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すれ違い

「せんぱーい!」


 後ろを振り向くと、俺の後輩である水上希が足を忙しなく動かしながら、こちらに近づいてきた。


「希どうした、こっちまで来て」

「はぁ、はぁ、司先輩帰るの早くないですか?私も終わったらすぐ先輩の教室行ったのにもういないなんて」


 部活に入ってない絶賛孤立中のぼっちの帰宅速度なんてこんなもんだ。


「まぁ、そんなことはいいんです。司先輩は・・・」


 今まで俺と目が合っていた希だが、急に俺から視線を外して隣の瑞希の方を向くと言葉が止まった。

 

「あれ!?黒瀬先輩かと思ったのに涼風先輩だった!お久しぶりです!」

「こうやってしっかりと会うのは文化祭ぶりかしら。久しぶり、水上さん」


 瑞希は流石の切り替えで優等生モードにスイッチを入れた。


「というかなんで、司先輩と涼風先輩が一緒にいるんですか!? まさか本当に付き合って・・・」

「ないから!涼風さんも家の方角がこっちの方でさっき偶然会ったから流れで一緒にいるだけ。友達としては普通だろ?」


 走ってきて気持ちが昂っているのか、気が動転している希を宥めながらもこの状況について説明する。


「・・・そうですよね。そう言う事ならしょうがないですね。すみません取り乱してしまって」


 希は意外にもそれ以上は追及することなく、俺の説明に納得した。


「それで、どうしたんだ?こんなところまで来るなんて」

「あ、そうでした。司先輩、再来週の金曜日って暇ですか?放課後ちょっと時間貰えるだけでいいんですけど」


 再来週の金曜日? 随分と先のことを聞いてくるんだな。


 それに再来週の金曜日の用事の有無を聞くためだけに、走ってこっちまで来るなんて。別に明日の学校で聞いてくれれば良かったのに。


 再来週の金曜日は別にバイトも入ってなかったし、特にすることもなく帰る予定のはず。


「うーん、再来週の金曜日なら特に予定は・・・」

「その日なら私との予定が入っています」


『!?』


 俺が返答している最中に瑞希が割り込む形で俺の予定が埋まっていることを告げた。


 あれ?瑞希とそんな約束をした覚えはない。俺が忘れてしまっているだけなのか?


「な、なるほど。じゃあ木曜日はどうですか?」


「うん、その日は空いて・・・」

「その日も私との予定があります」


 いやいや、2日連続も瑞希と何かを約束した覚えはない。


「う~~~、じゃ、じゃあ土曜日はどうですか?」

「その日も私との予定があります」


 とうとう俺が返事をする前に瑞希が答えてるし。


 というか、木金土って瑞希部活あるじゃねえか。


「ちょいちょいちょい、ちょっと希待ってて」

「はい・・・?」


 俺は瑞希を連れて、その場から少し離れて希から背を向けて瑞希を小声で問い詰めた。


「どういうことだよ?そんな約束してないよな?」

「ねえ司。もうすぐ2月で再来週の金曜日って何の日か分かってる?」


「ん?普通の日だろ?」


 別に祝日ってわけでもないし、何か重要なことあったっけ?


「はぁ~~~、まぁ司がそんなんだから私も助かってるんだけどね」


 瑞希は大きなため息をついて、呆れたように俺を見た。


「なんだよ、そんな重要な用事があるなら言ってくれよ」

「いや、司は知らなくていい。とにかく他の日はしょうがないけど金曜日だけは用事を入れないこと」


 それだけ言って瑞希は希の方に戻って行ってしまった。


「ごめんごめん、やっぱり木曜は空いてるぞ」

「ほんとですか!?」


 希は目をキラキラさせながら聞いてくる。


「ほんとほんと。それで木曜日は何の用事なんだ?」


 事前に聞いてくるということは何かしらやりたいことが決まっているのだろう。


「それは・・・内緒です」


 え、希も内緒なの?なんで2人して教えてくれないの?


 どうせこれ以上聞いたって教えてくれる素振りではなかったので、俺は諦めて聞くことはしなかった。


「希の用事はこれで終わりか?」

「はい!あと司先輩の家にお邪魔したらおしまいです!」


「そうか」

「はい!ありがとうございます!」


「・・・ってちょっと待て!俺の家に来る!?」

「はい!」

 

 あまりに自然すぎて1回流してしまった。


 希は以前俺の家に来たことがあるが、その時は瑞希がいなかった。


 今まさに俺と瑞希で一緒の家に帰ろうとしているところなのに、それはまずい。まず過ぎる。


「いや、ちょっとそれは難しいかなぁ~」

「何か用事があるとかですか?」


「そ、そうかなぁ~」

「そうですか・・・」


 目が泳ぎまくっているだろうけど、希はそこんところは鈍いので気づかれることはなかった。


「じゃあせめて、家の前までは行かせてください」

「まぁ、それくらいなら」


 そこで別れて、少ししたら瑞希に入ってきてもらえばバレることはないだろう。


 そうして、俺と瑞希と希の3人は俺の家の方角に歩き出した。


***


「そう言えば、司先輩今日のお昼休み何してたんですか?」

「今日の昼休み?」


「はい、たまたま見かけたときにはなんだか扉に張り付いていたので」

「あれは・・・情報収集だよ」


 瑞希が『何やってんの?』みたいな目つきで俺を見てくる。


 しょうがないじゃん、気になったんだから。


「なるほど、司先輩って世森先輩と仲良かったんですね」

「ん?そうだよ?」


 いきなり話が飛んだな。


 というか俺と美琴先輩が知り合いなのは希も知ってるはずだが・・・?


「世森先輩っていい人ですよね」

「そうだな」


「私達の学年でも結構人気なんですよ」

「え、そうなのか」


 美琴先輩がうちの学校に来たのなんて文化祭の時くらいなんだが、その時にファンを獲得してるなんて流石美琴先輩だな。


「入学して間もない時に私が教室が分からなくてオドオドしてたら、丁寧に教えてくれたんです」

「・・・・・・ん?」


 入学して間もない・・・?


「学校の場所が分からなくなったってこと?」

「それは流石に私でも分かりますよ!音楽室の場所が分からなかったんです!」


「ああ、ごめんごめん。そうだよな」


 なんでそんなときに美琴先輩が学内にいるんだ?


 それにさっきから希との会話がなんだかすれ違っている気がする。


「司先輩と一緒にいるところ初めて見ました。昼休み一緒に情報収集?してたんですか?」

「・・・・・・」


 今日は美琴先輩とは会っていない。それに昼休みなんて会うはずがない。


 今日の昼休み一緒にいたのは湊だ。


「えーーーと、誰かと勘違いしてるな」


 湊も遠くから見たら女子と見間違えるほど、可愛いからしょうがない。


「今日俺が昼休みに一緒にいたのは世森先輩じゃなくて俺のクラスにいる男子の湊だ」


 俺は希のびっくりする顔を期待していたのだが、希はきょとんとした顔で口を開いた。


「・・・はい。間違えてませんよ?世森湊先輩ですよね?」


 その言葉に俺と瑞希は向かい合って目を合わせた。


「「え!?!?!?」」

143話も読んでいただきありがとうございます。

いつもより少し文字数が多くなってしまい、投稿時間が遅れてしまいました。申し訳ございません。

遂に一度も出てなかった湊のフルネームが明かされました。

これからの展開にご期待ください!

これからも応援よろしくお願いします。

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