弟
「どうぞ」
「お邪魔します」
あのまま外で立ち話ってのもなんだし、周りの目もあるので、家に3人を上げたはいいものの、これからについて策があるわけじゃない。
せっかく家に招いたというのに明るい表情をしている者は誰1人いなく、重苦しい空気が漂う中、俺達はテーブルについた。
「ちょ、ちょっとお茶でも・・・」
このままいたら胃が縮んでしまいそうだったので、現実逃避のため席を立った。
「ごめんなさい!」
「いや、だから美琴先輩に非は全くないんですから」
俺が背を向けるより前に美琴先輩は座っていながらも腰を折って深々と頭を下げた。
その言葉に俺は席を座り直して、現実逃避をする隙は全く無くなってしまった。
「どうしてこんなことをしたの?」
美琴先輩は鋭い目で湊に質問をする。
学校での噂のこと、新聞のこと、それらを企んだのが湊だという事を知ってここまで来た美琴先輩だったが、理由までは聞けていないらしい。
「・・・・・・」
「なんで何も言わないの?」
問いかけられた湊は口を開くことはなかった。
「ねぇ!湊!」
「・・・・・・」
それでも湊は目をつぶって口を結んだまま動く気配を見せない。
「いい加減に・・・!」
「美琴先輩」
美琴先輩がこれ以上怒ってしまう前に俺は優しいトーンで声を掛けた。
「ちょっと俺の部屋で湊と2人で話していいですか?」
「えっ?」
「え?」
姉弟が俺の発言を飲み込んでしまう前に、俺はさっきとは違う思いで席を立って、湊の手を取って俺の部屋に入れた。
扉を閉める前に遥紀に『少しの間、美琴先輩をよろしく』という意味を込めて目線を送ると、『はぁ、しょうがないな』という顔が返ってきたので、安心して扉を閉めた。
湊を俺のデスクの椅子に座らせて、俺はベッドに腰を掛けた。
「2人なら俺が話すと思ったのか?」
「いや、別にわけを聞こうと思って、この部屋に呼んだんじゃない」
「じゃあどうして・・・」
「なんでもいいからちょっと雑談でもするか。それで時間を潰そうぜ」
湊は俺の発言の意味を汲み取れなかったようでぽかんとした顔をしている。
「さっきはなんだか湊が口を割らないといけない雰囲気が出てただろ?だからこの部屋で俺にだけ話したってテイにして、この話は終わろうってことだ」
「なんでそこまで・・・俺は司を陥れたんだぞ」
確かに俺は今回の件に関しては被害者で理由を聞くくらいの権利は持っているとは思う。だが、はたして被害者は俺1人だけなのだろうか。
「湊も湊で事情があったんだろ?そこを無理に聞いたりはしないよ」
「もっと俺を嫌えよ!」
いきなり立ち上がって感情的な声で俺に言い放つ。
「最初は応援してたんだよ・・・美琴姉から後輩が出来たって聞いて、それが俺のクラスメイトだと知った時はすごく驚いたけど、日を増すごとに美琴姉と司が仲良さそうにしてるのを聞いて、俺は陰ながら応援することを決めたんだ」
ポロポロとまるで今まで言いたかったのを必死に抑えていたかのように湊の口からは言葉が溢れだす。
「でも3学期に席が隣になって、偶然涼風さんと司との会話を聞いた時は耳を疑った。それで、怪しいと思ってその日の放課後に司の後を付けたら2人でここに入って行くのを見たんだよ。すぐにこのことを美琴姉に伝えようと思ったけど、悲しむ顔が見たくなくて話せなかった」
そういうことなら先ほどの美琴先輩がいた状況で、話せなかったのにも納得がいく。
「このことを学校で言いふらせば、復讐にもなるし司と涼風さんとの関係が悪くなって、美琴姉にチャンスが回るんじゃないかって考えた。幸い俺以外にも見たやつがいたそうで、噂の信憑性は一気に増して、思っている以上に話題になった」
「なるほどな。湊は自分の姉のことを第一に考えて、行動した結果だと」
「違う。ただの俺の自己中心的な行動が原因だ。美琴姉は関係ない。あれだけのことをしたんだ、嫌われる覚悟はしてるし、今度は俺をつるし上げたって文句は言わない」
「そんなことするわけないだろ」
「なんでだよ!俺はそれだけのことをしたんだぞ!」
俺だって美琴先輩みたいな優しくて完璧な姉がいたらそりゃシスコンにでも何でもなってしまう。そんな姉が彼女がいる男に誑かされていると知ったら、どんな行動を取るか分からない。
全ては軽率な行動をした俺に原因があったんだ。
「誰でも一緒に家に入って行くところを見れば勘違いしてしまうのも当然だ。それで行動したんだ。俺に咎めることは出来ないよ」
でも、話を聞いているなかで訂正させていただきたい点もある。
「でもな!さっきから話を聞いていればまるで、美琴先輩が俺に気があるみたいな言い方じゃないか!俺が不出来な後輩だから、先輩として仲良くしてくれてるだけだ!」
勘違いしてはいけない。俺は美琴先輩に何一つあげられていない。そんな奴を好きになるわけがないんだ。
「はい???」
俺の訂正を聞いた湊からは特大のクエスチョンマークが飛んできた。
「そんなわけがないだろ。だって、美琴姉が司と会って帰ってきた日の顔なんて・・・」
「ちょっと!まったーーー!!!」
言葉は遮られて、勢いよく俺の部屋の扉が開かれて、慌てて美琴先輩が入ってくる。
「美琴先輩!?」
「美琴姉!? もしかして今までの会話聞いて・・・」
混沌としたこの状況で唯一、ひょっこりと顔を出して、『あちゃー』的な顔をしている遥紀が俺の視界に映った。
146話も読んでいただきありがとうございます。
もうすぐ150話!100話到達時にやらせていただいた、感謝の連日投稿は150話でも準備しています!
次回147話は近日中に投稿致します。
これからも応援よろしくお願いします。




