ジャーナリズム
俺の願望と裏腹に瑞希はどんどんと突き進む。
「私だけど」
そう答えたのは初めに俺達のノックに新聞部の扉を開けた女子生徒だった。
「ああ、内田さんだったのね」
同じクラスではないが、同学年のため瑞希は一応の面識はあるようだった。
俺も名前だけは聞き覚えがあった。
内田彩夏 話題のためならどんな内容でも新聞にする問題児だと。
「他の部員はどうしたんだ?」
遥紀がそう疑問を呈す。
確かにクラスの女子によると今日は活動日らしいし、新聞部員だって少なからずいる。
活動日の放課後にも関わらず部室に内田さんただ1人と言うのは少し不自然だった。
「今朝の新聞の一件でちょっとお叱りを食らってね。少しの間部活動の停止を言い渡されたの。私は私物を取りに来ただけ」
「あぁ、そうだったんだ」
カチコミに来たはずなのに、なんかこっちが申し訳なくなってしまった。それに、こっちは3人で来ているのに、新聞部には内田さんただ1人。
なんか構図だけ見たら俺達が悪者になってしまっている気がする。
「気にしないで。別に停部なんて初めてじゃないし、こんなんでへこたれてたら新聞部は務まらないから」
「ちょ、ちょっと話をさせて貰えない?」
完全にさっきまでの勢いをなくした瑞希だが、何とか態勢を整えて内田さんに話しかける。
「いいわよ。ちょうど直接取材させて貰いたかったところだから」
あれ、部活停止中だよね?取材しようとしてるの?
なんともジャーナリズム溢れる生徒らしい。
俺達は案内され椅子に座ると、正面に陣取った内田さんに早速質問を投げかける。
これ以上瑞希に喋らせると本当にボロが出かねないので、率先して俺が声を挙げた。
「まず今朝の新聞はどういうこと?」
「どういうこととは?」
内田さんはあくまで悪いことはしていないと言わんばかりの威勢で聞き返してくる。
「なんであの事を記事にしようと思ったんだ?」
「この学校の1番の人気者、涼風さんが唯一男子と個人的な関りがあった。それは本人から言ったことだし、それだけじゃ見出しとしては弱いから、記事にするつもりはなかったわ」
「じゃあなんで」
「でも、その唯一の男子が他の女子の家まで行っている写真を手に入れた。そこまでされちゃ記事にするしかないと思った。それだけ」
すかさず俺は反論する。
「そもそも俺と涼風さんは付き合っているわけではないし、その女子とも交際しているわけじゃない。完全にデマだ」
「私は記事を断定形ではなく疑問形で書いたし、根拠としての写真を載せただけ。嘘はついていない。あとは読者がどう思うかってだけよ」
すっぱり内田さんはそう言い放った。
実際俺も非がなかったわけではない。学校で騒がれている時期だったのに迂闊に美琴先輩を送ってしまった。
確かに傍から見たら誤解されるような状況を作ってしまっていた。
なのでそれはとりあえず良いとして、今回の件で俺が1番気になっているのはなぜこの記事を書いたかとは別のことだった。
「あの写真はどうやって撮ったんだ?完全に学外だし、尾行していない限りそうそう撮れる写真じゃない」
俺が1番気になっているのはこのことだ
初めは記事にするつもりはなかったと言う以上、尾行していたという線はもっと薄くなった。それなら本当にただの偶然なのか?
「あの写真ね。そもそも今回の一件は私が画策したものじゃないわ」
「!?」
「今回のきっかけになったあの写真は私達、新聞部が撮ったものじゃない」
「じゃあ誰が?」
「涼風さん達も新聞部を訪れる前に目に入ったはずよ。入口にあるリクエストボックスに」
確かにそのものがあるのは知っていた。
「1週間前くらいに私がそれを開けて中を見ると封筒が入っててね。そこには今回新聞に掲載した2枚の写真が入ってた。『早乙女司は浮気をしている』って文章と一緒にね」
「なっ・・・!?」
「そこには律儀に名前なんて書いてなかった。今回のことは全部その情報提供者が企んだことなの。私は話題性のある記事になると思ったからそれに乗っただけ」
初めに俺と瑞希のことが学校で噂になった時も元凶は佐々木さんではなく、違う人物だった。
記事ではなく噂として回っていたため、新聞部の仕業ではないだろう。
そして今回の情報提供者。おそらく同一人物と考えていい。
でもあの日は尾行されている気配は感じなかったし、それにしては俺と瑞希、美琴先輩について詳しすぎる。
一体誰が・・・?
とにかく内田さんはその情報通りに記事を書いただけだし、元凶は他にいる。
そのことを知れただけでもカチコミに来た甲斐はあっただろう。
「分かった。話をしてくれてありがとう。出来ればもう俺達については新聞にしないでくれると助かるよ」
それだけ言って俺は立ち上がって、退出しようとすると、慌てて立った内田さんに手を引っ張られた。
「まだ私の取材が終わってません!涼風さんではないもう1人の女子とも付き合っていないと言ってましたが、それならなぜ空も暗くなっている時間なのに相手の家まで行っているのですか!?」
「え、えっとー」
助けて!
内田さんのジャーナリズム魂に火がついてしまったようだ。
俺は慌てて瑞希と遥紀の方を向いて、助けを求める。
それなのに2人は俺の助けなんかガン無視で席に座って微動だにしない。
「おい!味方じゃなかったのかよ!」
141話も読んでいただきありがとうございます。
もうそろそろこの編もクライマックスです!
真実と2人の行動をお楽しみに!
これからも応援よろしくお願いします。




