいかな」
湊の頭の中でこれまでの出来事が今まで自分で補完していたピースではなく、正しいピースで繋がったようだ。
「このこと学校で言っちゃダメだからな」
そんなことするわけないと思っていながら、冗談っぽく言った。
これで、一件落着かなと少しホッとして、椅子に腰を掛けた。
湊も椅子に座るかと思いきや、俺の前まで歩いてきた。
「本当にすみませんでした」
深々と頭を下げて、湊は俺に謝った。それは友達同士で謝るような砕けた言葉ではなくて、丁寧に心の籠った声で。
「うん」
なるべく優しい声で一言だけ返した。
「・・・うんってそれだけ?」
「ああ。湊が謝ってくれて、俺はそれを受け入れた。これ以上はいらないだろ?」
湊が自分がやったことだと自白したのもそうだが、美琴先輩がここに来たのは、湊自身から今回のことを聞いたからだと言っていた。
謝罪なんかしなくなって、申し訳ないことをしたのだと湊が感じていることは伝わっていた。
でも、この空気どうしたもんかな・・・
許したからと言って、昨日までの関係にすぐに戻るなんて難しいよな。
そんなことを考えていると、突然テレビの電源が入って、楽しそうなBGMが流れだした。
さっきまでテーブルの方にいた遥紀は、いつの間にかソファに移動していた。
「もう重い話は終わったでしょ?俺そもそも今日、司の家にゲームするために来てたから」
湊は驚きを隠せないように俺達を見ていた。
おおよそ遥紀もこの空気を察して、機転を利かしてくれたのだろう。
「確かに遥紀はそうだったな。よし、やるか」
「!?」
「何驚いてんだよ。さっきまでの話は終わっただろ?」
「で、でも・・・」
「美琴先輩も一緒にやりますよ」
「私も!? 私それ、やったことないよ?」
そうして、強引に2人を巻き込んで、ゲームを始める。
初めはやっぱりぎこちなかったが、ゲームが進んでいくと、さっきまでのわだかまりも徐々に溶けていった。
***
ゲームを始めてからそこそこ時間が経った頃、うちの玄関から音が聞こえた。
あ~瑞希が部活から帰ってきたんだな。
そんなことを頭の片隅に考えながら、引き続きゲームをした。
帰ってきたなら瑞希も一緒にゲームやろ・・・
やばい!この家に湊と美琴先輩来てるの伝えてない!!!
元々家に招く予定じゃなかったし、状況が状況でスマホ触ってなかったから、瑞希に伝え忘れてた!
それに湊と美琴先輩の靴はかっこつけていつもは使わない靴箱に入れちゃったし、瑞希は気づいていない!
急いでコントローラーをその場に置いて、玄関に向かって走り出すが、リビングへと通じる扉はすぐに開かれた。
「瑞希、ちょっと・・・!」
「たっだいまー! ゲームの音聞こえてたよ!私も・・・」
近くに俺がいて、すぐには2人の姿は見えなかったのか、そのことに気づいた時には、瑞希はもう引っ込められないくらいフルスロットルでいってしまっていた。
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この作品は『なろうチアーズプログラム』に参加させていただきました。(詳細についてはこのページ上部からご覧ください)
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